クリスマスパーティと王子様・1
さて、晩ご飯はどうしようか。折角のパーティだ、豪勢なものを作りたい。皆に聞いてみたところ、芽唯と芽亜君、エルヴィラ、蕗乃ちゃん、久瑠々先輩と、皆来れるらしいし、結構な量が必要になる──割と半分くらいは、芽唯のお腹の中に収めるだろうけれど。流石に泉充と大丸さんは誘わなかったけれど、今朝電話したら、なぜか腰が痛いとか言っていた。それほど運動したんだろうか? 普段から運動する彼が、ユスタを歩き回ったくらいでそうした疲労感を感じるのだろうか。
泉充のことは置いといて、とにかく献立を考えないといけない。ただ、少し気がかりなのは、久瑠々先輩が今朝、届けてきた高級なお肉のセットと、エルヴィラの「私も料理したい」という発言だ。それと、蕗乃ちゃんの「昼は少し香恋と遊ぶ」との発言。
「…難しいな…」
「眉間にしわ寄ってるのです」
ショッピングカートを押しながら考える。さて、どうやって皆を満足させることができるだろうか。クリスマスと言えばやっぱりチキンだけれど、もうお肉は久瑠々先輩が送ってきているし。付け合わせに何品か、大皿を用意して、取り分ける形にするか。それとも、ご飯はほどほどにして、お菓子やケーキなんかを、ゆっくりと食べるか。
「…やっぱりでぃーはお菓子が食べたい?」
「はい! 甘いものは大好きなのです!」
「だよねぇ」
でぃーは、甘いものが好物だ。芽唯は、ほとんど何でも食べるけれど、結構がっつり食べたいタイプだ。芽亜君も同じ感じだけれど、味が濃いものが好きなのは、やっぱり男の子って感じがする。エルヴィラは、辛い食べものが好物で、蕗乃ちゃんは、さっぱり系が好み。久瑠々先輩は、ジャンクフードばっかり食べているらしい。やっぱりここは、皆の好物をそれぞれ作っていく形式にして、その後、ケーキとかを食べるって言う形にした方が良いだろう。
「そうだ、でぃー。今日はクリスマスだから、お菓子一杯買っちゃおうか」
「え? いいのです?」
「うん。好きなだけ、買おう」
「やったぁ」
でぃーと一緒に、お菓子売り場へと向かう。彼女のうきうきとした足取りを見ると、思わず頬が緩む。…ここ一年ばかりは、結構色々非日常が続いていたけれども、やっぱりこうして日常を過ごすのはやっぱり、良いものだ。
でぃーは、目についたお菓子をかごに入れていく。
「…あ、そういえばこれ蕗乃ちゃんが好きって言ってたっけ…こっちはエルヴィラに、それと久瑠々先輩は…で、芽亜君のはこれで、芽唯のはこれ、かな…」
「なにをぶつぶつ言ってるのです? お兄ちゃん」
「皆の好きそうな奴を買っとこうってね」
「へー…あ、じゃあでぃーが、お兄ちゃんの好きそうなお菓子を選んであげるのです!」
「わ、嬉しいな。それじゃあ、頼めるかな?」
「まかせるのです!」
でぃーは、鼻を鳴らしてかけていった。「走るのは駄目だよー」と言うと、早歩きになった。うん、良い子だな。
二十秒くらい経って、でぃーが帰ってきた。彼女が手に持っていたのは、薄焼きのせんべいだった。
「これ、お兄ちゃんが好きそうなのです!」
「…せんべいか…」
少し、そのせんべいには見覚えがあった。僕と父さんが二人きりになって、あまりお菓子が買われなくなった頃。一度だけ、父さんが買ってきて。それで、「思ってた味じゃなかったから食べて良いぞ」なんて言って、僕にくれたお菓子だ。懐かしいな。あのとき以来食べてないけど、妙に美味しかったのを覚えている。
「…もしかして、おきにめさなかったのです…?」
僕が昔を懐かしんでいると、でぃーが不安げに、僕の顔を覗き込んできた。僕は慌てて、「いいや、好きなお菓子だったから、驚いただけだよ。とっても嬉しいな」と答えると、彼女ははにかんで、「えへへ、やっぱりそうだと思ったのです!」と話した。彼女はにこりと笑って、せんべいをかごに入れる。もう、結構かごの中は一杯だ。…多分、先二週間ぐらいは、ずっとお菓子を食べることになりそうだ。でぃーに、ちゃんと歯磨きするように言っておかないとな。
「うん、お菓子はこのくらいかな。じゃあ、他に食材買いに行こうか」
「らじゃーなのです!」
