第二話 異世界転移
数ある作品の中から興味を持っていただき、本当にありがとうございます!
「・・・こうして、魔王の奇襲を退けた勇者たちは、世界を救うべく魔王を討つ旅に出かけたのでした。
.........えっと、これでおしまいです。 ご清聴ありがとうございました........。」
「「「「「「「「 ...............うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!! 」」」」」」」」」
話し終えて僕がぺこっと頭を下げたとたん、前方から鼓膜が破れんばかりの雄叫びが響き渡った。
男の人も女の人も関係なく盛り上がり、ハイタッチをしている人までいる。
部屋じゅうぎゅうぎゅうに騎士団のみなさんが敷き詰められているせいか、熱気がすさまじい。
(...........なんで、こんな状況になったんだろう.............?)
さかのぼること、およそ30分前。
ナキシーさんのことを呼びに来た騎士団の人たちも僕のマンガの読み聞かせに聞き入ってしまい、ナキシーさんと一緒になって職務放棄をしていた。
ミイラ取りがミイラになってしまった同僚たちを注意するべくして訪れた他の騎士団の人たちもどんどんどんどん現れ、気づけばこの部屋中にぎっちぎちになるほどの騎士団の人たちが集まったのだ。
「........よくやったぞっ!!! 勇者っ!!!! さすが私の見込んだ男だっ!!!!」
「....オイオイ見たかよさっきのあの魔王の顔!!! 勇者に一発入れられて本気で焦ってたぞ!!!!」
「.......しっかし勇者いい男だったなぁ!!! こりゃあ魔術師のねえちゃんが惚れるのも無理ねえよ!!!!」
「........生前の勇者を葬ったあの “ とらっく ” とやらはナニモンなんだ? 何やらメタル系の大型魔物っぽいけどよォ..........」
「........なるほどっ...... そのモンスターを調べれば、勇者さんとタヴァータさんの故郷がわかるかもしれませんっ!!!! わたし、調べてきますっ!!!!」
未だに興奮冷めやまない雰囲気のなか、騎士団のみなさんが思い思いに感想を語り合っている。
こんな大勢の前で話をすることなんて初めてだったから、とっても恥ずかしかった.......。
けど、みんなに楽しんでもらえたようでとっても嬉しい気分だった。
「.....これだけ情報があれば、きみの故郷もわかるはずだ。さっそく、調べてくるとしよう!!」
「.......わ、わたしも手伝いますっ!!!!」
「......俺達も手伝いやすぜっ!!!!」
「.......ありがとうございますっ!!! よろしくお願いしますっ!!!」
ナキシーさんとその部下の方々が、僕の故郷さがしを手伝ってくれるようだ。
僕は光悦とした表情で、自分の部屋に戻ってゆっくりしようとしたのだが........
「.........なあなあ、さっきの話ってタヴァータ君とこの故郷に伝わる話なんだろ!? 続きあったら聞かせてくれよ!!!!」
「.........ところで、タヴァータ殿は魔術師ちゃんと武道家ちゃんのどちらが好みですかな? 拙者としては、胸が大きい武道家ちゃんを推したいのですが..........」
「........ちょっと! タヴァータくんはまだ小さいんだから、そんな話しちゃだめよ!!!」
「.......うるせえ! ちんちくりんは黙ってろ!!」
「.......なんですって!!? 私これでも大きいほうなんだからね!!?」
「........あはは............」
騎士団の人たちが、かわるがわる僕に質問してくる。
興味を持ってくれるのは嬉しいことだけれど、この人たち、圧がすごい........。
「.......ほんと、男ってガキばかりでやになっちゃう。」
「...でも、タヴァータ君って若いのにそんなにハキハキと話せてすごいわねぇっ! 今いくつくらいなの?」
「.......おいおい、年なんてどうでもいいじゃねえか。どうせ覚えてねえよそんなもん。」
「.......そのくらい覚えていますよ。 今年で中学2年生になるので、13歳です。」
「「「「「「「「「「「 .................................へ? 」」」」」」」」」」」
「.........え.......?」
あれだけ騒がしかった部屋の中が、一瞬にして静まり返る。
(........まずい、なんか変なこと言っちゃったかな!!?!?)
「........うそーっ!!? しっかりしてるし、もう100歳は超えてるのかと思ったぁ!!!」
「.......13!!? 嘘だろ!!? 130じゃなくて!!?」
「.........え、いや、あの.........!!?」
この人たちは何を言っているんだろう?
