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世界でいちばん長い夜・伍

 炉ノ路(ろのみち)が、攻撃を仕掛ける。黒い縄、光線、謎の獣、数え上げたら切りが無い多彩な攻撃をくぐり抜けて、懐に入る。一撃──は、虚空から出現した盾に防がれ、カウンターで殴り飛ばされる。


「くっ…流石に、手数が多い…!」

「はは、僕がこれまでどれだけの能力者に出会ったと思っている。所持している能力など──腐るほどある!」


 炉ノ路が手を伸ばすと、赤色の霧が、こちらに伸びてくる。危険を感じて飛び退くと、背後には電撃の網が設置されていた。しびれて動けず、赤い霧が左腕を覆う。直後、左腕が()()()()


「くっ…」

「僕を相手にするというのは、数百の能力と同時に相手することと同義だ。君の能力、アンリミテッドアンデッドは実に強力な能力だ。僕のその攻撃も、徐々に治り始めている」


 炉ノ路の言葉通り、僕の左腕は回復する。持続力が無いのだろうか、赤い霧は既に消えていた。しかし、僕を見下ろす炉ノ路は、嗤う。


「が、あまりにも決定力不足だ。君の能力もコピーして、詳細を僕も知ったが…再生力ならいざ知らず、それを攻撃に転ずる方法は皆無だ。…それに、君は何の武器も持っていない。別に武術に長けているわけでも無いのだろうに。折角の不死の力なんだ。相打ち覚悟で武器を使うのが上策だと、僕は思うのだけれどね」

「さて…本当に、そうでしょうかね!」


 僕は、左腕から流れる血を振りまいた。炉ノ路は顔を手で覆い、僅かに後ずさる。その直後に、攻撃を仕掛けるが──難なく躱される。


「血を使って視界を奪う。発想は良いけれど、君のような素人は視界が無くても読めるよ」

「それじゃあ、これは──読めるか!?」

「なっ──ぐっ!」


 僕は、炉ノ路の顔についた血を起点に“再生”し、炉ノ路の顔を、凄まじい速度で殴りつけた。炉ノ路はよろける。そこに再び、血を飛ばし、“再生”して追撃する。今度は炉ノ路がうずくまり、僕が彼を見下ろした。


「──ここからが、本番だ。炉ノ路!」

「くっ…一度や二度、攻撃をあてた程度で調子に乗るな!」


 炉ノ路が、うずくまった体勢から攻撃を仕掛けてきた。多彩な攻撃──だが、どれも既に見たものだ。避けきれないまでも、致命的な攻撃は避け、炉ノ路を蹴り飛ばす。僕が避けたのが意外だったのか、炉ノ路は避けきれず、クリーンヒットした。


「なに…貴様に、そんな能力は無いだろうが」

「それらの能力は、何度も見た。既に見た攻撃を避けられないほど、僕も馬鹿じゃない」

「…良いだろう。では、これでお相手するとしようか」


 そう言うと炉ノ路は、右手を横に伸ばした。青い光りと共に、不思議な紋様の、大きく反り返った刀が出現した。炉ノ路は、それを握る。


「…なるほど、“カイヘンカタナ”」

「その通りだ。これは、使用者の力量によって能力の強度は変化するが…私には他の能力もある。今の私は…」


 そう言うと、炉ノ路は刀で、近くの壁を斬りつけた。まるで豆腐のように刀は壁を切り崩す。


「この程度の力量にまで、強化してある。では征くぞ、彩嗣演良(あづきあくら)!」


 炉ノ路が、刀を持っていない方の腕を突き出す。瞬間、今まで感じたことの無い衝撃が僕を吹き飛ばした。空中で炉ノ路の姿を見失う。


「どこに──」

「これだけで勝負とは言っていない!」


 彼の声が、背後から聞こえた。だが、気づいたときにはもう遅く、僕は背中を、大きく斬られてしまった。とてつもなく熱く、痛い。そのまま倒れ込んだ僕を、炉ノ路は覗き込むように眺めて売る。彼の表情には、侮蔑が、文字で書いてあるかのように色濃く浮かんでいた。


