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4・ペンギン一行ホテルに泊まる

 その晩、私たちはホテルに泊まった。

 私は車中泊のほうがいいと思った。

 ホテルは名前を書かなければならず、防犯カメラがある。たとえペン太くんをスーツケースに隠してチェックインするのだとしても、不安だ。


 でもリョウスケさんはペン太くんを広い場所で休ませてあげたいと、譲らなかった。ペンギンである彼が長時間狭い空間の中で動けずに過ごすことは、とてつもない苦痛なのだとか。ガマンはできるだろう、でも精神的苦痛は計り知れない、というのだ。


『いずれは飛行機に乗り、その苦行を行うほかなくなるのだから、今だけは休息させてあげたい』

 そう熱く主張するリョウスケさんに、私は負けた。


 シングルルームに入ると、鞄からノートパソコンを取り出して、ニュースをざっと確認した。ペン太くん誘拐についての記事はまだない。館長は大事にしたくないのだろう。だからといって、警察が動いていないとは限らない。用心して行動しなければ。


 ニュースを閉じて、代わりにメールを開く。職場宛てに、寝ていて返事ができなかったという謝罪と、報告代わりの簡単な所感を書く。果たしてこれで、どの程度のごまかしがきくのか。

 ペン太くんが無事に出国できるかは、五分五分だと思う。水族館側は空港に向かっているとは考えていないだろう。リョウスケさんが関わっていると気づいたとしても、単なる逃亡くらいにとらえているはずだ。

 より問題があるのは航空機への搭乗だ。昔に比べてペットとの旅はだいぶ容易になった。だけどペンギンのペットは珍しいだろうし、ペットといえどもアレを通らされるかもしれない。そうしたら完全にアウトだ。


 ……まあ、リョウスケさんは何度もシミュレーションをしたと言っていた。そのあたりもちゃんと考えてあるのだろう。


 スマホを取ろうと、放り出してあったそれに手を伸ばしたときにブブッと震えた。思わずビクリとする。おそるおそる画面を見ると、リョウスケさんからメールが届いたとの知らせが出ていた。


 職場からではなかったことにほっとして、メールを開く。

 内容は、主に逃亡の手助けへの感謝だった。ペン太くんが眠ったから、メールを送ってきたらしい。『手助けというより、もう当事者です』と送り返す。今度の内容は『ありがたいけれど』から始まり、こんなことをして大丈夫なのかと私を心配する言葉が続いていた。

『問題はありません。親ははなから私に興味がない。職場は怒るかもしれないけれど、馴染めていないから私は気にしない。そして友達はいない。ひとりきりの人間だから、なにをしても平気です』

 そう返信すると、すぐにリョウスケさんから返事が来た。

『俺もです。ペン太が友人で家族で、最高の相棒なんです。こいつとの一年はなににも代えがたい』


 胸がつまる。

 ふたりの間柄は、種族を越えた信頼とか、そんなフィクションの惹句のような言葉では言い表せないものだ。

 興味深くて、羨ましくて、そして少しだけ妬ましい。

 私にはそんな関係を構築できた相手はひとりもいないから。

 だからこそ、ペン太くんとリョウスケさんと一緒に夢を見たいのかもしれない。

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