夕暮れのドラッグストア
「今日は少ないな……」
近所のドラッグストアでアルバイトをしている私は、店内を見渡してつぶやいた。
もう秋の夕暮れだというのに、ムシムシと暑いからだろうか。買い物客は驚くほど、まばらだ。
店内にデカデカと掲げられている時計を見る。まだ17時か……。
閉店まであと2時間もある。
「これ、補充」
店長がやってきて、私の横に小さい段ボールを1箱、置いて行った。ご苦労様くらい言えないのか。相変わらず愛想のない店長だ。
私がバイトを始めて1年間、店長のプライベートは一切垣間見えない。30代半ばということくらいだ。
きっと、いや絶対、結婚はしていない。
面倒だと思いつつ、私は段ボールを開けた。
「え?」
私は我が目を疑った。
けん玉が入っているのだ。
袋に包まれた新品の、真っ赤なけん玉。5・6・7……10個以上入っている。
けん玉って売ってたっけ?
私はけん玉の入った段ボールを抱え、店内を歩き回った。
お菓子コーナー……? には置いてないか。
文房具コーナー…… でもないのか…。
掃除用品?…… な訳ないよな…。
まさか赤ちゃん用品!?ってことは……やっぱりないよな……。
レジ担当のパートさんに、けん玉の売り場を聞くしかない。しかし、知り合いらしき客と話がはずんでいる。終わる気配がない。仕方ない。自力で探すか……。
ヘアケア用品? イヤイヤ、そんなバカな……。
「ごめん! 間違えた!」
焦った様子で、店長が私に向かって走って来る。
「それ、オレの私物」
私が持っていた段ボールを、サッと取り上げ、耳を赤くして店長は踵を返した。
「私物!?」
私は思わず大きな声を出した。
「あー、うん。今晩のイベントで使う予定なんだ」
店長は頭を搔きながらゆっくりと振り返った。頬が赤く染まっている。
「イベント……それ、私も参加できますか?」
「え?」
店長は目を丸くして私を見た。
「私、マイけん玉持ってますよ!」
笑顔の私。その耳には、赤いけん玉のピアスが光っていることだろう。