異能少女と王子様
月は、近くで見るとあんな感じなのか。ウサギが餅をついている模様には、あまり見えないな。
「クリスマスに月見をすることになるとは、思わなかったな」
「…ふむ、中々洒落が効いているな」
「今は無駄話をしてる暇じゃないだろ!」
ぼんやりと思ったことを呟いていると、夢川くん──“Dolls”の元司令──に怒られた。言っていることはもっともだけれど、ただ事態は、完全に僕の理解を超えている。それに、うっすらと見える、四本の巨大な炎の柱。そうした光景が世界の滅亡をひしひしと感じさせてくるものだから、はっきり言って僕は思考を放棄していた。
ただ、この事態に逆に闘志を燃やしている人もいるようで、夢川くんは何やら端末を取り出して分析しているし、仮名波羅さんは「月かぁ、斬った事ないけど斬れっかな?」なんて言っている。
「いやー怖いっすね仮名波羅先輩。ふっつー、あれ斬ろうって思えないでしょ」
「あーん? やろうと思わなきゃやれねーじゃん。あのさぁ、青海は臆病なんだよね。せっかく能力持ってんだしさ、もっと出しなよ勇気」
「うっわ、パワハラやめてくださいよ」
「は? どこが?」
「…僕が言うのも何ですけど、もう少し緊張感というか…」
何んやかんやと話していると、背後で夢川くんが「まずい」と声を上げた。振り返ると、彼は蒼白な顔で、端末を見つめていた。
「何か分かった? 夢川くん」
「結論から言う。…月が落下した瞬間、この星は壊滅する」
「…それは、よく考えなくてもそうなんじゃ?」
「…いや。そもそも月が落下することはない。地球に近づくと、勝手に自壊するようになってるからだ。でも、あの月には、不確定なエネルギー障壁があるから、恐らく地球との衝突は免れない。それでも、ただ衝突するだけなら、まあ地球が壊れることはないだろう」
「あの大きさなら、そのぐらいはありそうだけど」
「…詳しい説明は省くけれど、地球という星自体は壊れない。生命体は全て、死滅するが」
「じゃあ、なぜ星が壊滅するんじゃ? その説明じゃと、月の落下と地球の存続は無関係なんじゃろ?」
話を聞いていた地丸さん──写真でしか見たことがないので、もしかしたら違うかも知れない──が、夢川くんに問う。実際、僕も要領をつかめていなかった。すると、夢川くんは立ち上がり、海の方を指さした。そこには、巨大な炎の柱が立っていた。けれども不思議なことに、柱の周りに、だんだんと炎が広がって行っているようだった。
「あの柱。炎に見えるが、恐らく全く別のエネルギー体だろう。観測の結果、あれは地表に同一のエネルギー体を広げ、そして地下へと沈下している」
「…なるほど、のみ…いや、杭というわけか」
「その通り」
炉ノ路が、説明に納得したというような口調で、夢川くんに相づちを打つ。僕はと言えば、ほとんど理解できていなかった。そしてそれは、世々川さんも同じだったらしく、「…もうちょい分かりやすくして貰って良い?」と聞いていたので、炉ノ路が「では僕が説明しようか」と話し始めた。
「そうだな、まずあれは炎のように見えるが、実際はかなり堅い物質とみて良いだろう。そしてそれが、地表を覆って、地球の地下深く、恐らくはマントルまで進んでいくはずだ。そしてその進みは、月の落下よりも早い」
「ということは、月が落ちてくる前に、地球を炎が覆うのだな」
「その通りだよ、猪谷。では、ここで簡単なたとえ話をしようか。ハンマーを使って、石を割るにはどうすれば良い? そう、尖ったものをあてて、上からハンマーで叩くんだ。それと同じ事が、今地球で起こっている。あの炎が、地球に打ち込まれた杭の役目を果たし。月が、巨大なハンマーとなって、それを叩く。…そうなると、月の衝撃は地球内部まで伝わり、地球を破壊する」
