堕ちた大戦士
本日投稿2話目です。やっと設定の話もここまで来た・・・
実は主人公の冒険譚はまだ始まってません。これから少しずつこの霊界での活躍がはじまります。
とりあえず今日は疲れた・・・・。
12 墜ちた大戦士
「とりあえず、この次元と霊界をつなげて固定したいな。」
魔法は使えないが、魔法を固定する方法がないか、本を漁ってみた。
途中、2、3回体が腐ったが、気にしない。ただ体が朽ちるときの痛みは何とかならないだろうか?痛覚無効の魔法はあるが、僕には使えない。魔石弾に入れておけばよかった。
魔石弾は狩りに使っていたので、攻撃と捕獲に向いた魔法しか入れてない。僕に回復は必要ないからだ。ゲルダはもういないので、新しい魔石弾は作れない・・・。まぁ~、倉庫いっぱいに在庫はあるから、気にはしないが。
ん? 魔石? これって魔法を止めておけたよな。
試しに、穴をあけて小さい魔石を近づけてみた・・・!?穴を開けるのを止めても開いている!
それからおよそ1週間、穴は開いていた。穴が閉じた時、魔石の魔力は尽きていた。
ということは、魔力を供給し続ければ、穴はずっと開いているな。この次元は僕の体だ。いくらでも魔力を供給できる!
そこで、土間に新しい扉を作った。もちろんDIYだ。枠の内側には魔石を並べてある。大きさは小さくても大丈夫。僕の体からずっと魔力を供給できるからだ。
ただ、扉の出口が海なのは問題だ。いい所はないか、霊界側に出口の穴を出し、移動させる。とりあえず東に向かうと海岸まで茂る鬱蒼とした森とその背後に巨大な山脈が見えた。ここも森だ。出口も森がいい。
入り口側の穴と家の扉をつなげ、霊界の森に移動する。そしてここにも魔石を組み込んだ扉をDIYして、出口を固定した。森の中にある扉・・・ちょっとシュールだ。
そこで、この扉の回りに、ちょっとした小屋を作ることにした・・・もちろん、DIYだ。
ゲルダがいなくなってから、作業は全てDIY・・・魔法はよかったなぁ。だけど僕にはゲルダが残していった大工道具の数々がある。DIYをしないゲルダがなんでこれらを作ったか謎だが、ありがたく使わせてもらっている。しばらくはこの作業に専念しそうだ。
小屋建設の作業の傍ら、目の前に小さな穴を開けて、出口の穴をそこらじゅうに飛ばした。 このあたりの地形を観察しながら簡単な地図を作るためだ。穴の移動にともない、穴から風が入ってくる。目が痛くなるので、ゴーグルを付けている。これもゲルダに作ってもらったものだ。
もちろんただのゴーグルではない。絶対に曇らないのだ。水に濡れてもすぐに弾かれる。実験で泥をかけてみたが、かけた瞬間に弾かれた。爆発魔法程度では、ヒビも入らない。
隕石が落ちたところに大きな丸い穴があき、北側から海水が流入し海になったようだ。綺麗な円形の海だ。上空から見ないとわからなかっただろう。
穴のまわりには、巨大な山脈ができている。落ちた衝撃で盛り上がったのかな? ここは内海の中心から北東にある森だ。といっても海と山脈の間は、だいたい森で覆われ、人の住んでいる気配がない。
この場所から北に移動すると山脈が途切れて、外海との境がある。そこに港町があった。あまり大きくはないが、酒場と宿はあるようだった。あまり上品とは言えないような人が多かったような・・・港町なので船乗りが多いのかもしれない。落ち着いたら訪れてみよう。
山脈に目を向けてみる。高い山脈だ・・・上の方は雲に覆われている。なんかなじみ深い魔力を感じる。
さすがに素人が小屋をDIYするのは大変だ。まずは木を切るのがつらい。ゲルダの鋸は喜んで木を切ってくるが、木が重いのだ。だからその場で皮を剥いで板にする。
小屋の分がたまったら、乾燥だ。これは魔石弾がある。大きな穴を掘り、板を入れたら火炎の魔石弾を一つ入れて放置する。少しずつ炎がでて乾燥が進むはずだ・・・・たぶん。
山脈の向こう側がどうなっているか見てみたくなり、山脈に行くことにした。穴を飛ばしてもいいのだが、何しろ標高が高く、いつも曇っているのだ。それに山からの景色を直に感じたいというのもあった。
移動は簡単だ。穴を広げて、出ればいい・・・
それは唐突に起こった。
山に足をつけた瞬間・・・・
僕の体が急激に大きくなった!?いや大きくなったように感じた。
内海を囲む山脈の全部が僕の体になったような感覚だ。
おそらく魔王の破片が飛び散って山脈にくっついたのだろう。そして1000年かけて浸食していったのかな・・・。体内に多数の魂を感じる。自我はほとんどないようだ。魔王の魂はなかった。きっと隕石の直撃で消失したのだろう。
このままだと僕も多数の魂に飲まれて自我を失うかもしれない・・・魂を切り離さないとと考えたその時、
「俺・・・は・・・オ・・ルグ・・・俺は・・・オル・・・グ。」
体内からぶつぶつ言う声が聞こえる。
