第1話 こんな始まり方でいいのか
部屋は薄暗く暖炉からは火花が散り部屋に明かりを灯していた。
暖炉の前では少し大きめのロッキングチェアに高齢の女性が座っており、膝の上には女の子が座っていた。
高齢の女性は唐突に話しを始めた。
「これはね。おばあちゃんのまたおばあちゃんのおじいちゃんのおばあちゃんのおじいちゃんの甥の隣の家のおばあちゃんのえーっと・・なんじゃったかなぁ・・・」
「おばあちゃんもういいよ!私わからないから、むかーしむかしって始めていいから!」
「ええぇそうね・・。じゃあこほん。むかーしむかし在る所に男の子と女の子がいました。その二人は山にそれぞれ別の用事で向かってたの。男の子は山に隠された剣を取りに向かっていたの。その剣は選ばれしものでしか抜けない剣なの。」
女の子は不思議そうな顔をしながら祖母に顔を上げ聞く。
「え?剣なんてなんで取りに行ってるの?」
祖母は微笑みながら答えた。
「その時代は魔族によって人類が滅亡しかけていた時代なの。だからその男の子は魔族に立ち向かうために剣を取りに行っていたの。」
「へぇー」
女の子は適当に返事をし暖炉に顔を向けた。祖母はそれを見てまた微笑み暖炉に目を向けた。
「男の子はそれはそれは何カ月も山に通い探し続けたのよ。雨の日も荒らしの日も。そしてある日剣を見つけたの。石に突き刺さっている剣をね。」
「やるじゃん!男の子!」
「優しいわねエミちゃんは」
祖母に褒められ頭を撫でて貰えたエミは喜んでいた。
「それでねぇ。男の子は見つけて少し安心したのか膝を地面について休憩していたの。きっともの凄く大変だったんだろうね。魔物も出てくるかもしれない山だから常に気を張っていたのでしょうね。」
「そうだよね何カ月も頑張ったよねぇ。」
エミは小さく頭を小刻みに体を動かしながらうなずいた。
「その後どうなったの?抜いたの?」
祖母は微笑みながら答えた。
「寝ちゃったの」
「寝ちゃったの~?」
「そうなの。きっと疲れちゃったんでしょうね。」
祖母は思い出したかのように口を開いた。
「あらあら・・もうこんな時間じゃない。明日お母さんが迎えに来るから寝ましょうね。」
「ええぇー続き気になるよー。」
「また何時でも聞かせてあげるわ。」
そう言いながら祖母は微笑みエミを見つめ、エミは不服そうな顔をしながら祖母から降りた。
「おやすみなさぃ・・。」
「はい。おやすみなさい。」
エミはお気に入りのぬいぐるみを机から手に取り寝室に向かった。
祖母はエミが寝室に入るのを見送ると暖炉に目を向けた。
「この話は本当に面白いわ・・。。」
祖母はまた微笑み目を閉じた。
俺の名前はヤネン。金髪のベリーショート。
今人類が危機的状況に晒されている。
俺は勇者になり人類を救いたい。
その思いで何カ月も伝説の勇者の剣があると言われる山。≪ブルケン山≫に来ている。
何体の魔物とも戦いやっと辿り着いたこの場所。
周りには細長かったり丸っこい形をした石が至る所に山積みにされており、黄金に光り輝く泉、立派とは言えない祠、そして祠の前にある石に突き刺さった剣。
剣は柄のところしか見えないがアレが剣なのは間違いないだろう。
やっと辿り着いたんだ。
そして不思議と心地が良い空気だ。
俺は膝から崩れ落ち空を見上げた。
「これで、、これでやっと魔族と戦える。。。」
緊張の糸が千切れ疲労からか、目を閉じたら倒れるように眠ってしまった。
何時間寝ていたのだろうか、何か甘い匂いがする。
そして暖かく柔らかい感触が枕代わりになっていると気づいた。
もう少し寝ていたい気持ちを押し切り目を開いた。
そこには黒く長いストレートの髪で胸のサイズはお淑やかなで、左目の下には、ほくろのある少女が膝枕をして壁にもたれながら寝ていた。
「うぉ!?」
驚いて飛び起きた拍子に祠の階段につまずき転げ落ちた。
「ってぇー」
俺は何をしていた?ここは祠の真下なのか。あの女の子が運んでくれたのか。って待てよ剣は?
ヤネンは目を配ると石に突き刺さった剣が在ることを確認した。
「んっ・・。」
少女の眠気の残った声が聞こえた。
俺は少女のほうに歩み寄った。
少女は目を開いた。
「ごめん俺寝ていたわ。俺の名前はヤネン。君の名前は?」
俺が質問をしたが、少女は立ち上がり先ほどまでは見えていなかったバックに付いている名札を見せた。
「リコ?それが君の名前なのか?」
俺が確認すると少女は頷いた。
見た目もそんなに俺とは年の差はなさそうだけど、余り話をしないタイプなのかもしれないなぁ。
「リコは勇者になるために此処に来たの?」
そう聞いたら顔を横に振った。
「それじゃあ何のために?」
リコは指をさした。指をさした先には山菜が山積みにされている背負い篭があった。
「山菜取りに来たのか!」
リコは頷いた。
「それじゃあ剣は俺が抜いてもいいか?」
リコは不思議そうな顔をしながら頷いた。
ヤネンは剣の柄に手を伸ばし握った。
重みが違うこれが勇者の剣なのか持っただけで何か絶大な力があるのではないかそう思った。
これまでの苦労、そしてこれからの冒険を思い。
「俺は勇者になるんだ!!」
大きく意気込み山の全体に響き渡る様な声を上げ勇者の剣を引き抜こうとした。
だが抜けずに柄から手が滑り盛大に背中から地面にダイブをかました。
「いっt・・・」
暫くの沈黙の後ヤネンは体操座りになり、また暫く時間がたち、膝と肘を地面に着け叫んだ。
「なんでだぁ!!!俺は人類を救おうとしてここまで来たのにぃ!ちくしょー!!」
ヤネンは親に欲しいものを買ってもらえない子供のように叫び散らかした。
リコはそれまで祠に座り傍観していたが、ヤネンの癇癪を見て少し慌てて剣の方に向かった。
ヤネンは叫び疲れたのかわからないが体操座りをし独り言を呟いていた。
「もう人類なんてどうでもいいわ。こんなん何もできんってどうせ死ぬんだよ。モテキとかもこねぇよ。はぁもういいや。だっるいなぁ。」
そして肩をつつかれた。
振り向いてみると満面な笑みで剣を差し出しているリコがいた。
「なんでやねぇーん!!!!」
楽しく書いてます。