床のない部屋
ドアの向こうには床のない空間が広がっていて、10mほど先に3階への階段が浮いていた。
クロティルドさんは、まさか床がないとは思わず足を踏み外してしまったらしい。
「くそ、これじゃ先に進めねえじゃねえか……」
俺が悪態をつくと、王女は何か閃いたように口を開いた。
「いや、わたくしに考えがあるのじゃ……アンナよ、何か布のようなものを持っていないか?」
「あ、はい!持ってきています!」
そう言ってアンナが腰のあたりをまさぐると、4枚の布が出てきた。
「申し訳ありません……5人分、持ってきたつもりだったんですが……1枚忘れたみたいです……」
「十分じゃ。ありがとう、アンナ」
クロティルドさんが戻ってきたところで、王女はアンナから受け取った布を全員に配る。
「良いか。わたくしが風を起こしたら、そなたたちはこの布で風を受けて、あちら側まで飛ぶのじゃ」
アンナが布の端の4点を持ち、それを頭上に掲げる。
王女が風を起こすと、布を持ったアンナの体がふわりと持ち上がった。
そのまま俺たちの頭上まで浮き上がると、メイド服のスカートがふくらんで、下から白いパンツが覗き見える。
王女が風向きを調節すると、アンナの体はゆっくりと階段の方へ進んでいった。
アンナが向こう側まで渡り切ったのを確認すると、続いてロゼ、クロティルドさん、最後に俺が床のない部屋の上を飛んだ。
「王女様はどうやってこっちに来るんですか?」
全員が渡り終えたあと、残された王女にロゼが声を張り上げて訊いた。
「心配はいらんのじゃ!」
王女が両手を下に向けて風を起こすと、王女の体がふわりと浮き上がった。
そのまま器用に手を前後に動かし、空中を飛んでゆっくりとこちらへやって来る。
十分腕が届くところまで王女が近づいて来ると、俺は王女を抱きとめて安全に着地させた。
「あ、ありがとうなのじゃ……」
王女はなぜか顔を赤らめて俺に礼を言う。
「いや、こちらの方こそありがとうございます。王女がいなかったら、この床のない部屋を渡れませんでした。さあ、先に進みましょう」
俺は王女の肩をポンと叩いてそう言った。
3階に上がると、これまでの階とは違う異様な空気が流れていた。
「ついにオーガとご対面か……」
クロティルドさんがいつになく低い声で呟く。
その視線の先を見て、俺は思わずゾッとした。
目の前に立ちはだかったそいつらは、ゴブリンをそのまま大きくしたような緑色の肌と毛むくじゃらで、身長は5メートル以上もあり、鋭い牙を持っていた。
そして、その黄色く濁った目は俺たち人間を明らかにエモノとして認識し、不気味な光を浮かべている。
こいつらが、オーガ……。
俺は腰に差した刀の鞘を強く握り直した。
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