第2話 勇者に選ばれたのは、あy
「なんでだよぉ!ちくしょー!!」
哀れに膝と肘を地面につき叫び続けるのは金髪ベリーショートの少年ヤネン。
それを慌てた様子で見守っている黒髪ロングの少女リコ。
叫び続けている内容を聞いてリコは閃いた。
リコは剣を抱えながら先ほどまで突き刺さっていた石に向かって行った。
ヤネンが体操座りになり独り言を呟いていたが、リコは優しく背中をぽんぽんと叩き指をさした。
さした方向には、先端だけが石の穴に器用に引っ掛かっており10分の1くらいしか埋まっていない剣だった。
「・・っぐす。いいのか・・?」
ヤネンの顔はぐしゃぐしゃになり目と鼻からは水が出ていた。若干リコは引いたが額に汗を掻きながらも笑顔で頷いた。
〈まだ冒険は始まっておらんじゃろ・・・。さぁ立て孫よ。勇者になるんじゃ〉
亡くなった祖父の声が聞こえた気がしたヤネン。
ヤネンは立ち上がりまた剣の前へ立った。
[思えば俺が力強く引いた時、確かな感触があった。きっと本当は抜けていてそれをリコが持ってきたのではないか]などと都合の良い解釈をしていた。
「俺は勇者になる男!ヤネン!この剣を抜き魔王を倒す男!」
これからの冒険、これから出会う仲間の事を思い馳せながら柄に右手を伸ばした。
「俺の物語が今始まる!!」
柄を掴み先端だけが引っかかっている剣を抜こうとした。
びくともしなかった。
右手だけだったのが悪いのかと一度手を放し、しっかりと両手で掴み、歯を食いしばりながら叫んだ。
「オレノ!!モノガタリがぁああ!!!イマぁああ!始まるぅうう!!!」
リコは時間が掛かりそうだと思い祠に向かい座りながら眺めていた。
15分経った所で未だに叫び続けているヤネン。
リコは少し転寝しそうにはなるがヤネンを見ていた。
「んーーー!!抜けてくれぇ!頼むぅ!」
必死に頑張っているヤネンが遂に懇願するようになった。
「うっさいわ!!! 」
中年男性の声が剣から聞こえた気がした。
驚いたヤネンは柄から手を放し座り込んだ。
リコもそれには驚いて転寝をする雰囲気ではないと感じ背筋を伸ばした。
「はぁ。お前は選ばれてはいない。それわかるよな?」
「あっ・・はい。」
座りこんでいたが正座になった。
「この剣は勇者の剣わかるよな?」
「はい。」
「15分も叫び続けたら天界にも響いてくるって話よ。これ勇者と我々天界の繋ぎってわけ。」
「すみません。」
ヤネンはしょぼくれながら立ち、剣に頭を下げた。
「それで奥のお嬢ちゃんこっち来て。ほら早く。」
剣がリコへ呼びかけた。
リコは立ち上がりヤネンの横に立った。
「名前何て言う?」
リコは剣にバックについている名札を見せた。
「はぁーなるほどね。呪いに掛かってるんだね。でも大丈夫。魔王を倒したら治るからそれ。」
リコは少し驚いた顔をしたが軽く頷いた。
「それじゃあ旅をするにもリコ。君だけじゃあ難しいだろう。煩い男、名は?」
顔を上げて剣に向かい話した。
「ヤネンです。」
「そうか煩い男よ。ではリコを教会へ連れていけ。」
「あ、あのヤネンです。」
「わかっている、わかっている。教会はそうだな。山を西に下り、橋を渡ればルララ村の教会がある。そこで信託を告げる。それまでリコを護衛しろ。傷を一つでもつけてみろ、神パワーで消してやるからな。」
「あっはい。」
少しイライラした声色の気配がなくなった様な気がした。
長い沈黙の後ヤネンが口を開いた。
「行こうか・・。」
リコは軽く頷き山菜が入っている篭に向かい背負い、剣を軽く抜いて見せた。
ヤネンは愕然とした表情にはなったが、教会へリコと向かうのであった。
楽しく書いてます。