第十五話 とらわれのヴィーラムさんと僕の覚悟
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「...........いやぁーーー...........ひっく.......旦那ぁ..........。 お見苦しいトコを見せて、すんません。」
ようやく泣き止んだヴィーラムさんが、泣き腫らした顔でにへらと照れたように笑った。
涙に塗れた長いまつげとうるんだ瞳が、綺麗で美しい顔立ちを十二分に引き立てて.......思わず目を逸らしてしまった。
「...........あーし、実はここに来てはじめてまともな飯を食べたんです。
それがあまりに美味しくて、あったかくて、やさしくて....................っ.........!! すいやせんっ....。」
聞くところによると、ヴィーラムさんがここに連れてこられてからの約一ヶ月、何も口にできなかったらしい。
ずーっと水分だけ取らされて、決して死ぬことがないように首輪から直接栄養を送り込まれているのだそうだ。
この結界の中にいるものには、一切の魔力と筋力が失われる代わりに常時回復効果が付与される。
どれだけ苦しめられても、どれだけ痛めつけられても.............
怪我や病気で死ぬことは許されず、ただエルフの長い長い悠久の時を、この部屋とともに朽ち果てるまでずーっと過ごす。
それが今の自分に与えられた罰だ...........と、ヴィーラムさんが乾いた笑いとともに言い放った。
「............だから、あーし..........こんなに優しくされたの、ここにきて今日が初めてなんでさぁ。
最初は毒でも盛られたのかなって思いやしたけど、心優しい旦那がそんなことするかって..........思って...........!!!!!」
ヴィーラムさんが話しているうちに、声がどんどんと震えているのがわかった。
きっと、僕がここに来るまでの1ヶ月間..........相当ひどい目に合わされてきたのだろう。
「........おっと、すいやせん。 旦那にゃあ退屈な話でしたね。
ちぃとばかし待っていてくだせぇ。」
ヴィーラムさんがハッと我に返ったように僕の顔を見上げるように顔を上げ、いそいそと自分のまとっているボロ布を脱ぎ始めた。
「........ちょっ........!?!?!?!?!? なななな、何してるんですか!?!?!?!?!?!?」
ヴィーラムさんの大事な部分が見えそうになり、僕の顔が真っ赤になってあわてて目をそらす。
全身をかけめぐる血が沸騰したように熱くなり、心臓が暴れ狂っている。
そんな僕の様子を気にもとめず、ヴィーラムさんがけろっと言い放った。
「...........なにって...........旦那があーしのことを喰べやすいように、下ごしらえしてるんでさぁ。
煮るもよし、遊ぶもよし、叩くも斬るも炙るもよしの優れもんですぜ。」
乾いた笑いとともに、ヴィーラムさんがどんどんと身にまとったものを解き放っている。
「...........みんなして、僕をなんだと思ってるんですか..........!?!?!?
僕はそんなことをしに来たわけじゃないですよっ!!!!!!!」
僕がひどく赤面したままあわてて制止すると、ヴィーラムさんが心底不思議そうに首をかしげた。
「...........するってーと、旦那は何しにここに来たんですかぃ?
まさか、ただあーしに会うためだけにわざわざ出向いたわけじゃないですもんね.........?」
「........はい。 それもあるんですが、ヴィーラムさんに1つ聞きたいことがありまして...........」
訝しむヴィーラムさんをよそに、僕がここに来た本当の理由を話し始めた。
「...............なるほど......なるほどねぇ.........。」
僕の話を聞き終えたヴィーラムさんが、納得したようにうんうんと首を縦にふる。
僕がここに来た理由........それは、僕をさらうときにヴィーラムさんが使っていた空間転移魔法についてだ。
僕がこの世界に来た空間の乱れと同じ原理のものであるなら、僕やナキシーさんがもといた場所に帰れるようになると思ったのだけど.................
