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世界でいちばん長い夜・肆

 絶叫系は結構好きや。風に吹かれるんもええし、何よりスリルがあるんが良い。死の危険性も少ないし。…まぁ、俺の隣にいる子は、全然そんな余裕無いみたいやけど。


「…だいじょぶ槇葉(まきは)ちゃん? 今からでも列抜ける?」

「だ、大丈夫です! ここ、怖くなんてありませんので!」

「ほんまに?」

「ほ、ほんとうです!」


 隣にいる槇葉ちゃんは、冷や汗かいて、震えてるのが丸わかり。まあこれはこれで可愛いんやけど、彼女の怖がってるとこなんて別に見とうはない。ただ、やっぱり槇葉ちゃんは、乗るのをやめるのは嫌らしい。


「んー、別に無理して乗るもんでも無いと思うけどなぁ。…俺も、無理して乗せたくはないし」

「…でも、泉充(いずみ)くんは、好きなのでしょう? こういう、スリリングな乗り物が」

「まぁ、せやけど」

「だったら、私も乗りたいんです。…好きな人の好きなことを、一緒にやってみたいから」


 ──あかん。俺の彼女、可愛すぎる。ええ、何その言葉、そのちょっと怖いのを隠しながら精一杯笑ってる表情。そもそも黒髪で黒い瞳の上品な美少女なのに、こんなん反則ちゃう? え、俺の方が気絶するわ。

 あまりの可愛さに悶絶して黙っとると、槇葉ちゃんが不安そうに、「…だめ、でしょうか?」なんて聞いてくるもんやから、俺は彼女の肩に手を置いて、「…わかった槇葉ちゃん。ほな、一緒に楽しもうか」と言った。槇葉ちゃんはそれを聞いて、にっこり笑って「はい」と言った。ほんま、俺の彼女は可愛いわ。


「…しかしまぁ…怖いのは、事実ではありますが」

「あら、そーなん」

「はい。…その、上の方から、悲鳴が時折…」

「あぁ、そやなあ。まぁなんか、彩嗣(あづき)も、二回目は乗たないいうとったわ」

「はぁ…まあ、確かに日本で一番、という情報も聞きますしね」


 俺らが並んどるのは、ユスタでもかなり怖い、『モンスタージャンパー』。瑪奈川(めながわ)ちゃんにおすすめされたけど、かなり面白そうや。さっきは、ゲームのエリアの、ちょっと可愛いのに乗ったから、落差が凄い。俺にとっては、こっちのほうがそそられはするけど、槇葉ちゃんとゆったり楽しめた分、さっきのも悪なかった。

 そんなことを考えとると、俺らの乗る順番が来た。荷物を置いて、乗り込む。レールの上や無くて、下を走るもんやから、ほとんど宙づりで、床が無い。ぷらーんと脚を遊ばせてると、隣で槇葉ちゃんが結構びびってる。


「大丈夫、槇葉ちゃん」

「え、ええだだ大丈夫…」

「まぁ始まっちゃったら一瞬やし、死ぬこともほぼ無いからさ」

「し、死…?」

「…あれ、これ地雷やった? うっかりやわぁ」

「それではみなさん、行ってらっしゃい!」

「お」

「…うわぁ」


 震え出した槇葉ちゃんに追い打ちをかけるように、スタッフさんの声で、発車が告げられた。横を見ると、槇葉ちゃんが青ざめとる。

 がたんがたんと音がして、だんだんとコースターは上へと登っていく。なんだかんだ言って、この時間が一番怖いな。

 そして、コースターは急落下! そのままカーブに入っていき、そして一回転!


