金髪巨乳の女騎士団長と偽装カップル作戦③
「不覚だ……晩餐会の出席者は全員監視していたはずなんだが……」
クロティルドさんは自分を責めるように頭を抱えている。
「あ、あの……伯爵は殺されたんですか?」
俺が訊くと、
「ああ……おそらくな」
クロティルドさんはそう答えて、殺人現場に視線を戻す。
しばらくして、ふと何かに気づいた様子で伯爵の死体に近づいていった。
「おいアカツキ……これを見ろ」
恐る恐る現場に足を踏み入れた俺に対し、クロティルドさんは伯爵の首筋を指さした。
「噛み跡……?」
「そうだ。つまり、伯爵を殺したのはドラキュラだということだ」
「ドラキュラ?……ってことは、アレを使えば!」
「ーー犯人を炙り出せる」
俺とクロティルドさんは顔を見合わせ、うなずいた。
それから俺たちはメイドに手伝ってもらって、大量のニンニクを用意した。
そして、それを大広間へと運んでいく。
「な……何よこの匂い!!!!」
あたりに広がる強烈なニンニクの匂いに、プルミエール嬢が非難の声をあげる。
「申し訳ありません。しかし緊急事態なのです。実は先ほど、フリムラン伯爵が書斎で殺されているのが発見されました。首筋の痕跡から下手人はドラキュラであると推察されます。つきましては犯人究明のため、ニンニクを召し上がっていただきたく、何とぞご協力をお願いいたします」
クロティルドさんは落ち着き払った様子でそうまくし立てると、大広間の貴族たちの口の中に次々とニンニクを押し込んでいった。
貴族の中にはニンニク嫌いもいただろうが、殺人の容疑者にされるよりはマシだと腹を括ったのか、ほとんどの人がすんなりと捜査協力に応じてくれた。
しかし、その中でも断固としてニンニクを口の中へ入れることを拒否する者が一人だけいた。
「私は嫌よ……絶対にイヤ!!!」
そう叫んだかと思うと、子爵令嬢メリッサ・ホルヴァートの目が怪しく光り、みるみるうちにドラキュラの姿に変身した。
そして目にも止まらぬ素早さで、近くにいたプルミエール嬢を人質に取った。
「全員、一歩も動くな!少しでも私に近づいたら、この娘を殺す!!」
「いや……やめて!離して!!」
もがくプルミエール嬢を、ホルヴァート嬢ことドラキュラは強い力で押さえつけ、そのまま後退りする。
それを見て、クロティルドさんが俺に目配せをする。
このままじゃ、ドラキュラに逃げられる……早く時間を止めて、ヤツを捕まえろ。
クロティルドさんの目はそう言っていた。
チッ……仕方ねえな……あの気に食わない公爵令嬢が苦しむ様子をもうちょっと見ていたかったんだが……。
俺はドラキュラに気づかれないよう両腕を後ろ手に組んだまま、そっと指を鳴らした。
時間が止まる。
凍りついたドラキュラの腕からプルミエール嬢を引き剥がし、隠し持っていた縄でドラキュラを縛る。
時間が動き出す。
いつの間にか縛られていることに気づいたドラキュラがうめき声をあげる。
少し間を置いて、惨めに泣き叫んでいたプルミエール嬢が、知らないうちに自分が解放されていることに気づく。そして周囲を見回して、ドラキュラの横で縄を握っている俺をぽかんとした表情で見つめた。
「あなたが……私を助けてくれたの?」
そう尋ねるプルミエール嬢に、俺は「ええ、まあ」とそっけなく返す。
しかしその返事を聞くと、プルミエール嬢は俺に飛びついてきて、頬にキスをした。
それから俺の顔を覗き込んで、「私はあなたに失礼なことを言ってしまったのに、それなのに私を助けてくれるなんて! 私、あなたに惚れてしまいましたわ。あなたは私の白馬の騎士ですわ!!」と弾けるような笑顔で言った。
その顔を改めて間近で見ると、大きな目に長いまつ毛、鼻の形は整っていて、肌は陶器のようにきめ細かかった。
気に食わないと思っていたが、案外かわいい……?
そんなことを思っていると、今度は額にキスをされた。
プルミエール嬢の唇はやわらかくて、少し湿っていた。
プルミエール嬢が俺から顔を離すと、クロティルドさんとオーストレーム嬢がこちらを渋い顔で睨みつけていた。
クロティルドさんはまだ分かるが、なんでオーストレーム嬢まで俺のことを睨んでるんだ……?
首を捻っていると、眉間にシワを寄せたままクロティルドさんがこちらに向かってくる。
「ありがとう、アカツキ。お前のおかげでドラキュラを捕まえることができた」
クロティルドさんは俺の手を引き、プルミエール嬢から引き剥がす。
「アカツキ様とおっしゃるのですね。よろしかったら、今度はぜひ私のお家へ遊びに来てください」
プルミエール嬢はそう言って、俺を見送った。
クロティルドさんの屋敷に帰ると、ロゼが飛びついてきた。
「アカツキィィィ!さびしかったよおお!!」
「大げさだな。ほんの数時間だろ」
「そうだけど……そうだけどおおお」
ロゼは俺に抱きついたまま離れようとしない。
そんな俺とロゼを、クロティルドさんはまた渋い顔で睨んでいた。
それから数日が経ったある日、クロティルドさんが慌てた様子で俺の部屋へ駆け込んできた。
「お、おち、おち、おちちいて聞いてくひぇ」
「クロティルドさんが落ち着いてください。どうしたんですか?」
クロティルドさんの珍しい姿に、俺は思わず笑ってしまう。
彼女は興奮する気持ちを落ち着かせるように、一つ深呼吸をして口を開いた。
「お前の、王女への謁見が決まった」
「は?」
俺は思わずぽかんと口を開けて、クロティルドさんの顔を見つめた。
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