第2-2話 夏休み明け -side S- ②
「それで、バスケに出場することになったと……」
放課後、ちょうど学校の向かいにあるコンビニで麻美と遭遇したため、そのまま二人で下校することになった。その道中で、千景は今日の球技大会の参加種目決めの話をする。
「はい。でも、ご存知のとおり、私は超運動音痴ですし、迷惑かけちゃいそうだなって……断りきれなかったといえばそうなんですけど、なにかしら参加はしなくちゃいけないですし、せっかく誘ってくれてるのでそれが一番加わりやすいのかなとも思って……」
うまく言語化できない語彙のなさがもどかしかった。どれかには出場しないといけないから、眞子が誘ってくれたから、というのも動機として間違いではないが、それが自身の感情を漏れなく表現している言葉ではないということだけは意識としてあり、それが小骨のようにつっかえていた。
「あれ? そういえば、麻美はなにに出るんですか?」
「私? 私はめんどくさいから出ないよ」
その言葉に千景は衝撃を受ける。
「え!? 出ないって選択肢あるんですか!? いや、去年出てない私が言うのもなんですけど……」
「あー……エントリー自体はしてるよ。でもうちのクラスはやたらやる気ある人多いから、その人らに譲って自分は補欠。まぁ、そうなるような種目をあえて選んでるんだけど。もし、一度くらい出場しろって言われたら、明らかな勝ち試合か負け試合にちょろっと出させてもらえばいいしね」
これが処世術かと千景は痛感した。たしかにそれならヘイトを買うこともなく、責任を追及されることもなく、そのうえでクラスメイトに活躍の場を譲る大人の対応と評価されることもあり得るかもしれない。しかし、それは普段の麻美のキャラがあってのものだ。それにこちらのクラスの場合、明らかに運動が苦手な自身に誘いが来るほどにバスケの出場枠が空いていたため、同じ立ち回りは出来なかっただろう。
「それで……今度みんなで練習することになって……それはいいんですけど、たぶん今の私は練習どころかその邪魔になるくらい下手くそなので……」
「その練習の前に練習しておきたいってこと?」
麻美が千景の言いたかった言葉を汲み取る。
「はい。別に上手くなろうってわけじゃなくて……そもそも自分がそんなレベルにまではいけないってことは自分が一番わかってるんです。ただ、せめて邪魔にならないくらいに……いないよりはマシってくらいにはなりたくて……」
麻美は少し顔を上げて考える。昨年は休みがちで球技大会の日も欠席していたことを思えば、学内の催しに参加しているだけでも大躍進だ。だけど、例えば千景がミスをしたせいで試合に負けたなんてことがあったとすれば、そのときに千景の精神が耐えられるかはわからない。自分の場合は、たかが球技大会という認識だが、千景はそうではないだろう。だから、そうなる可能性をできるだけ減らすという意味でも千景の考えには賛同できる。ただ、一つ問題がある。
「力になってあげたいのはやまやまだけど……私も別に運動得意なわけじゃないしなぁ……。バスケったって、体育の時間にちょろっとやったくらいだし、ルールすらちゃんとわかってないし……それでもよければ、今度の週末に『ラウゼロ』でも行ってみる? もちろん、あいつらも誘ってさ」
『ラウゼロ』、正式名称『ラウンドゼロスタジアム』は複合型スポーツアミューズメント施設で、バスケットコートだけでなく、テニスコートやフットサルコート、バッティングマシーンに卓球台と、さまざまなスポーツ体験のできるサービスが特徴的である。
「え……いいんですか、付き合わせちゃって……しかもルナさんや聡子さんに至ってはうちの球技大会関係ないですし……」
「誘ってみるだけ誘ってみたらいいでしょ。ラウゼロだったらバスケに飽きてもほかでいくらでも遊べるし」
「た、たしかに、それもそうですね……ところで、お二人はスポーツ得意なんですかね?」
千景が尋ねると、麻美は顔の前でわざとらしく手を振って答える。
「聡子はダメだね、私と同じくらいダメ。あ、嘘。私の方がちょっとだけマシかな」
麻美が張りあってみせる。聡子に聞いても同じことを言いそうだと、千景は少し可笑しくなった。
「ま、あいつは自分ができるできないより楽しければいいから、誘えばなんだかんだ割とノリノリで来ると思うけどね。あと、ルナは…………考えてみたらその辺聞いたことないな」
麻美は顎に手をあててまた視線を空に移す。
「私もそういう話はしたことないですね……迷惑だったりしないでしょうか……」
話しているうちに麻美の家の方向へ分かれる交差点に差し掛かる。
「とりあえず……ちょうどルナに電話する用事あったし、今日の夜にでも事情話してみるよ。遊びがメインなら迷惑ってこともないだろうし」
そう言って麻美は手を振って自宅の方へ向かって行った。




