表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/62

歌う少女と王子様

 真っ暗な闇。久瑠々先輩が浮かび上がらせた学校には大分地盤がくっついていたから、この穴はかなり深いのだろう。まあ、僕は落下死することはないからそのところは安心だけれど、どうやって屋上まで行こうか。

 随分長い間落ちて、凄まじい勢いで地面に激突した。こぼれ落ちた肉片を集めながら、体を再生させる。すると、どこからか声が聞こえてきた。辺りを見ても、誰もいない。


「すぐ側にあるよ」


 何が、と思いながら、何となく気になる方に近づいていく。すると段々、何かが光っているのが見えてきた。どんどん下っていくと、ますます光が強くなる。しかもどこか、その光は痛々しい。まるで黄金のように光り輝いていながらも、針が突き刺すかの如くびりびりと何かを感じる。

 段々斜面が緩やかになってきて、そこにあるのが棒状のものであることに気が付いた。それは、地面に突き刺さっている。そこから強い光が発されているらしい。「それだ、早く引き抜け」どこからか声がする。不思議なことに、その声は体の内側から聞こえている様に感じられた。


「…とりあえず、持ってみる、か…ッ!」


 手にした瞬間、一気に体に電流が走ったようになって、その後途端に力が抜けた。地面から引き抜いたそれは、木でできた杖のようでもあるけれども、先の方は鍵のようになっていて、青白い光りが走っている。先ほどまで当たりに充満していた光りは既に無く、真っ暗な中に、ぼんやりと棒が光っているばかりだ。


「何だ、これ…?」

「杖だよ。それが、君らを戦に巻き込んだ組織の狙う“杖だ”」


 再び、声が聞こえた。するとどうしてだろうか、辺りの景色は一変していた。いつか見た──あの日ユスタで死にかけたときに見た、真っ白い空間だ。上の方から、血のような液体が垂れてきていて、空にはぽっかりと穴が開いている。そして、前と同じように、金色の髪の少年が、目の前に立っていた。


「やあ、また会えたね」

「…お久しぶりです…?」

「あはは、そうかしこまらなくて良いよ。…やあ、彩嗣演良君。君とこうして話すのは二回目だね」

「あー…あれ、じゃあまた僕死にかけたんですか?」

「いや、軽いな。…ううん、今日は君と、話がしたくてさ。ここに呼んだんだ。…その杖のおかげだけれど」

「杖…」


 手を見ると、僕は指揮棒のようなものを持っていた。それは先がとがっていて、手元の方を見ると鍵穴のようなものが付いている。先ほど見たのとは全く違っていて、何故だろうかと不思議に思う。


「それは、杖の片割れだ。その杖は不完全で、二つを組み合わせることで完成するんだよ」

「…杖、というのは?」

「…難しいんだけど、まあ一言で言えば、超大昔の凄い魔法使いが作った特別な道具、と言えば良いかな」

「…はあ…?」

「ま、難しいよね」


 彼は、肩をすくめて苦笑いをする。彼の仕草はどこか芝居がかっていて、なぜだか怪しげだ。


「…君を混乱させないためにはどうするべきかな。うん、自己紹介から始めよう。僕は君の前世。魔学徒達が神と呼んだ、魔法使いの友人さ」

「ぜん、せ…?」


 前世、と言われるとなんだかフィクションのような気がするけれど、現に今、不思議な物事は起こっているし、僕の能力なんてファンタジーそのものだ。だから、、何故かその事実は、すっと僕の頭のなかに入ってきた


「…ということは、魔学徒が言ってた、騙り手とかいうのも?」

「多分僕らしいね。アレはよくわかんないけど、僕魔学徒に嫌われてたからな」

「…はあ」


 彼は、昔を懐かしむように語る。ただなぜか、彼が魔学徒という言葉を口にする度に、上から降ってくる血の量が増えていた。


「…うん、杖だけだとこの程度かな。ごめん、そろそろ時間だ。最後に一つだけ、君に言っておくべきことがある」

「いっておくべき事?」

「その杖の使い方だ。君になら、使えるはずだ。…上に、戻りたいのだろう?」

「…もちろんです」

「だったら、杖を手に取れ。そして、明確な意志を持って、流し込め。魔法は、僕が構築するから」

「…よく分からないんですけど」

「とにかくやれ!」

「は、はい」


 僕は、杖を手に取る。すると突然、頭の中に情報が流れ込んできた。知らない言語で作られた数式のようなもので、訳が分からなかったのになぜかすらすらと読める。どうしてだろうか、と不思議に感じながらも、それを口に出す。