街の誰に聞いても “ そんな魔法は知らない ” と言われてしまったのだ。
なら本人に聞いてしまおう! ってことで、ここにやってきたというわけだ。
「........トクベツに教えてあげてもいいですが、ちょーっとあーしの身の上話を聞いてくだせぇ。」
ぼくが黙ってこくこくとうなずくと、ヴィーラムさんは静かに話し始めた。
「............今から1000年くらい前でしたかねぇ.............。
当時はまだ.........あーしは今の旦那くらいちぃちゃいクソガキでして。
あーしは昔っからなんでもすぐ欲しがっちまうクセがありやしてね。 欲しいモノはどんな手を使ってでも手に入れないと気がすまなかったんでさぁ。」
昔を思い出すように遠い目をしているヴィーラムさん。
今も昔も変わらないなと心のなかで思うなか、ヴィーラムさんがにへらと笑いながら話を続ける。
「........そんな性分だったもんで、街の人達からも.......実の親にも見捨てられちまいましてね。
家を追い出されてとぼとぼと歩いていると、あーしの目の前にいきなりとある女が表れたんでさぁ。」
「.........いきなり表れたってことは..........その女性も空間転移魔法を使えたんですか?」
「そうですぜ。
その女は薬や魔法の研究を狂ったようにしまくっているイカレ女でしてねぇ。
俗に言う.......魔女ってやつでさぁ。」
魔女.......。 この世界にも、そのような存在がいるのか。
心のなかでがっつりと興味を惹かれている僕をよそに、ヴィーラムさんはまたもや語りはじめる。
「............その女は.......何を思ったのかあーしを家に連れてってくれやしてねぇ。
飯や寝床を提供してくれたり、薬学や魔法学をあーしに教えてくれたりした...........
いわば、あーしの育ての母親なんでさぁ。」
ヴィーラムさんが、目を細めて懐かしさを噛みしめるように言った。
「.............なるほど。 その方に、空間転移魔術を教わった............ってわけですね?」
「その通りですぜ。
ですが..........その魔法は構造が複雑かつ膨大な魔力が必要なもんで、明確に使いこなせるのはその女くらいなモンです。
あーしでさえ、今いる場所とあらかじめ設定しておいた拠点の転移箇所の移動くらいしかできねぇんです。」
ヴィーラムさんが僕にそう告げると、彼女はなにか思い悩んだような顔でつぶやいた。
「.............詳しいことはその女に聞いてほしいんですが..............
その女はおそらく今も “ 東の摩天楼 ” に引きこもってると思うんで、こっからじゃ相当遠いですぜ。」
「.......ちなみに、ここからどれくらい離れているんですか..........?」
僕がおそるおそるヴィーラムさんに尋ねると、彼女はくぐもったような口ぶりでぼそっと答えた。
「...........徒歩じゃあ、ざっと3ヶ月ってとこですかねぇ.........。」
「.......そ、そんなに...........!?!?!?」
僕の顔がさぁっと青ざめる。
「............あーしも、かつて夢だった商会を立ちあげるためにこの国へ来て300年くらい、一度も 会えてねぇんです。
ずっと顔見せに行きたかったんですが、商会がデカくなるにつれてどんどんそんなヒマも余裕もなくなってしまいやしてねぇ.........。
..........まあ、もうここから出られなくなったので二度と会うことは叶いませんがね。 あはは...........。」
そういって、ヴィーラムさんが心底無念そうな表情をしたあと、強がるようににへらと笑いながら答えた。
空間転移魔法のことを詳しく知るためには、約3ヶ月もの時間をかけて“ 東の摩天楼 ” という場所に行かなければならない。
体の弱い僕がそんな長旅をするなんて、とうてい出来るとは思えなかった。
...............でも。
...............それでも。
僕が元の世界に帰れる方法がわかるかもしれない。
そうしたら、僕やナキシーさんみたいに空間の乱れによる事故によって帰れなくなってしまった人を助けられるかもしれない。
一生結界の外へ出ることができなくなったヴィーラムさんの様子を、育ての親である魔女さんに伝えられるかもしれない。
この王都で奴隷だった子どもたちに夢と希望を与えることができたように、他の地域の人たちにも “ まんが ” の力で夢と希望を与えられるかもしれない。
そんなたくさんの希望がありながら何もせずにただ生きていくなんて、僕にはできなかった。
「...................決めましたっ!!!!!!!」
「.........おわっ!?!?!?
