表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/62

剣聖と王子様

 「へぇー、あんたにそんな友達がいたんだね。あたしはもう嬉しくて泣いちゃうな、昔はあんなにとがってたのに…」

「ちょ、そういうの辞めてくれってマジで」

「あー、そういえば泉充(いずみ)は不良っぽい時期あったよね」


 ハンバーガー屋でポテトを食べながら、三人で話す。警戒は解かずにいるけれど、仮名波羅(かなはら)は意に介していないかのように、にこやかに話す。ただ、時折僕を見る目が、蛇のように鋭い。


「…そーいや聞きそびれ取ったけど、二人はなんで知り合いなん…あれ、電話や。だれやろ…え、槇葉(まきは)ちゃん? ちょ、ごめん電話してくるわ」


 着信にスマホを取り出した泉充は、画面を確認すると慌ただしく席を立って、店の外へと出て行った。微笑ましく感じている僕に、仮名波羅が怪訝な顔で聞いてくる。


「…え、もしかしてあいついんの? 彼女」

「ええ、まあ…そうですね」

「はー…進んでんね最近のコーコーセーは」


 彼女はため息をつきながらドリンクを飲む。修道服を着ているので周りからは奇異の目を向けられているから、少々居心地が悪い。見ていると、彼女はにこりと笑って、「そんな見ないでよ」と言った。


「さっき言ったでしょ、あたしは今日別に、“いちばん”として来てないの。ただ散歩してただけだからさ」

「…正直、貴方は信用できませんよ」

「あは、結構な物言いだね。…別に、ここで殺ってもいいんだよ? あたしは、戦い好きだからねえ」


 彼女が殺気を放つ。それはまるで、黒色の突風のようで、息苦しい。そんな僕の様子を見て満足したのか、彼女は笑って「まー冗談だけど」と言った。


「あんたとやっても楽しくないと思うんだよね。ただ死なないだけだしさ。…ま、ここに“杖”持ってきてるんだったら話は別だけど」

「…渡しはしませんよ」

「ん、まいーよ。先に“器”だしねえ。つーか、あたしだったら杖切りかねんしな」

「…その、器とか杖とか言うのは、何なんですか?」

「ん、知りたい? どーしよっかなあ、教えてあげてもいーんだけど…あれ、どしたの?」


 僕らが話していると、泉充が戻ってきた。彼は、少し嬉しそうにしていたけれど、僕らの顔を見て頭を少し下げながら「すまん」と口を開いた。


「ちょっと、用事ができてもうてさ、俺もう帰るわ。すまんな彩嗣(あづき)、俺から誘ったのに」

「別に大丈夫だよ。その様子だと、大丸さんとの用事だろうしね。うら若きカップルの逢瀬を邪魔するほど、僕は無粋じゃ無いよ」

「…まあそんなとこや、ほなな彩嗣、姐さん」

「おー、ヤる時は避妊しときなよ」

「やらんわ!」


 彼は小走りで店を出て行った。残された僕は、思案に暮れていた。目の前の女性──仮名波羅かなえは、間違いなく敵だ。ただ、以前炉ノ路(ろのみち)さんと出会ったときから、僕はキルループが、本当に悪い組織なのか、よく分からなくなっている。というのも、彼らには確かに、互いを思いやる気持ちがあったからだ。勿論、彼らは僕と芽唯(めい)のユスタデートを襲ったし、エルヴィラを拉致もしたし、蕗乃(ふきの)ちゃんを襲撃して、久瑠々(くるる)先輩を誘拐して操った。だから、彼らの好意は間違いなく悪だ。けれども、彼ら自体が悪人なのか──それが、少し分からなくなっていた。

 目の前の仮名波羅は、ポテトをケチャップにつけて食べている。こうして見ると、まあ何処にでもいるような普通の人だ。ただ、彼女も、蕗乃ちゃんを傷つけた人間の一人に違いない。そう思っていると、ポテトを食べ尽くした彼女が一言、こっちを見て言った。