「…これで、いいのかな…え?」


 すると、辺りが急に光り出した。蛍ぐらいの大きさの緑色の発光体が、僕を包んでいるようだった。そしてそれは大きくなっていき、やがて目の前は緑の光りで埋め尽くされた。


「…いつか君は、アイツに会う。そのとき、世界を守れるのは君だけだ」


 遠くの方で、前世の彼がそう言っている気がした。





 猪谷は強敵だ。以前、私たちは手も足も出なかった。ヘリから突き落とせたのだって、ほとんど初見殺しに近い。


「…ふむ、確かに少しは面白くなったようだ。君、少し鍛えたな?」

「…やはり、強い」

「ふっ、ちょこまかと良く避けるものだ」


 目の前から、口だけの怪物が迫り来る。その度に炎で応戦するけれど、炎には質量が無いから、これを防ぐにはかなりの勢いで放出する必要がある。けれども、怪物は炎まで食らうから、結局避けるので手一杯だ。そしてそんな怪物が、何体も出てくるものだから、かなり厳しい状況に立たされていると言っていい。


「防戦一方、というのは良くないな。君も攻めてこい。君の力なら、できるだろ」

「…煩い」


 攻撃を仕掛けながら、猪谷が無表情で、私に告げる。攻撃を躱しながら睨んでいると、突然攻撃が止んで、猪谷は口を開いた。


「…面倒だな。ここはやはり、これでいくか」


 彼は、後ずさる。猪谷の目前に、一体の怪物が出現し、そしてそれは大きく口を広げた。段々と広がっていく口は、やがて廊下一杯に広がった。口の向こうから、猪谷の声が聞こえる。


「“ディザスター・ディナー”! さあ、もう逃げ場は無いぞ!」


 怪物が、床や天井をえぐりながら迫ってくる。彼の言うとおり、逃げ場は無い。この土壇場、私ができることは一つ。あの怪物を、焼き尽くす。


「“真炎の導忌(しんえん みちびき)”!」


 両手を前に突き出して、炎を出す。熱く、熱く。段々と炎は色を変えていき、辺りの景色はゆがみ始める。もっと、もっと。限界まで、出せる限界まで熱く。そしてそれを、一点に留める。ただ一点に集めて、そしてそれを、一気に放出する。極限まで熱くなった炎。私が出せる限界の炎を、一つの砲にして、撃ち放つ。今の私に出せる、最大の火力。…これで防げなければ、活路はない。


「…なっ…私のイーターを…破壊しただと?」

「…随分猫舌らしい、貴方の能力は」


 怪物に開いた穴から、猪谷の顔が覗く。彼の顔には驚愕と、初めて見える冷や汗がにじんでいた。ただ、私も先ほどの技で限界だ。こうして立っているだけでも精一杯。けれど、必死で立って、猪谷を睨む。体力の消耗を、感じさせないために。


「…やはり君は、回収すべきだったな。ここまで、良いネタだったとは」

「…遺言を考える時間くらいはあげる」


 敢えて、強気にものを言う。すると猪谷は、突然に笑い始めた。


「はっ…おいおい、なかなか笑えるじゃないか。だがな、本番は──ここからだ!」


 先ほどと同じように、猪谷が怪物を飛びしてくる。殺気までと違うのは、猪谷自身もまた、私に攻撃を仕掛けてきていたことだ。ふらふらの身体で、何とか彼の蹴りを躱すも、彼の脚がぶつかった壁にはひびが入っていた。