その魂のあるあたりの地面をつかみ取り、持ち上げた。。
「意識があるのか?」
「だ・・・誰だ?・・・・話し・・・かけ・・・て・・・く・・る・・の・・・は?」
「僕はトールだ。同じ魔王の体に取り込まれた者だ。」
「・・・・な・・ぜ・・・・意・・・識・・・・ある?」
「僕の体には、僕の魂しかなかったからさ。魔王の体に飲み込まれたくなければすぐ体を切り離せ!」
「・・・・む・・・・り・・・・だ・・。」
埒があかないので、この魂の塊を切り離すことにした。
腰の皮剥ナイフで切ってみた。ところが、傷がつくどころか・・・ナイフが当たったところが延びていくだけだ。表面が堅いスライムだな。自分の体を切ったことがないので、気がつかなかった。
楽に切り離す方法はないかと考えていると・・・・思いついた。以前は移動に使った穴を閉じたら簡単に切断できた。そこで穴を出して細長く伸ばし・・・ナイフの刃の方に入り口を、背の方に出口をつけた。ナイフを振ってみると、細長い穴も一緒に振れる。
一気に肉塊と地面の間を切断した。
思いの外使い勝手がいい。何となく「次元断!」と名付けてみた。あとで考えたら切っているのは次元じゃなく、空間だった・・・「空間断」より「次元断」の方がかっこいいので、そのままにする。
ナイフの長さに関係なく、穴の長さは調節できる。こんな穴の使い方を知っていれば、狩りの時もっと楽だったのに気がつかなかった。そのうち僕専用の刀でも作ろうかな?
他の肉塊と同化しないように、そのままオルグと名乗る肉塊を森に持ち帰り、様子をみる。もちろん自分の体に同化した肉塊も切断してある。
オルグは、次第に人の形に変わっていった。切り取った肉塊が大きかったせいか、身長は3m程ある。なんか少し禍々しくないか?
「うぁーーーーー!」
大きな声とともにオルグは目を覚ました。
よく1000年もの間、自我を失わないでいたものだ。
目が覚めたオルグは周りを見渡し、なぜか頷いている。そして僕の前に膝をついた。
「どうやら、私は魔王様の眷属になったようです。魔王様からの絆を感じます。」
「魔王?誰が?・・・・魔王ってどこにいるの??」
「あなた様です。今魔王の体と能力を持っているのはあなた様です。」
「魔王の体といったら、おまえも、山の自我のない面々も、みんな魔王だぞ。」
「いいえ、魔王の魂が消滅した日。魔王の体はまわりのものを取り込んで飛び散りました。数百年かけて山々を浸食し、山に入ってきた者はすべて取り込まれました。しかし、ある日を境に浸食は止まったのです。」
思い出しながら、少しずつ話し続けるオルグ。
「自我を持つ魂がなくなったのです。たとえ狂ったとしても自我があれば魔王の体は従います。しかし、自我がなくなれば、それはただの肉の塊です。私は自我を失う前に、自分に「オルグだ。」と暗示をかけて消滅しました。一度消滅した者を魔王の体は主として認めません。」
「そうか・・・だから切断したのに、まだ山脈が僕の体のように感じられるのか・・・絆か・・・まずいな。こんな沢山の魂に囲まれたら、僕も正気を保つ自信がないな・・・」
少し考えて、決めた。僕が魔王の体から離れられないなら、全ての魂を切り離せばいい!
「魔王様。お願いがあります。私と同じように自己暗示をかけて消滅した魂がいくつかあります。私のかつての部下たちです。この者達も復活させていただけないでしょうか・・・」
深々と頭をたれるオルグ・・・どうせ全て切り離すつもりだからおやすいご用だ。それに眷属ができればDIYもやってくれるかも・・・
それから一ヶ月・・・・こつこつと山脈をまわり、魂の入った肉塊を切り離していった。とりあえずオルグの部下は全て切り離したようだ。まだ魂はのこっているが、おいおい切り離していこう。
それにしても壮観だ・・・山脈の峰に立ち並んだ百数の者達。
みな魔王の体を持っているので、普通の武器では傷がつかない。しかも全員一級の魔法使いだ・・・ただみな少し禍々しい。同化の力はないが、僕の体に触れれば怪我や体力が回復するようだ。これなら世界を征服できるな・・・・
ただ僕は、そんな面倒くさいことには興味がない。
「とりあえず、僕はみんなの面倒はみれない。オルグの部下がほとんどだから、まずはオルグの指示に従え。用があれば呼ぶけど、それまでは他人に迷惑をかけないで好きに生きなさい。1000年間山に捕まっていたんだから、まずは自由を満喫しないとね。」
「「「「「ははぁーーーーーー」」」」
一斉に頭を垂れる面々。なんか怖い。
「それから・・・オルグ! 大工仕事が得意な面々を数人残しておいてね。」
それから暫くして、霊界に激震がはしった。
魔王退治の英雄、古の大戦士オルグが復活したと・・・・しかも魔王の手先となって・・・・。
冬の女王の復活と魔王の部下になった大戦士オルグ・・・霊界の国々は戦いに備え始めた。
混沌の時代がはじまった。




