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放課後☆ルナティック〜居残り〜  作者: 茶渋
第三章 〜The moon behind the clouds〜
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第4-2話 特別講師②

 リングにボールの跳ね返る音が2、3回。その後、ネットが静かにボールを撫でた。


「わ、やったっ……!」


 千景は小さくガッツポーズをして控えめに喜ぶ。


「今のは良かったです。パス受けてからちゃんと周りが見えてた上で決めてたので」


 杏がリングの下で弱くバウンドするボールを拾いながら言う。


「パス回しの補佐をするっていうのはそういうことで、PGが苦しいときにもパスが貰える位置どりをするんです。パスを受けたらさらにパスを展開するか、自分で決めに行くかを周り見て判断するって感じで」


 今日一日、実際にポジションに立って練習したことで、傍目には“バスケをしている”雰囲気が出たような気がする。個々のプレイングはまだまだ上達の余地があるが、なにより千景の心持ちが変化したように見えた。これまでは自信なさげにおどおどした様子で、ボールを持ったらすぐに手放すことを優先していたのが、今はかなり落ち着いているように見える。落ち着いているということは、その分周りが見えるし、自身がどう動けば良いのかという思考の余裕も生まれる。


「ねぇ、今日このあとどうするー? どっか寄ってく?」


 千景が杏に指導を受けている間、一足先に荷物をまとめていた聡子が言う。


「あー……ごめん。私は杏連れて帰らないとだから先に帰るわ。あんまり遅い電車になるのもアレだし」


「えー! 私もお姉ちゃんたちとどっか行きたい!」


 私が誘いを断るのを聞いた杏が文句を垂れる。先ほどまでの部活少女感はどこへやら、いつもの妹ムーブが顔を覗かせる。


「だーめ。あんた、明日も練習試合あるんでしょ、宿題いつやるの?」


 そう言うと杏はしかめっ面をして押し黙る。私と杏のやり取りを見てほかの三人は微笑む。


「……それじゃあ、今日はルナたちとはここでバイバイだね。杏ちゃん、今日はありがとね」


「あ……いえ! なんにもです!」


 麻美が声をかけると杏は妙なテンションで返事をする。こういうスタイリッシュな美人とは普段接することがないからか、麻美と話すときは変な緊張感があるようだった。


※※※


 その夜、千景から一通のメッセージが届く。


『ルナさん、今日はありがとうございました! 杏さんのご指導のおかげで希望が見えてきた気がします! ところで、少しご相談があるのですが、今日とかお電話しても大丈夫でしょうか?』


 千景から改まって電話相談を持ちかけるとは珍しい。ここのところは学校生活で塞ぎ込んでいるような様子もなかったし、なんだったら最近は身体を動かしているおかげか顔色が良いくらいだったから、その内容に見当がつかなかった。球技大会が不安ということなら当然あるだろうが、それならもっと前の時点で持ちかけているはずだ。

 そんなことを思いながら時計を一瞥してメッセージを返す。


『私はいつでもいいよ 千景の都合いいときにかけて』


 そのメッセージから1分経つか経たないかという頃に携帯電話のバイブレーションが振動する。着信相手はもちろん千景だ。


「あ、ルナさんごめんなさい、いきなり電話したりして」


「ううん。それより相談ってどうかした?」


「……えっと、実は髪切りたいなって思ってて……ほら、最近バスケの練習するようになったら暑苦しく感じちゃって……」


 千景は少し気恥ずかしそうに話す。その口調から電話越しながら千景の感情が伝わってくる。バスケの練習云々は言ってしまえば口実のようなものだ。歳頃のほかの女子と同様にお洒落したいという気持ちと自分なんかがという気持ちがせめぎ合っているのだろう。


「いいじゃんいいじゃん! なにか候補はあるの?」


 私ができるだけ背中を押すようにして尋ねると、千景は少し困ったような声で返す。


「それなんですけど……昔っからずっと伸ばしっぱなしだったので、なにが似合うかとかわからないんですよね……それと……」


「それと?」


「その……美容院の行き方も頼み方とかもよくわからなくて……ルナさんはいつもどうされてるんですか?」


 どうしているかと聞かれても、私の場合はウィッグを自分で切っているのでなんの参考にもならないだろう。千景が知りたいのはセルフカットの上手いやり方などではないだろうから。


「私の場合は……ちょっと参考にならないかな。ていうか千景こそいつもどうしてるの?」


「私は……恥ずかしい話ですけどあんまり行かないんですよね。引きこもりがちだったのもありますけど、基本的に伸ばしっぱなしで、たまにお母さんから怒られて渋々近所のお母さんの知り合いがやってるところに連れてかれて最低限整えるだけっていう……」


 千景のこれまでの経緯やそれに伴い拍車のかかった引っ込み思案な性格を考えれば、彼女がそういったライフスタイルをとることに不思議はない。だが、やはりそれはもったいないとも思う。


「それなら……私も雑誌とかネットの画像で千景に似合いそうな髪型探してみるよ! 今かなり長さあるから大抵の髪型できるだろうし」


「本当ですか……!? ありがとうございます! 自分になにが似合うのか、そもそも似合う髪型なんてあるのかって考えるほどわかんなくなっちゃったので心強いです!」


 そうして千景との通話を終えた後、ヘアカタログサイトへアクセスする。ショートからロングまで、ずらりと並ぶ髪型のサンプル画像をスクロールして眺めている途中で指が止まる。


 そういえば、なぜ千景は私に相談したのだろう。事情が特殊すぎる私よりも聡子や麻美の方が有力な情報を得られただろうに。それとも、同じようにあの二人にも相談しているのかもしれないが。

 それに、仮に理想の髪型を見つけたとして、今の千景の行きつけの美容院がそれを上手く再現できるとは限らない。腕の立つ美容院の情報を得る意味でも、二人に相談した方が有意義な気がする。


 そんなことを思った矢先、ある一人の顔が思い浮かんだ。そうだ、雑談のネタがてら情報収集してみよう。それは同時に私の精神的リハビリにもなるだろうから。

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