「こちとら芸人だ。体なんて鍛えてあるのさ」

「…そう。別に、それは勝ち負けと関係ない」


 私は必死に避けながら、炎を猪谷に向かって飛ばす。けれど、彼には当たらない。何度も打ち出す炎の球は、ただ天井にぶつかっただけだった。

 やがて限界が来て、私は猪谷に殴り飛ばされ、地に伏した。私を見下ろしながら、猪谷が嗤う。


「…まあ、いくら努力しようと私には叶わない」

「…一つ、聞きたい」

「ふむ、いつもなら聞かないが、君とは数度会ったからな。少しは答えてやろうか」

「…なぜ、ふみを狙ったの?」

「ふみ…ああ、あのアンドロイドか。そうだな、なぜ、か」


 猪谷は腕を組んで考え始める。私は、バレないように、背後で炎を作り出し、温度を高める。そすいていると、彼は口を開く。


「まあ、深い理由は無い。強いて言うなら、確証を得るためだが──まあ、そうした方が面白いだろう。身内同士で傷つける姿は、個人的には受けが良いからな」

「そう…やっぱり、貴方は許さない」


 私は炎を彼に向かって飛ばす。彼は一瞬顔をゆがめながらも──身をひるがえして、避けた。私の、狙い通りに。


「この程度か? わざわざ口車に乗ってやったというのに」

「…そう、その程度。なぜなら、それで十分だから」

「何を、言って…がはっ!?」


 猪谷の頭上から、巨大なコンクリート塊が落下する。そしてそれは、彼に激突し、うめき声を上げさせた。


「…先ほどまでのは、これを狙っていたのか…素晴らしい、伏線回収だ。ファイナリスト級だな…! …ふっ、おもしろ、い…」

「…芸人にしては、倒れ方はあまり面白くも無いのね」


 猪谷が気を失ったのを確認して、立ち上がって歩く。早く、屋上へと行かなければ。けれど五歩ほど歩いて、私は倒れ込んでしまった。そして、そのまま意識は深く、闇へと消えていった。



「さて…貴様程度、俺が手にかける価値もない。貴様など、こいつらで十分儲けが出る」


 余と対峙した男、間都樹はどこから取り出したのか、優雅に椅子に腰掛け本を読んでいる。だが、そんな油断している間都樹に余は近づけない。なぜなら、間都樹の前には、数十人の人間が、肉壁として余を阻んでいるからだ。


「…此奴らを従えているのは、其方か?」

「はっ、見りゃ分かんだろ」


 間都樹は、本に目を落としたまま鼻で笑う。目前の人間達の攻撃をいなしながら間都樹に近づこうとするも、連携されるものだから埒があかない。


「随分と卑怯だな。己は手を汚さず、配下に任せるか。…其方ら、あのようなものに使われて悔しくは無いのか?」


 余は、攻撃してくる目の前の男に問いかける。だが、目がうつろな彼らは何も答えず、ただ絡繰り人形のように、余を攻撃してくるのみだ。


「…」

「答えるわけ無いだろうが。そいつらに自我はねえんだから」

「なっ…!?」

「俺の能力で洗脳しただけだ。だからまあ、さっきのは訂正してくれよ。配下でもねえし、自分の手も汚しているんだからな」

「…うむ、訂正しよう。其方は、卑怯者では無い。ただの外道だ」


 余は、奴に向かって啖呵を切る。何の罪も無い人々を操って、戦場へと駆り出す。余にとって、最も許せない行為だ。握る拳に、力が入る。


「あっそう。で? てめえになんかできるのか?」

「…貴様の命令を上書きしてやる!」


 余は、周りの者どもに心の中で謝りながら、幻をかける。すると彼らは、一人残らず地に倒れ伏した。


「…なっ?」

「して、これで貴様を守るものは無し。いざ尋常に勝負だ、外道」


 余は、間都樹に向かって指を差す。だが、間都樹はそれを見て、からからと笑った。


「はっ…俺が、何のリスクヘッジもしてねえとでも?」

「何を、世迷い言を…な!?」


 間都樹の言葉を無視して、倒れ伏した人々の合間を縫って歩く。すると突然背後から羽交い締めにされた。見ると、先ほどまで操られていた人達のようだ。


「先ほど、洗脳は解いたはず…!」

「ああ、その通りだ。が、意識を失ったときのプログラムを仕込んでおいたのさ。…じゃあな、お前も洗脳してやるよ」


 間都樹は、余に近づく。そして余と目を合わせる。


「じゃあな、ガキ」

「…随分と悪手を打つものだな、阿呆」

「なっ…がっ…」


 瞬間、余は間都樹に強く幻術をかけた。これで二日は起きない。さて、そろそろ屋上へと行こうか、と思った瞬間、あたまをがつんと殴られた。気絶する最中、後ろから先ほどまで操られていた男に殴られたのが分かった。この男の能力は、気絶では解けなかったか、あるいはタイムラグがあったのか。