........旦那、いきなりどうしたんですかぃ.............!?!?」
僕がいきなり大声をあげ、それに驚いたヴィーラムさんが目を白黒させる。
そんな彼女をよそに、ぼくははやる気持ちをおさえて声を張り上げた。
「...........僕、旅に出ます!!!!!!
“ 東の摩天楼 ” へ行って、その魔女さんとお話したいんです!!!!!!!」
「..........旦那.....................正気ですかぃ...........?」
ヴィーラムさんが、呆気にとられたように目をぱちくりさせる。
確かに、か弱い人間の僕にはとっても過酷な旅になるだろう。 しかし...............!!!!
「.........はいっ..........!!!!
空間転移の魔法を詳しく知ることができれば、僕と同じように空間の乱れによって帰れなくなってしまった人たちを助けられるかもしれませんっ!!!!!!!
............それに、魔女さんに “ ヴィーラムさんが会いたがっていた ” って、伝えないといけませんからね!」
僕が自信満々にそう言い終わると、ヴィーラムさんはぽかんとした表情でぼーっと僕のことを見つめたあと...........
「..................ぷっ..........あはっ.............あははははははははっ...............!!!!」
盛大に、お腹をかかえて笑いはじめた。
「........な、なにがおかしいんですかっ!!!!!」
僕が顔を真っ赤にして怒ると、同じく顔を真っ赤にして笑いころげていたヴィーラムさんが涙をぬぐいながら答えた。
「.............いやー、自分の都合よりも人を助けるため..........なにより、あーしなんかのために旅に出るってぇのが、お人好しな旦那らしいやって思いましてねぇ.........!!!!」
そうやって心底楽しそうに話すヴィーラムさんが、神妙な面持ちで僕に話しかける。
「........旦那ぁ。 ちぃとばかし........手ぇ、出してください。」
いつになく真剣な表情のヴィーラムさんに内心ドキッとしつつも、素直に言われた通り右手をヴィーラムさんの方へ向けて差し出す。
「.......は、はい......................................っ!?!?!?!?!?!?!?!??!?」
その手をヴィーラムさんがむんずと掴んだかと思うと、いきなり僕のてのひらをヴィーラムさんの左胸にぐいぃーっと押し当ててきたのだ。
ふいに伝わるふにゅんとしたやわらかい感触に、僕が真っ赤になりながらあわててヴィーラムさんの胸から手を離す。
「..................ななななななななななな、何してるんですかいきなり!?!?!?!?!?!?!?!?」
動揺に動揺をしまくっている僕をよそに、ヴィーラムさんが冷静に僕に告げる。
「.......旦那ぁ。 ちょいと、右手のとこを見てくだせぇ。」
「.....................あっ!!!!!」
先ほどヴィーラムさんの左胸に触れた右手を見てみると、なにやら手の甲にまがまがしい紫色の紋様が浮かび上がってきていた。
「.......心臓から直接、あーしのめいっぱいの魔力を注いで空間転移魔法の紋様を刻んでおきやした。
これで、いつでも好きなときに事前に決めた転移箇所へ帰れるようになりやしたぜ。
.........旅のなかで危険を感じたときに、お使いくだせぇ。」
そういって、ヴィーラムさんがにへらと笑った。
「.............ありがとうございますっ!!!!!!!!!」
僕がせいいっぱいの笑顔で大声でお礼を言う。
これがあれば、少なくとも旅先で野垂れ死ぬようなことはなさそうだ!!!
「............旦那ぁ。 どうか........どうか、ご無事でいてくださいね...........!!!!!」
ヴィーラムさんが真剣な表情でそう僕に告げたあと、僕の右腕を両手でぎゅっと掴んだ。
ここまでサポートしてくれたのだ。僕も、なんとしても空間転移魔法をマスターしないと!!!!!
「..........はいっ........!!!!!!!!!!!!!!」
僕は、覚悟をがっちりと決め、いまできる最大級の大声を出して返事をした。
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