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3・はしゃぐペンギン

「まずトボガンすべりでしょ。それからお父さんとお母さんのためにお祈り。海に飛び込んで、いっぱい泳いで、自分で魚を獲る。このへんは絶対にやりたい」

 そう話すペン太くんの声は弾んでいる。


 そんな彼は頭に王冠をつけている。ドンキで買った、おもちゃの冠。

 ペン太くんがみつからないようにするための、対策のひとつだ。ぬいぐるみだと思ってもらえるように。また、スカーフで翻訳機を隠してもいる。

 水族館はペン太くんはラブ・アニマルズに誘拐されていると考えているはずで、警察に捜索願が出されているかもしれないのだ。姿を隠す必要がある。


 専用飼育員であるリョウスケさんは、『探しに行きます』と言って早退したそうだけど、その後水族館と連絡をとっていない。ペン太くんを大切にしている彼が誘拐の状況確認をまったくしないというのは、おかしく思われているだろう。


 そして私。職場には、体調不良のため報告は明日以降にするとメールをしてある。それに返ってきたのは『なんで?』という一言。面倒だから無視している。


「それから、友達もほしい。可愛い女の子とも知り合いたい」

「俺より先に彼女を作るんじゃねえよ」とリョウスケさんがツッコみ、笑い声が上がる。

 こんな事態だというのに、楽しそうだ。


 彼と私のパスポートをそれぞれの自宅から回収した。

 今向かっているのは、ペットショップ。ペン太くんを機内に持ち込むために必要なケージを買うのだ。それが終わったら、県外の空港に向かう。かなり遠いが仕方ない。目的に合った飛行機が出るのが近場にはないのだ。しかも出発は明後日。今日と明日は、どこかで一泊しなければならない。


 バカなことをしていると思う。これで私も窃盗罪。職を失うだろう。信用も、かつての実績もだ。私はきっと界隈から追放される。

 でも、私も見たくなってしまったのだ。ペン太くんが『故郷』に帰り、喜ぶ様子を。

 ペンギンだって夢を見るのだから、私だって見てもいいはずだ。それがどんなに愚かしいものだとしても。


「ツムギさんは?」ペン太くんが私に声をかけてきた。「カレシはいるの?」

「いたら、今運転はしてないよ」

「そっか!」

「ほんと、巻き込んじゃってすいません」

 リョウスケさんが何度目になるかわからない謝罪を口にする。

「次に謝ったら、水族館に連絡を入れますよ」

「やめろ――!!」

 ペン太くんが、フリッパーをパタパタとする。でも怒っているわけじゃないと思う。声が弾んでいるから。

「へへっ、楽しいや」とペン太くんが言う。「父さんと母さんが眠る故郷に帰れるのかと思うと、ワクワクする。オレ、いい人の車に隠れたな」


 バックミラー越しにリョウスケさんと目が合う。彼は小さく会釈した。


 それからペン太くんは、リョウスケさんとの出会いから順に語り始めた。初めは彼を好きになれなかったこと。リョウスケさんを信用できるようになったきっかけの事件。ショーの内容をふたりで真剣に話し合い、ケンカにまで発展したときについて。ふたりで懸命にショーの台本を練り、練習を繰り返した日々。


 途中で買い物などを挟みながらも、ペン太くんは何時間も語り続けた。内容の九割九分がリョウスケさんの話だった。どれほど彼を信頼し、親しみを感じているかが口調と声に滲み出ている。

 それを聞いているリョウスケさんも嬉しそうだ。

 ふたりは心底お互いを思いあっていて、強い絆で結ばれているのだ。ペン太くんの口調がリョウスケさんに似てしまうほどに。

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