「これが、本来の“ウルトウェーブ”だ。はは、なんだかんだと、“いちばん”達の“プレゼント(能力)”は強いのが揃っている」

「ぐっ…いいのか、そんな風に僕に近づいて」

「はは、さっきの攻撃ならもう効かないよ。もう見たからな。…じゃあな、彩嗣演良!!」


 彼が、刀を振り下ろす。…本当は、こんな場面で使うつもりはなかったけれど、賭けだ。僕は、右腕を、刀の軌道上においた。


「防げなどしない!」


 まるで肉をかき分けるように、刀は僕の右腕に侵入する。が──かきぃん、と言う音とともに、刀は折れて、飛んでいった。


「…は?」

「油断したな、炉ノ路!!」


 僕は、起き上がりながら、彼に攻撃を加える。僕に殴られてもなお、彼は事態を飲み込めていないようだった。


「なぜ折れる…“カイヘンカタナ”だぞ、かなえの能力だぞ。貴様、何をした!」

「…これだよ」


 僕は、まだ切り傷が治らない右腕を、彼に見せる。僕の右腕には、あの日仮名波羅(かなはら)が置いて帰った、小刀の刀身が仕込んであったのだ。


「それは、まさか…」

「そう、仮名波羅の刀身だ。…彼女の能力は、刀に宿る。つまり、この刀はお前の刀を打ち砕くには、十分な力を持つ刀だったのさ」

「…外傷如きでは壊れぬ刀が折れたのも、そのせいか。…く、ここまで僕がダメージを負ったのは久しぶりだ」

「…さぁて、それじゃあそろそろ、決着と行こうか」

「決着…? 刀を折った、それだけで君は優位に立ったと思っているのか? 最近の若者は読解力が低いと聞いたが、これまでとは。嘆かわしい!」

「なっ!?」


 突如として出現した鎖が、僕の身体を取り巻いた。その拘束に、僕は動けなかった。


「…でもまあ、君が強いのも事実だ。このままやり合っては、後々に差し支える。そういうわけで、僕は器を回収して、そのまま去るとしようか。…おや、先ほどまでの攻防で、ちょうど器の病室のすぐ側に来ていたらしい。ではな、彩嗣演良。次に会うとき、僕らは互いに、何の能力も持ち合わせていないだろうね」

「待て…!」

「ま、そのときに殴ると良いよ。無能の拳で、無能な僕をね」


 そう言うと、炉ノ路は病室の扉を開けた。けれど、そこには──芽亜(めあ)くんは、いなかった。炉ノ路は、「…え?」と驚く。


「なぜだ? 君らの中に、器を逃がせる能力者はいない。器が病室にいるのも、確認していたぞ。…なぜ、いない?」

「はは、行っただろう炉ノ路。僕にはさ、多いんだよ。頼れる友達がね!」

「…彩嗣、演良ぁ!!」


 激昂した彼の掌から生じた衝撃波で、僕は病院の壁を破って飛ばされた。暢気に、今日の夜空は格別に綺麗だな、なんて思っていたら、追いかけてきた炉ノ路に、空中で殴り飛ばされた。とてつもない威力で、気を失いそうになりながら、僕は地面に激突した。


「がはっ…」


 あまりの痛さに、気を保つので精一杯だ。けれど、一度気絶したらお終いだ。だから、とにかく気を強く保って、回復をしろ。

 けれど、猶予は無かった。なぜなら、槍を手に持った炉ノ路が、僕のすぐ側に来ていたからだ。


「彩嗣演良。もう何も聞かない。君を殺して、君の記憶を直接読ませて貰うよ」

「あー…あんまり、プライバシーを覗かれるのは嫌だなあ」

「…きみのをコピーして分かったが、君の力にも限界はある。限界まで、君を殺し続けさせてもらうよ。さようなら、彩嗣演良」


 世界が、スローモーションに見える。例えば交通事故に遭った人は、視界がスローモーションになる、なんて聞いたことがあるけれど、まさにそれだろう。僕の脳が、リアルな死を認識して、回転を速めたらしい。

 だからか、それはとてもよく見えた。スローの世界で、見知った背中が僕の前に現れて──でいーが、刺される瞬間が。ゆっくりと、見えた。


「…え、でぃー?」

「は? …誰、だ…?」

「…喧嘩は良くないのです、お兄ちゃんに…お父さん」


 でぃーが、血を吐きながら言葉を紡ぐ。僕は彼女の傷を抑えながら、「話さなくて良い」と言おうとしたけれど、でぃーは、構わずに続けた。なぜか、炉ノ路の顔は蒼白になり、そして一言、呟いた。