「うむ、油断しすぎたな…」


 硬い感触を感じながら、余の意識は薄れていった。





 気が付くと、そこは学校の屋上でした。何故か記憶にもやがかかっていて、視界もどこか薄暗い。そんな最中、誰かに言われました。


「その能力で、学校を浮かせ」


 何も分からない。誰の言葉なのか。どうしてそんなことを。ただ、私は言われたとおりに歌を歌って、学校を浮かせました。そうしろと、言われたから。

 屋上からは誰もいなくなって、私の体はただ軽く、宙へと浮かんでいきます。月には雲がかかって、空は真っ黒です。こんな夜は、もの悲しい。ただ歌いながらそう思っていると、心なしか声もかすれてくる気がします。


(どうして、私はこうしているのでしょう)


 何も、分かりません。私は、何なのか。ただひとつ覚えているのは、私が悪い人であること。もしかすると私が悪事を働いたから、こうして罰を受けているのかもしれません。あくまで、可能性と言うだけですが。

 喉に痛みを感じながら歌っていると、突如として、扉が開きました。おぼろげな思いでそちらに目をやると、そこには一人の男性が立っていました。彼は焦った顔で、何かを私に告げています。しかし、なぜか私は、その声が聞こえません。


「どなた、ですか?」

「…僕ですよ、先輩。■■■■です。貴方の、■■■ですよ」


 はて肝心なところが聞き取れません。彼は誰でしょう。…どうして私は彼を見て、悲しみを覚えているのでしょうか。


「先輩、帰りましょう」


 彼が、近づいてきます。ただ、なぜか──私は彼を、突き飛ばす歌を歌いました。彼は吹き飛んで、後方の壁にぶつかります。それと同時に、私の心もちくりと痛みます。


「…はは、大丈夫。僕は、何もしませんから。さあ、先輩」


 もう一度、彼は歩いてきます。しかし私は、もう一度彼を吹き飛ばす。


「…先輩、こんな力を今まで持って生きてきたんですね。大変だったでしょ?」


 も一度、今度は彼は走ります。しかし、私は、もう一度、彼を吹き飛ばす。彼が走る。私は吹き飛ばす。なんどもそれをする度に、彼の体と、私の心はぼろぼろになっていきます。どうして、私の心はこれほどまでに、傷つくのでしょう。


「…先輩、そんなに感じてたんですね。罪悪感。…まあ確かに、ストーキングは、良いこととは言えないですよ。はっきり言って、僕は先輩が怖いと思うときも、あります」


 彼は、語り始めます。ぼろぼろの体で。


「でもね、先輩。僕は、そこまで想われていて嬉しかった。だって、貴方は初めて出会ったお姫様だから。ああ、僕のやってきた“王子様”は間違ってなかったんだって、思いました」


 彼が、手を伸ばして私に近づきます。今度は何故か、吹き飛ばす気がしませんでした。ただ、なぜか少しずつ、頬を涙が伝いました。彼は、優しく微笑んで、話し続けます。


「…だから、先輩。一回謝って、僕が許したんだから、それでこのお話はおしまいです」


 彼は、歩き続け、そして、宙に浮く私のすぐ側まで来て、手を伸ばしました。


「ねえ、先輩。思い出したんです。先輩との、約束。…迎えに来ましたよ、お姫様」


 その言葉は、まるで弓矢のように、私の心を突き刺しました。瞬間、ぶわっと涙があふれ出て、記憶が溢れてきました。それは、最初の記憶。


「はい。いつかきっと、貴方には約束を果たして貰いますわ。それは──いつか、音楽家になった私を、王子様として迎えに来ること! 約束、できまして…?」

「…うん、分かった。そのときは、君を迎えに行くよ。とびきりロマンチックにね!」


 ああ、演良さん。演良さん、貴方は──あんな子どもの口約束を、覚えていてくれたんですね。そして、そして──何度でも、何度でも、私を救って下さるのですね。


「演良、さん」

「さ、先輩。帰りましょう。もう、こんな時間ですよ」


 私は、演良さんの手を取ります。そうして、学校は浮かせたまま自分の体だけ浮かせるのをやめると、彼は私を抱きかかえました。けれど、この態勢は──


「お、お姫様抱っこ…!」

「はは、先輩軽いですね。もうちょっと食べないと駄目ですよ?」


 彼は優しく、私に傷つけられたというのに、微笑みかけます。その顔があまりにも眩しくて、私は夜空に目をそらしました。そこには──いつの間にやら晴れた空に、煌々と輝く月の姿がありました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