武器屋のおねえさんと、伝説の名刀
オーガ討伐に向けて、俺と王女、メイド、クロティルドさん、ロゼは必要なものを揃えるために王都に繰り出した。
クロティルドさんによると、オーガというのは人間に近い姿をしているが、時々人間の街を襲っては大量の人肉を食すという凶暴な魔族で、オーガ討伐はクエストでいえばSランクに相当するという。
そのため武器やら防具やら魔具やら、とにかく色々と入念な準備が必要らしい。
王都の大通りは思ったよりも多くの人で賑わっていて、食料品や織物のお店などが所狭しと軒を連ねている。
その中を、俺たちは目的の武器屋へ向かって歩いていた。
「だいたい、王女がオーガ討伐なんかに参加して大丈夫なのか?万が一王女が死んだりなんかしたら、国の命運に関わるんじゃないか?」
歩きながら俺が訊くと、王女は
「何を言うのじゃ。オーガ討伐なんてサイコーにカッコいいイベントに、王女が参加しないでどうするのじゃ!」
と言って胸を張った。
「そんな理由で……」
「いや、それが案外重要なのだ。こういう一大事だからこそ、王家の者が勇敢な姿を見せて民の信頼を勝ち取る必要がある。安全なところに身を置いているだけでは、国を治めることはできないというわけだ」
俺が呆れていると、クロティルドさんが王女をフォローする。
さらにロゼが、
「それに、王女様はこう見えて強いらしいよ。アイオロス様の庇護のおかげで、ブワアアアッて風を起こす能力が使えるんだって。ですよね、王女様?」
と補足すると、
「ははは、そうなのじゃ。ブワアアアッなのじゃ!!」
と王女は嬉しそうに少しはしゃいだ。
武器屋は大通りを少し外れたところにあった。
「え……本当にここなのか?なんかボロくねえか?」
木造の武器屋はところどころ木材が腐り始めていて、今にも崩れそうなほどだった。
「間違いない、ここが我ら騎士団御用達の武器屋だ。店の見栄えは良くないが、品揃えは一級品だ」
そう言って店の中に入っていくクロティルドさんに、俺たちも続く。
「はっはっはっ!聞こえたよ、にいちゃん!ボロくてすまなかったね!」
俺たちを出迎えたのは、やけに快活なおねえさんだった。
「すまない、私の連れが失礼なことを」
クロティルドさんが頭を下げると、
「いやいや、ボロいのは事実さ!謝ることはない!ピース!!」
と言って、おねえさんは右手で作ったピースサインを突き出して見せる。
「……それで、今日はどんな武器をご所望だい?」
「実は今度、オーガ討伐に行くことになってな……」
「ははあ、オーガか。そりゃまた……そういうことなら、とっておきの商品があるぜ」
そういうと、武器屋のおねえさんは奥に引っ込んでしまった。
そして、しばらくガサゴソしていたかと思うと、一振りの刀を持って戻ってきた。
「東の国の将軍から特別に授かったモノでね。聖刀・イチモンジってやつだ」
「イチモンジか……聞いたことがある。確か東の国の戦乱を終わりに導いた伝説の名刀だとか……どうしてここにある?」
「はっはっは!特別に授かったんだってば。どうする?買う?」
「……いくらだ?」
「金貨100枚ってところだな……シュヴァリエール騎士団にはいつも世話になってるから少しくらい負けてやってもいいけど……」
「なんだ、100枚か!それならわたくしが払うのじゃ!」
クロティルドさんと武器屋のおねえさんが話しているところに、王女が割り込んでくる。
「アンナよ、わたくしのお金は持ってきとるか?」
そう言って、王女はメイドの方へ振り返る。
「はい!えと……」
元気よく返事をしたメイドだったが、みるみるうちにしょんぼりした顔に変わる。
「……忘れました」
「相変わらずおっちょこちょいじゃな、アンナは。まあ、そこが可愛いところでもあるんじゃが……すまぬクロティルドよ。わたくしのお金は無いようじゃ」
「問題ありません、王女。今回は騎士団にも十分な予算が下りていますゆえ」
「アカツキ、この刀はお前が持て」
聖刀以外にもいろいろな買い物を済ませて武器屋から出ると、クロティルドさんが言った。
「は?……俺でいいのか?」
「ああ。はっきり言って、お前は私よりも強い。オーガのトドメを刺すのはお前だ。……だから、この刀はお前に持っていてもらいたい」
クロティルドさんは聖刀を俺に握らせた。
「抜いてみろ」
言われるままに、俺は聖刀を鞘から引き抜いた。
夕陽に照らされて、刀身がキラリとまばゆく朱色がかった光を放つ。
その姿を見た瞬間、俺には分かった。
ーーこれは良い刀だ。
俺の能力とこの刀があれば、俺はこの世界で伝説級の英雄になれる。
その時、俺は確信に近い予感を抱いていた。
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