「…ディーナさんの行ってた、星を破壊するってのは本当なのか」
「ああ。恐らく、ディートリンデ──いや、あの少女は月と柱を用いて、地球を破壊するつもりだ」
動揺が広がる。その最中、夢川くんが口を開く。彼の眼には、闘志が宿っていた。
「対処法はある。現状の脅威は三つ。炎の柱と、墜落する月と、神。それら三つのうち、炎の柱は、ここにいるだれであっても、破壊可能だ」
「…本当に? あれはかなり、強そうだけど」
「問題ない。能力、あるいは兵器を用いた攻撃には脆いと、観測した。つまり、作戦は…」
彼が、作戦に言及した瞬間。ディーナさんが、行動を始めた。彼女の頭上に、白い球体が出現する。そしてそれは、数百に分かれて飛来した。
「…けっこうできる奴もいるみたいだけどさ。ボクが、その程度の弱点把握してない訳ないだろ?」
そして、飛来していった破片は、それぞれが怪物へと変化した。結果として、四本の柱の周囲を百体以上の怪物が取り囲むこととなった。
「まずいですね。これでは、柱を破壊するのも一苦労です」
「ちっ、流石は神か。随分、怖いんだな」
「…まずいな。あの怪物、かなり強いぞ。それこそ、ここにいる全員を、四手に分けた方が良いくらいには」
「なるほど。ただでさえ悪いのに、更に向こうに形勢が傾いたというわけだね」
状況の悪化が、皆の雰囲気からひしひしと伝わってくる。けれど、恐らくこの中で僕だけが、予感していることがあった。だから、僕は皆に言った。
「皆さん。柱を頼みます。代わりに、あの月と、ディーナさんは僕に任せてくれませんか」
「…何を言っているんだ彩嗣。聞いていなかったのか?」
「あまり、賢い策には思えないが」
「彩嗣様、それは無茶です…!」
僕の提案に、夢川くんにふみさん、猪谷が反応する。けれども僕は、何も言わずに彼らの顔を見た。…彼女をどうにかするのは、絶対に僕がやらなければいけないから。だから、この場での最上の選択は、きっとこれだ。
すると、炉ノ路が僕に近づき、眉をひそめながら、僕に「そう提案するということは」と聞いてきた。
「君には、あるのか。あれらを、止める手立てが」
「…手立ては、ありません」
「なら、認められはしない」
「でも。“あて”ならあります。頼もしい、味方が」
「…本気か?」
炉ノ路が、僕を見る。僕は、ただじっと彼を見た。僅か数秒の後、炉ノ路は、思うところがあったのか頷き、そして「柱の怪物の戦力比は?」と夢川くんに訊いた。
「…正気か?」
「君達も、知っているだろうけれど。…彩嗣演良君は、信じるに値するよ」
「…! そうですね。忘れておりました」
「はは、そうだな」
炉ノ路の一言で、空気が切り替わる。そいて炉ノ路は、夢川くんに情報を聞いた後、皆に向けて言った。
「とりあえず僕の判断で、皆を四つに分けて柱の近くまで飛ばす。その後は、各自の判断で、怪物を倒し柱を破壊してくれ。…柱を壊す方法は能力による攻撃、現代兵器、何でも構わない」
「ざっくりすぎんね社長」
「…もともと僕は、立案は苦手だ。…それじゃあ、彩嗣くん、ここは頼むよ。…諸君、武運を祈る!」
彼がそう言うと、皆が目の前から消えて、僕一人だけになった。僕は、海の方まで歩いて行く。月が近づいた影響だろうか、海は異常なほどに荒れ、重力はおかしく、建物や岩の破片が宙を舞っている。けれども僕は、ただディーナさんを見据えて、歩く。
「…僕がやるべき事は、月を落とさないことと、世界の破壊を止めさせること。…そして、でぃーを救うこと」
重力は軽いわけではなく、場所によって、重かったりもする。宙を舞うがれきが僕の肌を切り裂く。けれども、この程度、足を止める理由にはなり得ない。