人間なんだから、そんな100歳も生きられるわけないじゃないか。
てか、外見見ればそのくらいわかると思うけどなぁ...... 確かに、同年代の中じゃあちびだけど。
「.......え、待って!!? もしかして、タヴァータ君の種族ってエルフか小人族じゃないの!?!?」
「...え、普通に人間ですけど...........」
「「「「「「「「「「「 ....人間んんんんんん!?!?!?!? 」」」」」」」」」」」
なんなんだろう、この人たち........?
僕なんて、どっからどう見たって人間だろう。
.......まあ、さっきブタみたいな人や狼男もいたけど。結局あれなんだったんだろう。
「......すっげぇ!!!! 俺初めて見たぁ!!!!!」
「........ていうか実在したの!?!? すごい、かわいいっ........!!!!」
「.....人間なんて名前、神話以外で初めて聞きましたぞ.......」
騎士団の人たちが、目を丸くさせながら興奮気味に話している。
「.......え、えっと.............」
(.........どうしよう.......何かまずいこと話しちゃったのかな.........?)
「.......なあ。 タヴァータくん。
.............君が人間ってこと、本当のことなのか?」
「...........えっ.......!?」
僕が振り返るとそこには、神妙な表情で立ち尽くすナキシーさんの姿があった。
「......場所を変えよう。」
そういってナキシーさんに言われるがまま着いていくと、大きな部屋に案内された。
「ここは私の部屋だ。ここなら邪魔は入らないだろうさ。」
そう言いながらドアを開け、ナキシーさんがこっちにおいでと手招きをしてきた。
(.......女の人の部屋に入るの、初めてだなぁ........)
僕のひそかな緊張など気にもとめず、ナキシーさんが少しつらそうな笑顔で僕に話す。
「........その辺に、適当に腰掛けてくれ。」
「......はいっ........。」
「.........はは、さっきの話、すごく面白かったぞ。あれだけ興奮したのは久方ぶりだっ.......
鎧、脱いでもよいだろうか.......?」
「......は、はいっ!!!」
ナキシーさんが、少しおどけたように笑いながら鎧を脱いでもよいか尋ねる。
きっと、緊張している僕を少しでも和らげるためにしてくれたのだろう。
「........んっ......ふう。 涼しいな。
.....汗をかいてしまったよ。 タヴァータくん、そこの布を取ってくれないか?」
「..........は、はいっ!!!!!」
(.......う、うわぁっ.....!!! ナキシーさん、すっごくスタイルいいなぁ........!!!)
ちらりと目に入る、薄い衣服を突き上げる大きな胸と引き締まったお尻。
そんなシュッとした体に、きれいな金髪の髪と純白の肌がなんとも美しいコントラストを描いていた。
心のなかでどぎまぎしながら、ナキシーさんにタオルを渡す。
「.........ありがとう。」
ナキシーさんが、つらそうな表情でほほえむ。
「............きみに、伝えなければいけないことがある。」
ナキシーさんが、言葉を絞り出すように声を出した。
「.......きみの故郷は “ ニホン ” という国だそうだね。」
「.......はい、そうです。」
「.......この世界には、そんな国は存在しない。」
「........えっ........!!?」
「.......最初は、私もなにかの間違いだと思ったさ。 今までの空間のゆがみによる事故は、すべてこの世界の中でしか起き得ないことだったのだから。
.......だけれど、きみが人間だという話を聞いて、すべて合点がいってしまったんだ。」
ナキシーさんが、声を震わせながら話し続ける。
「.......この世界に、人間という種族は存在しない。 ......だから、きみにとってここは異世界なんだ。」
「い、異世界ぃぃぃぃぃっ!?!?!?!?!?!?!?」
異世界。
いせかい。
(......えっ、ここって異世界なの!?
それってあの、マンガやアニメ、ゲームに出てくるあの!?!?!?
じゃあぼく、異世界転生しちゃったってこと!!?
あ、でも、死んではいないから転生ではないか。
あぁー、なるほど!!!! だからエルフとか言ってたり、ブタみたいな人や狼男がいたりしたんだ!!!
なるほどなるほどなるほどーーーーーーーーっっっ!!!!!!)
「.......おかしいと思ったんだっ......!!! エルフにしては魔力もまったくないし、言葉は通じないし体も病弱だしっ.........!!!
........私が身体強化や自動翻訳の魔法をかけていなかったら、今ごろどうなっていたのかっ......!!!!」
(あーーーーっ!!! なるほどーーーっ!!!!!
僕がナキシーさんたちと言葉が通じるのも、すべて魔法のおかげなんだっ!!!!
そういえば、この世界に来てからぜんぜん体調も悪くないやっ!!!
身体強化の魔法って言ってたし、きっとそのおかげなんだ!!!