でぃーと一緒に、食品売り場に行く。まずは、サラダ用の野菜。野菜を食べるだけで栄養バランスが整うわけじゃないけれど、やっぱり食べた方が良いことには良い。
続いて、いくつかの魚だったり、エビだったりと、海産物。
「お兄ちゃん、そんなに買って食べれるのです?」
「まあ、皆来るし…芽唯がいるからね」
「あー、なるほどなのです」
そうして僕らは、食材で一杯になった籠と、お菓子で一杯の籠を持って、レジへと向かうのだった。
「お兄ちゃん、でぃーがちょっと持つのです?」
「…じゃあ、これ持って貰えるかな? 一応、軽いとは思うんだけど、重かったら言ってね?」
「ぜんぜんおもくないのです」
「そっか。それじゃあ、家まで頼むよ」
でぃーに少し持って貰ったおかげで、なんとか家まで持って帰れた。ともすると、自転車を持ってきて、かごにのせて押して歩いた方が良かったかも知れない。…次こういうことがあったら、自転車を持ってこよう。
家が近づいてきた頃、玄関の前に人影が見えた。
「あれ、誰かいるのです」
「ほんとだ、誰だろう」
近づいてみると、それが誰なのか分かった。どうやら、エルヴィラがかなり早くに、家に来たらしい。
「…彩嗣。買い物に行ってたの」
「エルヴィラ、もう来てたんだ。ごめん、すぐ鍵開けるから」
「…今来たところだから」
荷物の多さに四苦八苦しながらも、なんとか鍵を開けて、エルヴィラを招き入れる。流石に結構寒いから、すぐに暖房を入れて、食材を冷蔵庫に入れながら、ダイニングに座るエルヴィラと話す。
「それにしても、結構早いね。まだ昼過ぎくらいだけど」
「…あの人数の料理なら、早くから準備が必要だから」
「そうだけど…その、ふみさんとか、北巻さんとかは?」
「…ふみは、父が好きだから。二人にしてきた」
「へぇ、そうなんだ…え!?」
思わず声を上げて振り向いた僕を、エルヴィラは不思議そうな顔で眺める。…ふみさんって、そうだったのか。知らなかった。
「いやあ、そうなんだ。まあ、好きな人とクリスマスを過ごせるのは、良いことだよね」
「…ええ、本当に」
彼女は、そう言って笑う。少し目を細めて、控えめに口角を上げる彼女の笑顔は、どこか妖艶で、今まで見た彼女のどんな笑顔よりも、なぜだか綺麗に見えた。
冷蔵庫にしまい、お菓子も棚にしまい終わったので、来客用のお茶を入れて──でぃーにはホットミルク──ダイニングに座った。エルヴィラと向かい合う形で、お茶を飲んで休憩する。
「この茶、とても匂いが良いけれど、どこの茶葉なの?」
「これね、久瑠々先輩がちょっと前にくれたんだよ。『高級品ではありませんが、この程度は客に出さねばなりませんわよ』って言ってさ」
「…だから、こんなに美味しいんだ」
「でもさ、言い方的に、そこまで高くないって思うじゃん?」
「…ええ」
「でもさ、調べてみたら…ほら」
僕は、エルヴィラにスマホの画面を見せた。箱にかいてあった情報から調べた、今使っている茶葉の値段が書かれたページだ。そしてそれを見たエルヴィラは、少し目を見開いて固まった後、目を白黒させながら「…これは、高級品だと思う」と呟いた。
「だよね。…やっぱり、久瑠々先輩ってお嬢様なんだなって」
「…少し、見直したかも知れない」
「…まあ、否定はできないかな」
少しの沈黙。茶を啜る音と、季節外れの鳥の鳴き声ばかりが聞こえてくる。そうして僕らはゆっったりとした時間を過ごした。…こんなに素敵で、綺麗な女の子とこんな時間を過ごせるなんて、とっても幸せだ。
「…エルヴィラみたに綺麗な女の子とこうしてると、とても幸せに感じるよ」
「…そう、ありがとう。…少し、恥ずかしいけれど」
「大丈夫、恥じらっている君も綺麗だよ」
「…そういう問題じゃない」
彼女と、でぃーと一緒に談笑したり、テレビを見ているともう四時だ。そろそろ、食事の準備に取りかかろうか。
「よし、それじゃあ準備しようかな」
「…私も手伝う」
「よし、それじゃあ料理しよう。そうだ、でぃー」
「なにです、お兄ちゃん?」
「でぃーには、このツリーの飾り付けを頼めるかな?」