空が、次第に明るくなりはじめる。夜明けが、近い。随分、長い夜だった。きっと、これまで僕が経験した中で、一番長い夜だった。
「僕は、この世界が好きだ。時折辛いこともあるし、悲劇もある。でも、皆に会えたのは、この世界があったからだ。僕は、この世界を守りたい。だから、皆──」
立ち止まる。瞬間、背後から四つの音が聞こえてくる。機械が駆動する音、何かが燃える音、ラジオのノイズのような音、金属がひしゃげるような音。そしてすぐに、4人分の足音がきこえる。
「力を、貸してくれるかな?」
「──もちろんだよ!」
「──当然!」
「──は、当たり前であろう!」
「──言われるまでもありませんわ!」
僕の背後に、芽唯とエルヴィラ、蕗乃ちゃんに久瑠々先輩が、降り立った。
「…良かった。皆、無事だったんだね。それにしても、どうやって帰ってきたの?」
「私は、青海さんのワープゲート真似てつくったら、なんとかうまく出来て」
「…とにかく、全力で炎をつくって、高エネルギーで世界と世界の壁を壊した」
「余は、単純に世界全てに幻を見せたのだ。余は、この世界の存在ではない、とな」
「限界まで重力を高めて、世界を歪めるとどうにか、帰ってこれましたわ」
なるほど、やっぱり皆は凄いな。僕が感心していると、芽唯が、辺りを見回しながら言った。
「…あー、なんかこっちの方が大変見たいだね」
「あー、うん。ディーナさんが、色々やっちゃって…」
芽唯に訊かれたことに答えていると、エルヴィラが空を見上げながら、首をかしげた。
「…月、こんなに近かった?」
「あ、それは、ディーナさんが落としてさ」
「…ふむ。気になることはいくつかあるが、そのディーナとやらは誰なのだ?」
「あれだね」
僕は、ディーナさんを指さした。すると蕗乃ちゃんは、彼女を見て、「あれはディーではないのか?」と言い、腕組みをした。
「…状況がつかめんな」
「話すと長くなるんだけど、とにかく今のでぃーは、神…ディーナさんなんだ。そして彼女は、僕の前世の友達で、地球を滅ぼそうとしている」
「いや、情報量半端ないですわね!」
僕の説明に、頭を抱えながら久瑠々先輩が反応する。…うん、やっぱり皆といると、落ち着くな。こんな、世界の終わりだって言うのに。
けれども、ほんわかしている暇はない。そうこうしているうちにも、月は刻々とその距離を縮めている。僕は、皆に向けて言った。
「…皆、状況をつかめてないと思う。でも、とにかく。僕は、彼女を止めたい。僕が王子様だから、だけじゃない。…ただの、お兄ちゃんとして。僕は、悪いことをした妹を、叱らないといけないから。だから、皆──」
「大丈夫ですわ、演良さん。貴方が、言葉を尽くす必要はありません。なぜなら…」
「私達が、貴方を助ける」
「うん! まかせてよ、あくくん!」
「ふ、相対するは神、か…面白い。相手にとって、不足なしよ…!」
「ありがとう、皆。…やっぱり僕は、皆が好きだよ」
「す…っ!?」
「…うっわ、ずるいなぁ」
「ええ、ずるいですわね」
「…けれど、それが彩嗣」
なんて、心強いのだろう。一筋の熱いものが、頬を伝う。僕は涙を拭って、ディーナさんの方を向いた。
「それじゃあ、作戦…といっても、かなりアバウトだけど、とにかく何をするか伝えるよ。まず、久瑠々先輩と、エルヴィラ」
「何でしょうか?」
「月を、止めてくれ」
「…はい?」
「…え?」
僕の言葉に、二人は一呼吸置いて、同じように目を見開いた。
「久瑠々先輩の重力で、月を押し戻して、それと同時に、エルヴィラの炎で、月に逆の推進力を与えるって言う作戦なんだけど」
「…はぁ…まじで言ってますの?」