すごいやっ!!!! もうずっと家の中にいなくていいし、友達と外でいっぱい遊べるかもしれないんだっ!!!!!! 異世界サイコーーーーーーーーーー!!!!!!!!!! ふぉーーーーーっ!!!!!)
言葉を絞り出すように話すナキシーさんをよそに、心のなかでテンションがぶちあがる僕。
そんな僕の心境など知る由もなく、ナキシーさんが心底つらそうに話す。
「........今、この世界では、まだ異世界へ行く手段が確立されていないっ.........!!!!
だからっ........ きみはもう、もといた世界には二度と帰れないんだっ..........!!!」
(..............そっかぁ。)
ナキシーさんの言葉を聞き、胸がちくりと痛む。
(.........そっか。 もう父さんと母さんに会えないんだ。
.....ぜんぜんかまってもらえた思い出ないけど、もう二度と会えないのは.............さみしいなあ。
........それに、僕が大好きなアニメやマンガも、もう見れなくなるのかぁ...........それは、やだな。
でも、まあ異世界転移ってそんなもんだよなぁ。)
心のなかで、嬉しさや楽しさ、開放感と寂しさがごちゃまぜになる。
僕が感傷にふけっているととつぜん、僕の胸いっぱいにいろんな感覚が伝わってきた。
「..........!?!?!?!?!? な、ナキシーさんっ!!?!?!?」
僕の胸のあたりに感じる、あたたかくてやわらかい感覚。
僕の背中いっぱいに広がる、ぎゅうっと抱きしめられる感覚。
「.........なななな、ナキシーさんっ!?!? いきなりどうし.........」
そして、僕の胸ごしに伝わる、ナキシーさんの肩が震えている感覚。
「........ナキシーさんっ...........どうして、泣いて...........!!!」
「........きみはっ.......ぐすっ........もう、二度と会えないんだっ!!!!
お父様にも、お母様にも、お祖父様にもお祖母様にもお友達にもっ!!!!!」
「...................」
「.......私も昔、その事故に巻き込まれてっ.......!!! 家族みんなと離れ離れになってっ.......!!!
ひとりぼっちでっ.........ずぅっとさびしかったんだっ........!!!!
だからっ.......きみの、無念な思いは、痛いほど伝わってっ......ひぐっ.......えぐっ........!!!」
「..........そうだったんですか。」
「........それもこんなっ.......まだ10年かそこらしか生きていないようなきみにっ.........ぐすっ......ひぐっ.....
.........あんまりだぁっ..........!!!!!」
「....................。」
「.............っ........ぐすっ.......ひぐっ........えぐっ.......!!!」
ナキシーさんのすすり泣く声が、静かな部屋にひびく。
僕のために涙を流してくれるなんて、なんて優しい人なのだろう。
「..................僕の故郷に、こんなお話があるんです。」
『.......ある人間の少女が、ひょんなことから全く別の異世界に迷い込んでしまうんです。
その女の子はまだ10歳で、僕よりもずぅっっっと年下なんです。
それなのに、醜い怪物の姿になってしまった両親を助けるべく、健気にその世界で働いて、生きていくことを決めるんです。
どんなに意地悪なことをされても、どんなに理不尽な目にあっても。
どんなにさびしくても、どんなに苦しくても、ぜっっっっっったいに諦めないんです。』
「..........僕は、その女の子みたいになりたいです。
なので、僕は絶対に諦めません。 どんなにつらくても苦しくても、この世界で生きていきたいんです。」
「............そうか..................。 きみは、とっても強いんだな........。」
ナキシーさんが、涙にぬれた瞳で僕に優しいまなざしを向ける。
その表情は、僕が今までに見たことがないくらいに.........優しいものだった。
「...........それに、ナキシーさんは先程、 “ まだ ” 異世界へ行く手段が確立されていないって言いましたよね.....?
だったら、僕がなんとしても異世界へ行く方法を見つけ出してみせますよっ!!!!」
「......空間のゆがみによってこっちに迷い込んだのなら、同じ方法で帰ることもきっとできるはずですっ!!! それに、詳しい仕組みがわかれば、ナキシーさんも故郷に帰れるかもしれませんっ!!!」
僕の言葉を聞いたナキシーさんが一瞬驚いて目を丸くし、その後ふふっと笑った。
「...........本当に、きみは強い子だなっ........!!」
ナキシーさんが、まるで小さな子供を愛でるように僕の頭をやさしく撫でる。
少し恥ずかしく、むずがゆくてとてもあたたかい空間が、僕ら二人の周りに広がっているのを深く感じた。
読んでいただきありがとうございました!!
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