「んー…“杖”と“器”、知りたきゃ言ってあげよっか? まあ、ただでとは言わんけど」

「…交換条件ということでしょうか」

「ん、まーね。──ま、とりあえずここでよっか」


 彼女はそう言って席を立った。そして、ずかずかと歩いて行く。慌てて後を追っていき、店の外に出た彼女を追う。すると彼女は、道路を走っていたタクシーを捕まえて、僕に「君も乗りなよ」と言った。


「…どこまで行きましょうか」

「あー、ここまで行って貰えます?」

「…承知いたしました。ここからだと、有料道路を通ることになりますが」

「んー、まあいっすよ、金ならあるんでぇ」

「…はい」


 彼女が、運転手さんに二、三答えるてスマホを見せると、タクシーは動き始めた。古めかしいエンジンの音が耳に響く。結構古い車だからだろうか、車内には仄かに煙草の臭いが漂っている。


「…何処に行くつもりですか?」

「着いてからのお楽しみだよん」

「はあ…着いたら、貴方の仲間が待ち構えている…とかでは、ないですよね?」

「いやあ、そんなんじゃないよ。別にそっちだとしても言わんけどね? ま、着くまでは時間があるし…君に昔話をしてあげよう。それは、人類がまだ、夜に怯えて、獣にくわれていた時代の話だ」

「何ですか、急に」

「重要だよ? 特に、あたしら“プレゼント”を持つ人間にはね」


 彼女は、窓の外を見ながら話し始めた。その顔はどこか、悲しんでいるように見えた。


「人類は、随分と弱かった。頭は良かったけどね、それ以外が弱かった。もちろん、文明は形作れた。けれど、相変わらず、夜と獣、そして自然に弱かったのさ。そしてそれを、神は哀れに思うんだよ」

「神…」

「そして神は、人の姿に自身を変えて、人間の世界に訪れた。そして神は、人々に魔法と力を与えたんだ」

「…随分、ファンタジーな話ですね」

「あはは、だよね。でも、これはあくまで昔話。おとぎ話じゃあ無いんだよね。…まあ話を戻すけどさ、魔法を貰った人類はそれはもう、好き勝手してたんだよ。…神の力を、奪おうとする人間が現れるぐらいにね?」

「神の力を、奪う…」

「それでまあ、神は怒って人類から魔法を没収したんだよ。そうして、神は人の前から姿を消した。…んで、それからちょっと時をおいて、世界に現れ始めたのが…」


 彼女はそこで口を閉じて、僕を見て笑う。ただ、目だけはちっとも笑っていなかった。仮名波羅は、ゆっくりと言った。


「不死、幻、剣戟…特殊な能力を持つ、人間達さ」

「…能力…」


 彼女はそれだけ言うと、再び僕から目を背けて窓を見た。彼女は笑いながら、口を開く。


「消えた神、“プレゼント”と名づけられた能力、能力を貰う人間が稀に見る、一人の少女。…ここから一つ、導けるものがあるとおもうんだよね。君なら、分かるでしょ?」

「…“プレゼント”は、神が人類に与えている…?」

「そーいうこと。これが、“あたしたち”が導き出した答えさ。…お、もう着いたみたいだね」


 彼女がそう言うと、タクシーは止まった。見たところ、どこかの山中の駐車場らしく、小さなトイレと自販機があって、その横には石造りの階段が、林の方へと向かって伸びていた。


「んじゃ、これで。釣りは要らないんで、まあチップにでもしといて下さい~」

「…毎度」

「あ、君の分も出しとくよん。あたし大人だしね」

「あ、ありがとうございます」


 彼女に例を言って車を降りる。すると、タクシーは元来た方へ走り去った。そして彼女は、「んじゃ行くよ」と言って、階段を登り始める。後に続いて、一分ほど登ると開けたところに出た。そこには、木造の建物があったけれど、壊れているようだった。仮名波羅は、建物を見ながら言葉を紡ぐ。後ろ姿だけでは、彼女の表情は見えない。