「…来望、彩嗣は本気で言っていると思う」
「…あれどうしたの二人とも」
何やら二人でひそひそ話し始めたので訊いてみると、二人とも僕を見て、「…気軽に言ってくれますね」「…荷が重い」と言った。
「え…でも、二人ならきっと出来ると思って…」
「…はぁ」
「…まあ、仕方ない。彩嗣の頼みだ。しよう、来望」
「ま、そうですわね。やれるだけのことはやってみましょうか。…分かりました、演良さん。こちらは、お任せを。必ずや、月を止めて見せますわ」
二人は胸を張って、そういった。やっぱり、頼りになるな。月を二人に任せて、僕は芽唯と蕗乃ちゃんを見て、もう一つの作戦を話した。
「…二人には、僕がディーナさんの近くまで行く、手助けをして欲しい」
「近くに?」
「ほう。つまり、近づけなんとかなる、算段があるのだな」
「うん。厳密に言えば、触ったら、なんだけど」
そうですよね、と自分の中にいるアリスさんに問う。すると彼は、「うん。君の力を借りれば、僕とディーナの間に、対話する空間を仮想で作れるよ」と答えてくれた。
「…分かった! それで、私達は何を?」
「芽唯には、僕が彼女のところまで行くための、乗り物を作って欲しい。それも、とびきり早くて、できるだけ撃ち落とされず、初っぱなから最高速が出せるものがいい」
「なっ…ちゅ、注文が多いね…」
「…頼む、芽唯。芽唯にしか、できないんだ」
芽唯の方を掴んで、目を見て頼む。すると彼女は、こくりと頷いて、「分かった」と答えてくれた。
「私に任せて、あくくん」
「ありがとう。それで、蕗乃ちゃん」
「応。何だ?」
「蕗乃ちゃんには、僕がディーナさんのところに辿り着くまで、彼女を動けないようにしておいてほしい」
「…あれを、か?」
彼女は、ディーナさんを見る。ディーナさんは、宙に浮かんでいた。そしてその周りを、百ほどの怪物や、魔方陣が浮遊している。
「…いけて、数秒と言ったところだな」
「…そう、なんだ。でも…」
「まあ、限界なんて、越えれば良い。任せよ、例え悠久であろうと、余が彼奴を止めてみせる」
「…蕗乃ちゃん、ありがとう」
「は、良い! 其方の頼みだしな」
皆のおかげで、なんとかなりそうだ。僕は、皆に向かって叫んだ。
「それじゃあ皆! 行こう!」
「うん!」
「ええ!」
「応!」
「はい!」
僕の言葉に合わせて、久瑠々先輩とエルヴィラが、動き始めた。久瑠々先輩は両手を空に向かって突き出し、叫ぶ。そしてエルヴィラも、月に向かって、途方もないほどの炎を打ち上げた。
「はあああ!!」
「…はっ!」
重力と炎が、月にぶつかる。とてつも無い衝撃が、地面まで届く。立っていられないほどに凄まじいその衝撃に、彼女たちは耐えていた。
「くっ…やはり、一筋縄ではいきませんわね!」
「けれど、月の速度は落ちている…!」
エルヴィラの言うとおり、月の速度は次第に落ち始めていた。凄い、流石二人だ! 僕は二人に「頑張れ」と応援を送る。これしかできないのは歯がゆいけれど、二人は僕を見て、にこりと笑った。
「…ふふ、ねえ、来望…」
「何でしょうか、エルヴィラさん」
「やはり、好きな人の声援は、力になる」
「…ええ、全くその通りですわね…!」
二人の力が増した。そして、結果──月の動きが、完全に止まった。
「はぁ、はぁ…まだ、まだぁ!」
「…チッ。めんどくさいなぁ、お前ら。まだ、抵抗するの?」
すると、しびれを切らしたのか、ディーナさんが声を発した。彼女の方を向くよりも早く、二人に、攻撃が差し向けられる。巨岩、光線、獣。数十の攻撃に、身を挺して守ろうとするけれど、間に合わない。
「…やっぱり、殺すよ! 君たちも!」
「エルヴィラ、久瑠々先輩──!」