「うひゃああ!!」

「きゃあああ!!」


 思わず声が出る。隣の槇葉ちゃんも、悲鳴を上げながらも、なんやかんや楽しんどるらしいな。


「いやあ、楽しかったわぁ」

「…はは、二度と乗りたくないですね」

「…なんか、ごめんな?」

「いえ、乗ることを選択したのは私の我が儘なので。…ただ、次はもう少し、ゆったりした乗り物が良いですね」

「せやな、流石にさっきのでもう腹一杯やし、流石の俺も」


 結局、俺らはユスタでも一二を争う人気のエリア、『シノビウィザード』のエリアに向かうことにした。二つあるうちの、城を利用したアトラクションは、映画の追体験みたいな感じで結構緩いらしい。ちょっと暗くて二人乗りやから、カップルに人気でもある。

エリアには、色んな建物と売店があって、結構映画の様子が再現されてる…らしい。俺はあんま見たこと無いけど、隣で槇葉ちゃんが高揚してるのを見ると、確かに再現されてるんやろうな。


「見てください! あれ、映画でも出てきた『五月雨カラス亭』ですよ! うわぁ、三作目で出来た看板の傷まで再現されてる…!」

「ほー、楽しそうやね槇葉ちゃん」

「えぇそれはもう! あ、泉充くん、あそこにお化けワインがありますよ! 買いましょう!」

「あー、それは聞いたことあるわ」


 映画にも登場したお化けワイン。勿論、子どもも飲めるようにノンアルコールで、中身は普通のぶどうジュース。ただ、グラスで一緒に飲んでると、なんだか大人になったような、そんな気がする。


「結構いけるなあ」

「ふんふん…これが、お化けワイン…」


 まるでソムリエのように、槇葉ちゃんは真剣に味わっている。そんな槇葉ちゃんが愛おしくて眺めていると、こっちを見た彼女が、恥ずかしそうに言った。


「あ…すみません、私だけはしゃぎすぎましたね」

「ん? いーやぜんぜん、かまへんよ」

「でも、貴方はあまり『シノビウィザード』を知らないでしょう?」

「まー知らんけど」


 項垂れる槇葉ちゃんに手を添えて、優しく語りかける。


「でもさあ、槇葉ちゃんが楽しんでるとこみるんは、好きやし。…せやから、たっぷり楽しみや?」

「泉充くん…そうですね。貴方のことは考慮せずに楽しみますね!」

「言い方…」

「ふふ、冗談ですよ。…飲み終わったみたいですし、そろそろ行きましょうか」

「せやな」


 グラスを返して、槇葉ちゃんと一緒にアトラクションまで向かう。かなり大きい建物やな。そういえば、原作者が自費で作った、なんて聞いたけど、ほんまなんやろうか。いったい、なんぼかかるんやろ、こんなでっかい建物。炉ノ路露那(ろのみちろな)、やっけ。随分儲けたんやなぁ。





 やはり、と言えば良いでしょうか。“チートチェーン”、破壊不能の鎖を操る地丸(ちまる)との戦いは、苦戦を強いられましたわ。私の能力、“グラヴィティグルーヴ”──音楽で重力を操る能力も、芽唯(めい)さんの鉄を生成する能力、“メタリックメイド”も、あまり効果を奏しません。


「…あの鎖、手強いですわね」

「うん。くるちゃん先輩の吹き飛ばしも、私の銃撃も無効化してくる。…やりにくいったらありゃしないなぁ」

「ははは! わしはキルループ“いちばん”じゃ! 青二才どもが、対処できる相手じゃねえ!」


 下品に笑う地丸。折角美貌をお持ちですのに、あれではもったいないですわね。しかし、打つ手がないのも事実。はてさて、如何様にすべきでしょうか。


「ふむ、しかし残念じゃな。貴様らの能力は悪うない。そこの、瑪奈川(めながわ)芽唯の能力は、もっと拡張性を──空想の兵器でも作れれば良しじゃろうし、来望久瑠々(くるもちくるる)ものう、能力自体は“いちばん”に到達できるレベルなんじゃが…いかんせん、頭が堅いんよ。もっとなぁ、能力ちゅうんは自由に使わにゃあ。こがん風に!」


 そう言うと、地丸は数十の鎖を出現させました。そしてそれは絡まっていき、まるで動物のような形をとっていきます。なんと奇怪なことでしょう。


「今日のわしは、無論カルブのユニを着とるわけじゃし、鯉なんぞつくりゃあええんじゃろうが…わしは、セのリーグの球団箱推しなんじゃ。これ言うと、野球ファンには理解されんのじゃが。ま、折角じゃから、虎にしとこーかのう。今年の虎はVやねん、じゃしな!!」


