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魔王と呼ばれた男  作者: あき
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不死身の男

しばらく魔女の森の家での生活が続きます。

9 不死身の男


 「トール? トールなの?」


 困惑した表情のゲルダがこっちを見ている。体が溶けて何も聞こえなくなり見えなくなった時は、黒こげになった時を思い出した。あわてて元に戻らないと、と思ったら・・・体が元に戻っていた。せっかくゲルダに作ってもらった服は戻らなかったが・・・けがもなく、素っ裸で立っている僕がいた。


 「うあ~、びっくりした。本を見るときは気をつけないと・・・」



 しばらく呆然としていたゲルダだったが、納得したように・・



 「そう言えば・・・真っ黒焦げになっても死ななかったもんね。でも今の再生力は・・・はやすぎよ。体が溶けた瞬間に元にもどったわよ。」


 「う~ん。うまく説明出来ないんだけど、なんかもっと大きな体があって、指が無くなっても一瞬で生やせる感じ??説明が難しい・・。」


 「なんか取り乱した私が馬鹿だったわ・・・。あなたならこの家の本どれを読んでも平気ね。」


 疲れ切った様子のゲルダは、本をちゃぶ台に投げて座り込んだ。


 「なんだその危険な本は?」


 「これは昔、次元を跨ぐことが出来た魔人が書いた本よ。何万年も前の魔人で、すでにこの霊界にはいないから、きっとさらに上の霊界に転生したと思うの。この本みたいにこの世界の理に関係する本を読むには、神様の許可が必要なの。」


 「許可?」


 「魂の理解度が低い人が読むと、呪われるの。本の内容が理に近いほど・・・もしくは読んだ人の理解度が低いほど呪いは大きくなるわ。」


 「一瞬で体が溶けるなんて、本がやばいのか、僕の理解度が低いのか・・」


 「きっと両方ね。だってまだ魔法つかえないもの。私がここに閉じこめられてから書いた本は、理に触れた物が多いから読まない方がいいわよ。1階の×がない本部屋に初級の魔法書を移してあるから、そこの本はたぶん読んでも平気よ。まぁ、あなたには呪いは関係ないけどね。ふふ。」


 うーむ。この世界は怖いな。魂を理解しないとすぐ死にそうだ。ふとそんなこと考えていたら・・・


 「大丈夫よ。許可が必要な本なんて、この霊界にはほとんどないから。あっても厳重に保管されてるわよ。」


 そんなことを言いながら、空中でたくさんの葡萄に似た果物を絞っているゲルダ。勝手に頭の中を覗かないで欲しいが・・・、そんな本がなんでここに何千冊とあるんだ???


 「私は、この霊界を支配しかけた魔法使いよ。何千年もかけてこの霊界の本を集めまくったわよ。それに半分は私が書いた本だし~。」


 葡萄の汁をコップに移し、なにやら手をかざしているゲルダ。


 「たぶん神様は、私と一緒にこの沢山の本も封印したかったのよ。もしかしたら、世界を支配しようとしたから封印されたのではなくて、大量の本を集めたから封印されたのかもね。おかげで、ゆっくり本が読めてよかったけどね。」


 ねっとりしたような甘味なにおいがしてきた・・・


 「やっぱり魔法で発酵させるのは難しいわ。時間かけて発酵されたお酒の方がうまいわね。・・・・でもこれでやっと落ち着いたわ。」


 コップの中のお酒を飲み干すと、一息ついたゲルダはにっこり微笑んできた。そして、一番手前の生活用の消耗品が入った物置から布を持ち出し・・・・空中でハサミと針と糸が縦横無尽に動き回ると、僕の服ができあがった。



 新しい服に着替えていると、お酒?で顔を赤らめたゲルダが近づいてきた。


 「ねぇ~、トール。お願いがあるの。」


 2cmぐらいの宝石をじゃらじゃらとちゃぶ台に置くゲルダ・・・


 「この魔石に魔力を込められる?」


 「なんだ?魔力を込めるって? 僕はまだ魔法使えないよ。」


 「大丈夫よ~。魔法使えなくても。空間に穴を開ける感じで、体の魔力を石に押し出すのよ。やってみて♪」


 僕は魔石を一つ手に取ると、体中の魔力?を石に押し込めるイメージでふんと力を入れた・・・



 パリーン!!   魔石が弾け飛んだ!



 「うそ~!魔石が一瞬で弾けるなんて・・・。今度は少しずつ込めるイメージでお願いできる・・・?」



 「いいけど・・・この魔石ってなんだ?」


 「これはね、簡単にいうと魔法の電池よ。中の魔力を少しずつ使って魔法を使うことができるの。冷たい部屋も竈もこれを使っているわ。」


 今度は少しずつ魔力を押し出すイメージでやってみた・・・魔石は少しずつ光を帯びてきて・・・・


 ビシ・・・    ヒビが入った。



 「僕には、魔力の微調整は難しいみたいだ・・・」


 「たぶん違うわ。魔力量が多くてこの程度の大きさに収まらないのよ。この大きさの魔石でも作るの大変だったのよ。魔力を沢山溜めて、この次元の中心部で次元の圧力を利用して濃縮したのよ。」


 「魔力を濃縮すればいいのか?」


 僕は、両手の手のひらを合わせ、体中の魔力を集めるイメージで魔力を込めた。


 「無理よ~。いくら魔力があっても、膨大な圧力も必要よ。この次元の中心部みたいに・・・・・・・」


 言いかけたゲルダの言葉が止まった。僕の両手の間から光が漏れ始めたからだ。20cm程になった光の塊をぎゅっぎゅっとおにぎりを握る要領で固めると・・・やがて光が収まり、10cmほどの大きさの宝石っぽい石ができた。


 「すごい魔力量ね・・・人の手で魔石ができるなんて思わなかったわ・・・。あなたひょっとしてこの世の理を極めたのか・・・ただの無知か・・・。その大きさの魔石なら超巨大ゴーレムが数年動くわよ。」


 「ただの無知か・・・きっとそうなんだろうな。無知だから、魔石ができるかもと思ったんだろうな。」


 ゲルダは僕から魔石を受け取ると、ちゃぶ台の上の魔石をかき集めて・・


 「この魔石は、私が魔力を込めるわ。この大きい魔石は何に使おうかな~。久々にゴーレムでも作るかな?」


 ゲルダは、鼻歌交じりに土間に降りて、紙を広げて設計図を書き始めた。


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