「…ディート、リンデ?」

「…久しぶりに、会えたのです…おとう、さん…覚えて、いてくれたのですね」

「当たり前だ…! 娘の顔を、忘れる父親なんているわけがないだろ…!」

「良かったの、です…」


 でぃーは、その言葉を言って倒れ込んだ。彼女を支えて、手を握る。だんだんと、手が冷たくなっていくのが分かる。父さんが死んだあの日を思い出して、頭が動かない。


「ごめんなさい、お兄ちゃん…でも、ボクは…」

「話さなくて良いから! 大丈夫、病院の側だから、すぐに運ぶから…!」

「えへへ、お兄ちゃんが、心配してくれて…嬉しい、の、です…」


 でぃーの首が、がくん、と力を失う。


「…なんで、今、ディートリンデが…」

「炉ノ路!!」


 そのときの僕は、目の前の男が敵だなんて忘れていた。ただ、呆然とする彼の肩を揺すって、叫んだ。


「お前なら持ってるだろ!! 傷を治す能力!! さっさとしろ!!」

「…へ、あ…あ、ああ、そうだ…僕には、能力、が…」

「呆けてるんじゃ無い! お前は、二度も僕から家族を奪うのか!? そんなの許さない! さっさと治せ!!」

「あ、ああ…分かった…」


 ふらつきながらも、炉ノ路はでぃーの傷跡に手を当てる。


「演良さん! 何が起こったのです!?」

「でぃーちゃん大丈夫!?」


 いつのまにか来ていたらしい、芽唯(めい)久瑠々(くるる)が問いかける。僕は簡潔に、「僕らの戦いに巻き込んでしまった」とだけ伝えた。


「とにかく、今は炉ノ路さんに治してもらってる」

「…そのひと、信用できるんですの」

「…今は、信用するしか無い」


 切羽詰まって、気を遣う余裕が無いから、不躾な言葉遣いになってしまう。ただ、久瑠々先輩もそれを分かってくれているのか、「そう、ですわね」と返してくれた。

 すると、治療している炉ノ路が、小さな声で呟いた。


「安心しろ。…僕は、この子の親だ。絶対、死なせるものか。…二度と僕は、家族を失わない…!」

「…え、親?」


 そう話す炉ノ路の顔は、真剣そのもので──まるで、僕の父を殺し、芽唯の弟を攫おうとしている悪人には見えなかった。





 「おーい、ディートリンデ、ご飯だよ」

「すぐ行くのです!」


 階段の手前から、二階に向かって大声を出すと、これまた大きな声で返事が返ってきた。リビングに戻ると、妻の奈津子(なつこ)さんが、テーブルに食器を並べているところだった。


「手伝うよ、奈津子さん」

「あら、ありがとう露那(ろな)。…それにしても、ディートリンデは元気ね」

「うん、そうだね。僕らは結構陰気だからなあ」

「あらそう?」

「そうだろう、僕らは作家なんだから」

「それは偏見ねえ」


 笑いながらお昼ご飯の準備をしていると、ディートリンデが降りてきた。彼女は元気に、「美味しそうな匂いがするのです!」とはしゃいでいた。


「ちゃんと手は洗ったかな?」

「勿論なのです!」

「ふふ、それじゃあ食べましょうか」

「いただきます、なのです!」


 美味しそうにご飯を食べるディートリンデを見て、僕らも笑顔になる。彼女がやってきてからの食卓は、いつも明るい。

 ディートリンデは、僕と奈津子さんの実の子どもでは無い。僕の友人の、忘れ形見だ。まあ、彼女はそれを覚えていないのかも知れないけれど。ただ、実の子では無いとか、血が繋がっていないだとか、そんなことは関係ない。僕にとって彼女は、本当の娘なのだから。

 だから、あの日は絶望した。家族で出かけた日、気づくとディートリンデは消えていた。駅のホームで、僅かに目をそらした瞬間に、ではなく。コピーした能力で、どうやって探しても──ディートリンデを、見つけられなかった事実に。


