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滅びゆく人類に花冠を  作者: 花摘猫
第三章・花冠
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滅びゆく人類に花冠を

それから、私とゼロは一緒に暮らしはじめた。

季節は秋から冬へと移り変わり、もうじき春になるだろう。


最初、私の食べる食事はゼロが持ってきてくれるペットボトル飲料と乾物だけだった。産まれてからずっと、そんな食生活だったので、たいして不自由も感じていなかったが、最近は野菜や肉を持ってきてくれるので乾物は食べなくなった。様々な食材が手に入るようになった今は、ゼロと二人で私が作った料理を食べている。


正直、料理が口に合うか分からず、ゼロに日々なにを食べているのかを何度か尋ねたことがあったが、答えが返ってくることはなかった。だが、食生活が変わってから食事後に吐く彼の癖がなくなったので、不味くはないのだと思うことにしている。


彼の話によると、出会って四ヶ月ほど経ってから水質を調べたところ、水の中にいた仲間の素が大きくなりすぎて死滅していたらしい。よく理解できなかったが、素というのは細菌によって水中の微生物が癌のように突然変異したものらしく、哺乳類のみ寄生されるとのことだ。死滅した今再発の危険は少ないが、万が一を考えてゼロは今も水質検査を続けている。


ゼロは頭が良く、私から聞いた情報と本から収集した情報を合わせて、ランプや火などを使えるようにしていた。電気はまだ使えそうもないという話だが、私たちのまわりにはゼロが助けたという仲間が集まり、活気に満ちていた。


身長は大人になると大体一メートルほどになるらしい。性別は人間と同じように違いがあり、時々たくさんの卵が産まれたという話を耳にした。

産まれた卵は一箇所に集められ、最後の一匹になるまで、互いを食べあうらしい。ゼロは、そのたびになにか違う方法はないのかと悲しんでいたが、私はそれで完全体になれるなら仕方がないことだと思っていた。もしかしたらゼロのほうが人間らしい心を持っているのかもしれない。


争いが起きるたび、誰かが消えていった。

私たちは強く、争いに勝つたびに皆が賢くなって、手がなかった者に手が生えたりした。誰も教えてはくれなかったが、考えているうちに卵と同様、互いを食べあっているのだと気付いた。もしそれが本当ならば、争いがなくなることはないだろう。人間同様、彼らも貪欲なのだから。


ゼロはそんな状況を変えたいと、たびたび話して悩んでいた。

そのたびに彼を抱きしめてなぐさめる。彼が生きている間だけでいいから、争いが少なくなるように心の中で何度も祈りながら。

私たちは弱者であり強者だった。最初は弱者だったゼロだからこそ、弱者に対して優しく相手の身になって考えられるのだと思う。また、強者だからこそ悲しんだり悩んだりする余裕があるのだとも思った。


今度、死んだ仲間の体を使って、私に目を作ってくれるとゼロが話してくれた。

人間の医学では不可能だったことが、ゼロたちの体を使えば可能になるそうだ。

目が見えるようになった私の視界に、この世界はどのように映るのだろうか。

自分とは姿が違う生物たちを受け入れることができるのだろうか、考えるたびに怖くなる。しかし、私を必要としなかった人間たちより、彼らのほうが愛しい存在で、今までの目からの情報がゼロなのだからマイナスになることはない、世界を怖がる必要もないのだ、と最近は考えるようになった。

 

「明子、目があるヤツが死んだから、今から手術してもいい?」


心配そうなゼロの声が耳に届く。


怪我の状態が悪かった仲間が、思いのほか早く死んでしまったらしい。


「大丈夫……連れていってくれる?」


微笑むと、大きくなった彼の手が、手を引いてくれた。


「やっと、見えるようになるね」

「そうだね、ありがとう」


繋いでいる手を、ぎゅっと握る。


「……ゼロ、私ね、最近思うんだ」

「なに?」

「生きていて良かったなぁって」


声で彼が笑っていることが分かった。

目が見えるようになったら、一番に彼の顔をみよう。世界を見るのは、それからでもいい。


先日、気まずそうな彼の口から、和人という人間の話を聞いた。絵本をくれた人だと知り驚いたが、私への罪悪感から死んでしまったと聞いて、さらに驚いた。心が死んでいたからかもしれない。あの頃の記憶は薄くしか頭に残っておらず、星の遊園地の話を聞いて罪を許している自分がいた。





春になって花が咲いたら、許していることを証明するために、二人の墓に行って花冠を飾ろう。

死んでしまった和人が、もう悲しまないように。




腕に麻酔が打たれて、意識が遠のいていく。その中で、私はひとつの未来をみていた。





ゼロが始まりの優しい世界の中、幸せに笑う自分の未来を。










滅びゆく人類に花冠を・ 終

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