僕は、飾りの入った袋を持ちながら、クリスマスツリーを指さした。少し前に買った、結構大きめの奴だ。それを指さして、でぃーに伝える。すると彼女は、「りょうかいなのです!」と言って、飾り付けを始めた。
「それじゃあ、僕たちは料理を作ろうか」
「…ええ。献立は?」
「とりあえず、こんな感じかな」
僕は、エルヴィラにメニューを書いたメモを見せる。すると彼女は、「…なるほど」と頷いた。
「…じゃあ、まずは下処理からしよう」
「そうだね。あ、そうだエルヴィラ」
「…なに?」
「エプロン、似合ってるよ」
「…そう」
彼女のエプロンを褒めると、彼女は顔をそらしてしまった。
「あれ、もしかして照れてるの?」
「…そういうわけじゃない」
「でも、そういうところも素敵だよ」
「…料理に関係ないことは話さないで。時間がもったいないから」
「ん、ごめん。じゃあ、とりあえず野菜と、お肉の処理からしていこうか」
そうして、ぼくらはキッチンで、二人で作業をしはじめた。二人で料理をするのは初めてだったけれど、不思議と息は合った。どこか波長が合うというか、そんな感じだ。
少し作業をしていると、呼び鈴が鳴った、手を洗って出てみると、どうやら芽唯がやってきたらしい。芽亜君も一緒だ。
「やっほー、来たよあくくん」
「おじゃまします、演良兄さん」
「いらっししゃい。寒いでしょ、ほら入って~」
すると、芽唯が袋を持っているのが見えた。頼んだとおり、ケーキを持ってきてくれているらしい。部屋に上がって、先にキッチンに戻っていると、コートを脱いだ芽唯がケーキを冷蔵庫に入れるために、キッチンに入ってきた。
「わ、美味しそ~」
「はは、良かった。そおうだ、一応つまみ食い用に、これ」
「わ、ありがとぉ~。うん、美味しい~」
「…良かった」
「あ、これエルちゃんが作ったの?」
「…味付けは、私が」
「うん、すっごく美味しいよぉ」
芽唯に褒められて、エルヴィラは頬をほころばせている。…それにしても、「つまみ食い用に少し作っておきたい」と言っていたのはこういうことだったのか。
「…うん、芽唯の食べる顔はやっぱり可愛いね」
「…えへへ、照れるなぁ」
そうして僕らが料理に戻ったので、芽唯と芽亜君は飾り付けを手伝っているらしい。
「だんだん賑やかになってきたね」
「…ええ」
そうして、更に場は賑やかになってく。それより時間が経って、久瑠々先輩と蕗乃ちゃんがやってきた。久瑠々先輩は、見るからに高級そうなお菓子やらを手土産に持ってきていた。
「つまらないものですが、どうぞ」
「…それ、絶対高い奴ですよね」
「いえ、そこまで高くはないですが…大体、数万程度ですわよ?」
「いや、高いですって。…そうだ、先輩、おうちの方は良かったんですか?」
「あー…振り切ってきました」
「あ、そうなんですね」
先輩は、頭に手を当てながらそう話す。随分疲れ果てているようだ。…まあ、ご両親だったり、家の方と仲良くなったのは良いことだ。
「まあ、先輩に見たいに美しい人と一緒に過ごせて嬉しいですよ」
「うぐっ…」
そして蕗乃ちゃんに目を向けると、数個の紙袋を持って、にやにやしている。
「やあ、蕗乃ちゃん。…なんだか、とっても嬉しそうだね」
「む、分かるか? まあ、香恋との遊びが楽しくてな。あぁ、あと良いものを持ってきたから、あとでのお楽しみだぞ」
「へえ。それは、楽しみだね」
「うむ!」
蕗乃ちゃんは、にやりと笑ってリビングへと歩いて行く。こうして、僕の家に、蕗乃ちゃん久瑠々先輩、芽唯に芽亜君、エルヴィラにでぃー、そして僕と、計七人が揃った。こんなに僕の家が賑やかだったのは、初めてのことだけれど、なぜだかとても、しっくりきた。
そうして、料理が完成して、部屋の飾り付けも完成して。机の上には、サラダやチキン、カルパッチョなんかが、所狭しと並んでいる。そうして僕らは席について、それぞれのグラスにジュースだったり、お茶だったり何かを注いで、乾杯をすることにした。
「えっと、それじゃあ皆。メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
そうして、とても楽しく、賑やかで、そんなクリスマスパーティが、始まったのだった。