しかし、攻撃が早くて、間に合いそうにない。二人に、攻撃が降り注ぐ──と、思った瞬間。彼女が、呟いた。
「…狐を、忘れてはおらぬか?」
瞬間。攻撃が、止まった。僅か、後数センチの距離で。そして、同時にディーナさんの動きも、止まったようだった。
振り返ると、蕗乃ちゃんがディーナさんに向けて、掌を突き出している。
「蕗乃ちゃん!」
「ありがとうございます、蕗乃さん!」
「…助かった!」
「くっ…流石に、重いな…これが、其方の力か…!」
「…この、程度で…! このボクを…!」
蕗乃ちゃんの身体には、汗が流れ、そして鼻血も流れ始めた。思わず声を上げそうになるけれど、必死にこらえる。恐ろしいことに、蕗乃ちゃんの決死の行動をも、ディーナさんは力ずくで破ろうとしている。
「ぐっ…長くは持たぬぞ、演良…!」
「…もう少しの辛抱だからね、蕗乃ちゃん! 芽唯、どう!?」
「はぁ、はぁ…うん、できたよ!」
芽唯の方を向くと、芽唯の側に、二本の鉄の棒に挟まれた、戦闘機のような物体があった。
「これは…?」
「電磁着陸砲台付戦闘機。…まあ、ほとんど見せかけだけど、初速から最高速だよ。…それじゃあ、のっ、て…」
芽唯は、説明する途中に体力が尽きたのか、その場に倒れ込んだ。思わず駆け寄ると、彼女は僕を見て、「大丈夫だから…」と言った。けれどその声はかすれていて、どう見ても、大丈夫ではなかった。
「芽唯!」
「ちょっと、作り過ぎちゃっただけ…大丈夫、これは、ちゃんと出来てるから…」
「でも…」
「行って、あくくん。今しか、ないよ」
「…うん、分かった。それじゃあ、行ってくる!」
血が出るほどに強く拳を握りしめながら、僕は戦闘機の上に乗る。そして直後、戦闘機は尋常でない速度で飛翔した。凄まじい重力に、目と鼻から血が流れてくる。けれど、この程度だ。皆の痛みに比べれば、どうと言うことはない! 空を見ると、月はかなり押し戻されていた。辺りにあった柱も、もう既に、数本が壊されている。
「ぐっ…しがみついてるだけで、やっとだね…これは…!」
戦闘機に乗ったまま、ディーナさんを見る。彼女は僕を、驚愕の眼差しで見ていた。
「しぶといなぁ…! くっ、迎撃が…!」
蕗乃ちゃんのおかげで、彼女は動けていない。しかし驚くべき事に、ほとんど力ずくで右腕だけを、拘束から外したらしい。そして直後、攻撃が僕を襲う。
「くっ…ここからは、絶対に落とされないぞ…! ディーナ!」
「なら、これでどうだぁ!!」
瞬間、真っ黒な壁が、出現した。一瞬、思考が止まりそうになる。けれども、それはだめだ。皆の頑張りに答えるためにも、王子様であるためにも、兄としても、僕はここで、止まっているわけには行かない!
壁は、そこまで高くはない。…かなり怖いけれど、ここは飛ぶしかない。ディーナとの距離は、あと僅か。飛んでも、きっと間に合う。
「う、おおおお!! 王子様ジャンプだぁ!!」
飛ぶ。真下を、壁が通過していく。月の影響か、彼女の魔法か、ここは重力がかなり弱い。幾つもの攻撃が、僕の身体を何度も穿つけれど、僕は止まらない。そして、あと僅の距離まで来て、僕は彼女に向かって手を伸ばした。
「なっ…!」
「…そのまま、墜ちろ!」
しかし、直前。僕と彼女の間に、一枚の障壁が生成された。あと、少しなのに…! 思わず、絶望してしまいそうになる。しかし、僕は一人ではなかった。彼の声が、僕に囁く。
「ちょうど、そこだ。そこが、その魔法の核だよ」
「…ありがとう、アリスさん!! …来たよ、でぃー」
力を込めて、壁を破る。そして僕は、魔法を発動しようと前につきだしていた、ディーナの──でぃーの手を、強く握った。




