キス疑惑の赤毛の娘とケンタウロス討伐②
ーー指を鳴らした瞬間、ケンタウロスが俺の手前で停止した。
「ウソだろ……まさか時が止まったのか?」
俺は困惑しながらも、ケンタウロスの心臓を狙って、串刺しにするように剣で貫く。
すると止まっていた時間がまた動き始めたように、ケンタウロスの胸から勢いよく血が流れ始める。
「すごい!さすがアカツキ!」
ロゼが歓声を上げる。
「よおし、私も」
弓を構えるロゼ。
遠くのケンタウロスを狙って目を細め、弓を引き絞る。
キリキリキリキリ……。
ロゼがパッと手を離すと、矢が風を切って進み、ケンタウロスの胸に突き刺さった。
「やった!」
ロゼが振り返り、”褒めて”と言った顔で俺を見てくる。
だが俺は、自分の手を見つめて呆然としていた。
ーー俺の手が時を止めたのか……?
「おいお前、こっちに来い」
いつの間にか隣に来ていた女騎士団長が、俺の首根っこを掴んで引き寄せる。
ケンタウロスの軍勢から十分に離れたところまで来ると、女騎士団長が口を開いた。
「お前、クロノスの加護を受けた者か」
「クロノス?」
「さっき、お前がケンタウロスを倒した時の動き……あれは普通じゃなかった。まるで時を止めたかのような……。あんな動きは、クロノスの加護を受けた者にしかできない」
「いや、俺にも何がなんだか……」
「どれくらいの間、時間を止めることができる?」
騎士団長に聞かれて、俺は首をひねる。
「そう長くは止められないと思いますよ……何となくですけど、1分くらいってところでしょうか」
「そうか……まあ聞け。私に作戦がある」
騎士団長は少し背伸びをして俺の耳元に口を近づけ、こしょこしょと囁き声で俺に作戦を伝える。
「……わかったか」
「えっと……念のため、もう一度お願いします」
耳に当たる吐息が心地よかったので、おかわりを頼んでみる。
「バカ。一度で聞き取れ」
そう言いつつ、騎士団長はまた背伸びをして、俺の耳元で作戦をささやいてくれる。
元いた場所に戻ると、ロゼが拗ねた様子で睨みつけてきた。
「な、なんだよ」
「何でもないもんっ」
そう言って、ぷいっと顔を背けてしまう。
「いいか。私が合図をしたら指を鳴らせ」
騎士団長は俺の肩を叩き、それだけ言うと、ケンタウロスの群れの中へ走っていく。
「ウンディーネ様、私にお力をお貸しください!!」
そう叫び、騎士団長が両手を天に掲げると、指先から大量の水が溢れ出してきてケンタウロスの目を襲う。
「今だっ!!」
ケンタウロスが怯んだ隙に、俺が時間を止める。
そして身動きの取れないケンタウロスを、斬る、斬る、斬りまくる。
全ては時間との勝負だ。
1分で、すべてのケンタウロスを殺し尽くす。
「うらああああああああああ!!!!!」
ーーしかし、あと10体ほど残ったところで時間が動き出してしまう。
それでも騎士団長の目くらましのおかげで、ケンタウロスたちは数秒は動けない。
俺は雄叫びを上げながらケンタウロスたちを斬りまくる。
だが……。
気がつくと、俺は残った6体のケンタウロスに囲まれていた。
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