「…ここは、あたしが育った道場。…そして、あたしが両親を殺した場所だよ」

「殺、した?」

「…君はさ、不死なんて持ってるけど、痛いのは痛いだろ? …エルヴィラ・エイトは、能力が無ければ不幸になっていない。勿論、文乃蕗乃(ふみのふきの)も、来望久瑠々(くるもちくるる)も、瑪奈川芽唯(めながわめい)も。君は見てきたはずさ、能力は不幸をもたらすって」

「…否定は、できません」

「あたしも、そうだったんだ。…“カイヘンカタナ”、自身の力量が追いついているという条件下であれば、持つ武器を、目標を切れるように作り替える力。例えば本来、刀じゃ鉄は切れないけど、鉄を切れるぐらい鍛えたら、本当に刀を鉄が切れるようなものにすることができるんだ」


 そこまで言って、彼女は振り返った。今まで何も持っていなかったはずの彼女の手には、一振りの刀──それも、随分短い刀が握られていた。


「あたしは天才だった。だから、能力が発現して──ただの竹刀で、両親を切れちゃったんだ。…ねえ、彩嗣演良(あくら)くん。あたし、思うんだ」


 そして彼女は、刀を構えて、とても悲しい顔で言った。


「“プレゼント”なんて、欲しくも何ともなかったってさ。さ、勝負だ。あたしに一撃でも入れられたら──君に、教えてあげる。あたし達の、計画を」

「何を言ってるか──っ!?」

「さっさと構えないと、死ぬよ? …あー、君死なないのか」


 彼女は凄まじい速度で僕に近づき、そして僕に斬りつける。反応が遅れて、僕は腹を切られてしまった。鋭い痛みが、僕の身体を伝う。


「…分かりました、気乗りはしませんが…貴方から、キルループの計画を引き出します」

「ん、いーね。その意気だよ」


 彼女をじっと見る。先ず肝心なのは、初動。そこを見誤れば、僕に勝機は無い。けれど──彼女の動きは、想像の倍速かった。


「ははっ、全然よけれてないよ!」

「くっ…!」


 彼女に斬られる。僕が傷を治すのより、彼女が僕を斬る方が早いから、次第に僕の身体は鈍っていく。


「はっ!!」

「ん、悪くなく…は無い動きだね。緩慢だよ、そら」

「つっ! …随分、早いんですね!」

「ま、剣聖だし」


 彼女の、刀を握る手を狙って何度か攻撃を仕掛けるけれど、何度もよけられ、その度に斬撃を浴びせられる。かなり斬られたところで、彼女は「うーん」と言いながら攻撃を辞めた。


「ちょっと動きにくそうだね。…回復するまで待ったげる」


 言葉通りに、彼女はじっと、僕が傷を治しているのを見ていた。そして傷が治りきったぐらいに、再び刀を構えた。


「…んじゃ、仕切り直し。…んー、見込み違いじゃ無きゃいいんだけど」

「かはっ…!?」


 今度は、首を切られた。そして次の一太刀では心臓を。先ほどまでの攻撃とは違い、今度は的確に、急所だけを狙ってくる。もし僕が能力を持っていなかったら、何回も死んでいる。


「そろそろ気づけないと、終わらないよ?」

「ぐっ、斬られてばかりじゃない!」

「お、いいね。今のはキレが良かったよ。でもま、まだまだかな?」


 攻撃をする。けれど避けられて、致命傷になるような斬撃を浴びせられる。攻撃、斬撃。それを繰り返している内──ほんの一瞬、何かが見えた気がした。


「んじゃ、首──お?」

「…ようやく、躱せた…!」

「へえ」


 首に感じた、不思議な感覚──背筋が凍るような恐怖と、安堵の混じったような──を受けて、身体を動かすと、仮名波羅の攻撃を躱すことができた。彼女はそれを見て、にやりと笑った。