 鎖は虎のようになって、こちらに襲い来かかります。その早さに、対応が遅れますが、鎖の虎に銃撃を放った芽唯さんに遅れて、私も能力で、虎を退けます。数十秒ほどの拮抗の後、虎はほどけ、鎖が床に落ちました。


「はぁ、はぁ…危なかったぁ」

「何とか、危機は脱しました、ね…?」


 瞬間、衝撃が私の身体を惜しました。それは、横から。そちらを見やると、割れた窓から、一本の鎖が伸びているのが見えました。


「くるちゃん先輩!」

「くっ…油断、いたしましたわね」

「前門の虎、後門の狼…ならぬ、前門の虎、横門の龍、なんての。はは、能力を使う、とはこういうことじゃ。こうして、自由に使わねばの」

「お前!!」


 恐らくは、窓を通じて、外から鎖を渡したのでしょう。確かに、私達は鎖の虎に集中しすぎていましたから、避けられようもありません。

 激昂した芽唯さんが、数多の銃を、地丸に向けて発射します。しかし、その弾幕は、地丸には届きませんでした。


「わしの鎖は不壊よ。瑪奈川芽唯よ、貴様の能力は鉄の生成なんじゃろうが…こうして、世にある武器を作るのは無粋じゃな。現代兵器のパワーでは、わしの鎖は突破できんよ」

「くっ…うる、さい…!」

「ふん…存外に、退屈じゃな。さっさと、終わらせちゃろうか」


 そう言うと、一本の鎖が、芽唯さんを襲いました。それは彼女に直撃し、芽唯さんは吹き飛ばされます。


「芽唯さん!」

「安心せえ。殺すつもりはないけぇの。わしは、目的を果たしたいだけじゃけ。おとなしゅう、そこで寝とけ」


 そう言うと、地丸は私達には目もくれず、歩き始めました。…芽唯さんの弟が、傷つけられようとしている。…そんなことを、許すわけにはいきません。私と芽唯さんの間に、言葉は要りませんでした。


「…いつでもいいよ、くるちゃん先輩」

「…行きますわよ、芽唯さん!」


 芽唯さんが作った鉄の塊。それは圧縮され、硬く、黒く、尖っていきます。それと同時に、私は集中します。…“グラヴィティグルーヴ”の強さは、操る音楽の精巧さで決まる。…この瞬間に、全てを込めろ、来望久瑠々!


「はああ!!」

「っ、らあ!!」


 芽唯さんが作った、凶悪な鉄塊を地丸に向けて、最大重力で発射します。…この攻撃を察知した地丸は、振り返って鎖を壁にしました。しかし、私達の攻撃は、その程度では止められません。


「ぐっ…わしの鎖は、破壊できぬはずじゃぞ…なぜ、軋む!!」

「──これが、私達の」

「絆の力、ですわ!!!」

「ぐぅおお!!」


 鉄塊は鎖を貫き、地丸を吹き飛ばしました。そうして、地丸は倒れ込み──私達は、勝ちを確信したのです。


「いやぁ、流石くるちゃん先輩!」

「いえ、貴方の助力あってのことですわ。…さて、それではどちらに向かいましょう。病室か、エルヴィラさん達のところか」

「うーん…まぁでも、敵がいるのはふっきーちゃん達のところじゃ無いかなあ」

「それも、そうですわね」


 私達は、よろけた足取りで、他の方々の援護に行こうと歩きはじめます。──しかし、後ろから聞こえてきた声で、その歩みを止めました。


「はぁ、はぁ…ふっ、まだ気が早かろうが…わしはまだ、戦えるぞ…?」

「…そのダメージで、なぜ立てるのです。死にはしないまでも、気絶は確実でしたわ」

「はっ…壊れぬ鎖は、防御で真価を発揮するに決っとろうが…」


 地丸は、腹部を指でさす。そこには確かに、鎖が巻かれていましたわ。なるほど、鎖を帷子にして、攻撃を防いだのでしょう。…しかし、ダメージの量は、確実に向こうの方が多い。…これなら、まず負けは無い。