「…ごめん、奈津子さん。僕は…」

「…いいえ、大丈夫よ」

「こんな、能力を、持ってるのに…」

「でも、能力を持っていなければ、私達は死ぬまで、娘を探し続けたはずよ」

「…でも」

「それに、私達の娘だもの。きっとどこかで、健気に生きているわよ」


 奈津子さんの優しさには救われた。そしてそれから、僕は、“プレゼント”を持つ人の支援に力を注いだ。そうしているときは、娘を亡くした悲しみを忘れることが出来たから。

 そうして僕は沢山の人に出会った。世界を渡り歩いていると、能力が、不幸を呼ぶ原因になりうることになっていることに気が付いた。けれども、能力のおかげで繋がる縁もあった。だから、不思議と能力のことを嫌いにはなれなかった。僕は、組織の名前を“キルループ”とつけた。能力による不幸、その悪循環を断ち切る、という意味だ。

 そうして、長い間歩き続けた。そして、キルループが大きな組織になった頃、事件は起こった。


「あれ、これ…なんでここにあるのかな」

「あら、おもちゃ? 懐かしいわね、それ。…ディートリンデ、そういうのが好きだったわよね」

「あぁ、そうだね。はは、懐かしいな」


 執務室に、なぜかおもちゃの刀がおいてあった。昔、ディートリンデはおもちゃの刀を気に入って、どこに行くにも持って行ったなんてこともあった。つい懐かしくて、僕は軽く、振るってしまった。──それが、いけなかった。かなえに鍛錬して貰っていた僕は、おもちゃの刀で人を殺すのに十分な技量を、身につけてしまっていた。本人の技量が追いついているならば、それを叶えるように刀の性質を改変する能力が、発動してしまったのだ。…そして、不幸なことに。僕は、人の傷を治す能力を、持ち合わせていなかった。


「奈津子さん!…ごめん、僕のせいだ!」

「…あら…ふふ、大丈夫…貴方のせいじゃない、わ…」

「…でも、僕の、能力のせいで…」


 口から血を吐きながら、奈津子さんは話す。彼女は僕の手を握って、途切れ途切れに話す。


「…ふふ、貴方が望んだことじゃないわ…それにね、露那…私は、貴方に殺されて嬉しいのよ…」


 奈津子さんは、僕の腕の中で死んだ。…作家なのに、彼女の死を形容する言葉が、ただの一つも出てこなかった。僕はただ、彼女を眺め、そして、誓った。──この世界から、“プレゼント”なんて腐ったものを、消し去ってやると。

 …その結果が、これか? 娘を、この手で殺すなんて。…僕は、こんなことがしたかったのか。身体から、何かが抜けていく。…でも、今の僕は違う! きっと、彼女を救えるはずだ。あの頃には無かった能力を、僕は──


「無様だな、炉ノ路。まぁしょうがねぇか」

「…誰だ!?」

「…お前は、まさか…!」


 背後から、声がした。そこには、赤いひとみをした、ローブに包まれた人物がいた。…これは、まるで──


「なぜ、魔学徒がここにいる!?」


 確か彼女は、文乃蕗乃(ふみのふきの)だったか。


「魔学徒? ずいぶん、懐かしい呼び方だな。そうだな、自己紹介しておこうか、俺は、魔学徒コーギル。さて──そこの形代は、もはやどうでも良いのだがな。しかし、良い能力だなぁ炉ノ路ぃ。この餓鬼の能力を使えば──器をこんな風に、呼び出せる!」


 男は、手を突き出した。次の瞬間、器が──瑪奈川芽亜が、彼に持たれていた。そして彼は、事態を飲み込めていない彩嗣演良に触れて、言った。


「じゃあな、模造品ども。あ、そうだ炉ノ路。憑依したよしみだ、最後に教えといてやるよ。…いくら能力が発動しようがなぁ、おもちゃの刀で人は死なねぇよ」

「…何を、言って…?」

「作家だろ、行間読めよ。…それじゃあな。お前らは、ここで見ているが良い──世界の始まり、神の復活を!! お、そうだ。お前らの力は、貰っていくぞ」


 そう言うと、男はどこから取り出したのか、杖を掲げた。直後、周りの人は倒れこみ、そして僕も、男が消えたのを見て──気を、失ってしまった。

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