「いーじゃん、ようやく掴んだね。死の感覚」

「死の、感覚?」

「君さあ、これまで何度も死んでたろ? だから、身体が覚えたんだ。どうなったら死ぬのか。…うん、いいね。そろそろ、楽しめそうじゃん」


 そう言って向かってくる彼女の攻撃を、感覚を頼りに躱していく。まるで、攻撃の軌道が予め分かっているかのように、身体が動く。勿論。躱しきれずに何度か攻撃に当たるけれど、かすり傷だ。そして、突如、一筋の光が見えた。それに従って身体を動かす。


「はあっ!!」

「…っ!」


 そして、数多の斬撃を避けながら、彼女の腕に、一撃、入れることができた。彼女はそれを見て、目を見開いている。


「はあ、はあ…一撃、入れましたが」

「…」


 仮名波羅はしばし黙っていたが、突如笑い出した。


「あはははは、まさかあたしにマジで一撃いれっとはね! やっぱ君おもれー。うん、分かった。教えるよ、キルループの計画」


 彼女は、壊れた建物の、おそらくは縁側だっただろう部分に腰掛けた。


「つっても、たいしたことじゃ無い。私たちの目的は、神を復活させて、この世界から“プレゼント”を消滅させること」

「“プレゼント”の、消滅…」

「んで、それに必要なのが、“クジラのうろこ”と“黒い石”、んで“杖”に“器”。まー、なんで必要なのかは分かんない。あたし、あんま頭良くないんだよね。だから、最後のピース…“器”について、教えよう」


 彼女は、そこで真面目な顔で僕を見た。ただ、何故かその眼差しは優しかった。


「“器”は二つある。力をためておくものと、神の入れ物。そして、前者が何かは分かってる。後者は見つかってないけどね」

「“器”というものは、実際は何なんですか?」

「人。複数の能力を保持できる人間と、神の形代。そして、力の“器”は…瑪奈川芽亜(めあ)、と言う人物だよ。君も良く、知っているだろう?」

「…………は?」


 思考が、止まった。彼女の言うことが本当なら、キルループが狙っているのは──芽唯の、弟ということになる。


「だからまあ、君のお友達の弟を、私たちは狙ってる。以上、聞きたいことある?」

「…本当に、芽唯の弟を…貴方たちは、狙っているのか?」

「うん」


 彼女はそこまで言うと立ち上がって、刀を投げた。刀が、僕の足もとに突き刺さる。そして、言葉を発せられ無い僕に一言、「んじゃ、またね」と言って、彼女は去った。僕は、動けないでいた。


「芽亜、くんが…」


 僕にとって芽亜君は、弟のような存在だ。幼い頃から知っているし、今でも偶にお見舞いに行って、一緒に話したり、ゲームをしている。…もし、キルループが芽亜君を狙っているのなら…絶対に僕は、彼らを許さない。


「とりあえず、帰ろうかな。…この刀、貰っておこうかな」


 僕は刀を引き抜いて、帰路についた。スマホで地図を開くと、家に帰るには、ここから近くの駅まで行って電車を使う必要がある。面倒なところに来てしまったものだ。

 十五分ほど歩いて、駅に着いた。どうやら無人駅で、各駅停車のものしか停まらないらしく、あと三十分ほどは待たないと行けないらしい。ホームを見ると、僕以外に電車を待っている人はいないようだ。とりあえずベンチに座ろうか…と思ってベンチに近づくと、何かが横たわっているのに気が付いた。


「あれ…忘れ物かな?」


 見てみると、それには黒いコートが掛けてあった。何の気なしにめくってみると──幼い少女が、脚を抱えて眠っていた。


「だ、大丈夫!?」

「…んー…誰…?」


 女の子に声をかけると、彼女は目を開けた。紫色の髪をした少女は、随分可愛らしい格好をしている。彼女は目をこすりながら、僕を指さしていった。


「…あなた、でぃーのお兄ちゃんにしてあげる」

「…えーっと?」


 この日の彼女との出会いが、いずれ全世界を巻き込む大きな争いへと発展していくことは、まだ僕は知るよしも無い──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