「はぁ…わしは、行かねばならんのだ…社長の、ために…器のもとへ!!」

「くるちゃん先輩!」


 地丸は、私に向かって、鎖を飛ばしました。それは、息も絶え絶えの男が放ったとは思えないほどに敏捷で──私の能力が発動する暇など、ありませんでした。…しかし、その攻撃は私に届きはしませんでした。…青海(おうみ)が、私を守ったからです。


「うっす久瑠々様、随分怪我してるっすねぇ!」

「…来る、とは聞いていませんでしたが」

「まー、流石に子どもだけに任せるのはどうか、って思いまして。あ、安心してねえ、あっちの、エルヴィラ・エイトと文乃蕗乃(ふみのふきの)の方には猪谷が行ってるんで」

「ふぅ…まあ、この場は信用しておきますわ、青海。…心強い援軍として」

「はは、期待しとってくださいよ。…おーおー、地丸さんも随分やられてんねぇ」


 青海は、軽く笑いながら、地丸に話しかけます。話しかけられた地丸も、笑いながら、それに応じました。


「ふっ、青海か。…やはり、そっちに寝返るんじゃな」

「うん。あ、悪く思わないで欲しいっすね、今の社長には、さすがについてけないんでぇ」

「…まあ、お前達は賢いからの。良い選択じゃ」


 地丸の言葉が意外だったのか、青海は「何を、言ってんの?」と聞き返しました。


「…今の社長は、クソじゃ。はっきりいって、人間としては大嫌いな部類に入る。…お前達がそんな社長を裏切って、少しほっとしとるんじゃ」

「…ではなぜ、貴方はその社長を裏切らないのです?」

「…しらんのか。落ち目の時こそ、ファンは応援するもんじゃろーが。…わしはな、社長に救われたときから決めておるけぇ。例え地獄じゃろうと、ついていくっての!!」


 地丸から、威圧が放たれる。空気がびりびりと振動しているのが、聞こえてくるかのようです。しかし私達は、ただ地丸を見据えます。青海が、私達に囁きました。


「芽唯さんは、とにかく地丸さんを撃って、窓の外まで出してください。そしたら、久瑠々様は全力で攻撃してください。大丈夫、私が攻撃は守りますんで」

「…分かった!」

「分かりましたわ!」

「さあ、征くぞ」


 地丸が、鎖を自身にまきつけ球状にし、そのまま突撃してきます。そしてそれに向かって、芽唯さんが銃を掃射します。地丸の球体から時折放たれる攻撃は、青海が作ったワープゲートや、謎の機械に阻まれて、私達には到達しません。


「落ちろ!!」


 そして、芽唯さんの銃撃で、地丸は窓の外へと放り出されました。直後、私の背に青海の手が触れたかと思うと、私は、地丸より数十メートル上にいました。


「今です!!」

「はああ!!!」

「ぐぅおお! …は、負けか。仕方ないの」


 頭上から、全力の重力をたたきつけます。そして、凄まじい速度で、地丸は落下していきました。私も、能力を使って、ゆっくり落下していきます。


「はぁ、はぁ…流石に、強敵でしたわね」

「先輩、大丈夫!?」

「あら、芽唯さん。降りてくるの、早いですわね」

「まー、私が送ったんでぇ…ってあれ、彩嗣演良(あくら)と…社長?」


 降りてきたらしい青海が、どこかを見て呟きました。その言葉に反応して、私も芽唯さんも、振り向きます。そこには、膝をついている演良さんと、その目の前で槍を構えている、炉ノ路露那がいました。炉ノ路は、槍を振りかぶり──演良さんに、突き立てます。


「演良さん──え?」

「な、んで…でぃー、ちゃんが?」


 驚くべき光景に、私は思わず目を瞑りました。炉ノ路の攻撃は、あろうことか──突如二人の間に現れた、でぃーさんの胸を抉ったのですから。

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