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そして、彼女は死にたがる  作者: 工藤 黒音
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プロローグ

 ここはどこだ。

 どうやら俺は床に突っ伏しているようだった。なんとか立ち上がると辺りを見渡す。牢屋のようだ、と思った。壁、天井、床は石でできており、壁に配置してある松明がかろうじて光源の役割を担ってはいるが、不十分なようで辺りは薄暗い。暗闇に目が慣れてくると、鉄格子の扉を見つけることができた。まだ足元もおぼつかないが、そこに歩みを進める。開くわけがないよな、という先入観を踏みにじるようにあっけなくその扉は開いた。驚きながらも外に出る。周りには自分がいたような小部屋が他に九部屋、向かい合うようにしてあった。もちろん、自分の正面にも部屋がある。鉄格子越しに中を覗くと誰もいないようだった。他の部屋も同じように覗く。やはり誰もいない。そんなことをしていると、奥の方から男性の怒号が聞こえてきた。目をやると、先には気付かなかった木製の扉がそこにはあった。少しだけ開いており、光が漏れている。声はそこからするらしい。ふらふらとそこへ向かってみる。扉の隙間から中を覗くと、男性が壁に向かって吠えていた。

「おい、早くここから出せよ」

 なぜ、壁に向かって叫んでいるのだろう。すると、いきなり扉が勢いよく開いた。

「おはよう!!!」

 ぱっと見、10代後半だろうか、顔立ちの整った、しかしどこか影のあるような女性が俺を見下ろしていた。

「みんな!!起きたよ!!最後の人!!」

 彼女は後方を振り返ってみんな?にそう告げた。俺は恐れつつも、進み出る。目が眩むほどの眩しさだ。先の部屋のような薄暗さはどこにもなく、数えきれないほどの証明と白い壁のせいで明るさが何倍にもなっている。目が眩むほど、と言ったが実際問題、目が眩んだ。少しずつ目を慣らしていると、どうやらそこには俺と同じように集められたらしい人たちがいた。

 俺を含め10人。老若男女、年齢もばらばらのようだ。

「大丈夫?どこか痛いところはない?」

 俺に声をかけてくれた女性が心配そうに覗き込む。周りの人もこちらを窺っているようだ。注目を浴びるのが得意じゃない俺は目を伏せながら「大丈夫」と言った。(長年、声を出していないようなそんな細切れた声だったが)

「大丈夫ならよかった!私はまい、白い星が舞うと書いて白星舞!あなたは?」

「俺、俺の、名前・・・?」

「かわいそうに、まだ記憶がごちゃごちゃなんだね。私たちもそうだったんだ。今に戻るよ、きっとね!」

 こんな状況でも明るい彼女に俺は救われた気がした。他の人にも目をやると、一人の恰幅の良い30代ぐらいの男性と目が合った。

「あ、、、え、、、えっと、、、こ、これは自己紹介をする流れかな、、、?ぼ、僕は小林。よ、よろし」とまでいった所で先ほど騒いでいた男性が、

「お前の喋り方はいらつくんだよ!二度と喋るな!」

 と、遮った。それに小林と名乗った男性は「ご、、、ごめん」と謝った。

「ちょっと赤坂くん!あんまり怒鳴らないでって言ってるでしょ!」

 白星がたしなめる。ずっと騒いでいたのか、この男は。

 赤坂は舌打ちをして、傍に置いてあった椅子に腰を下ろした。見ると、部屋の中央には長テーブルと10人分の椅子があった。そこにみんなが座っている形だ。

「じゃあ次は私ね、私は三河一みかわはじめ。私も名前は思いだせたけど、他には何も記憶がないの、みんなで頑張って思い出していこうね」

 優しそうな凛とした女性だ。年齢は40代くらいだろうか、子育てをしながらも自らはバリバリのキャリアウーマン、そんな感じに見える。

「俺は、武田。兄ちゃん、よろしくな」

 隣に座っていた60代くらいの男性。職人気質というのだろうか、小難しい雰囲気だ。

「郷田だ」

 そのまた隣、こちらを一瞥ともせず、40代と思われる男性はそう名乗った。よく見ると顔にいくつもの傷が見える。戦場帰りの傭兵か、はたまたヤのつく職業の方だろうか。あまり関わらないようにしよう。

「相坂です。よ、よろしく」

 空席を挟んで隣。こちらを向いてはいるが、前髪が長いせいで表情が見て取れない女性がぺこりと頭を下げる。目は口ほどにものをいう、なんていう言葉があるがあれは嘘だ。目は見えないが、照れている様子が見て取れる。こんな状況でも余裕のある人だな。

「椎名だ、よろしく」

 30代と思われる男性は、かの高校生探偵がちっちゃくなっちゃった探偵アニメに出てくるFBIのスナイパーのような、まぁ端的に言えばすごくイケメンだ。ガタイもいいし、頼りがいがある。待てよ、なぜこんなことは覚えているんだ。俺は椎名から差し出された手を握った。

「私が最後の一人ね。古橋よ。体は男だけど、心は女なの。仲良くしてね♡」

「ただのオカマだろ」

 赤坂がつっかかる。

「うるせぇな!女だっていってんだろ!表出ろやガキャア!!!」

 古橋が地声で激高した。オカマは怒らせると怖いみたいだ、気を付けよう。


 タイミングを計ったように、ピンポンパンポン、と放送を告げるチャイムが部屋にこだました。

「ちょ、ちょっと、なによこれ」

 オカマ改め、古橋がキョロキョロと辺りを見渡した。

 他の皆も同じようにする。どうやらここではそれが初めての出来事のようだった。

『水原君も起きたようだね。皆さん、初めまして。私が皆さんをここに集めた張本人です』

 機械音声のような抑揚のない声はあっさりと犯人を名乗った。それに、水原?

「お前が犯人か!さっさと俺たちをここから出しやがれ!」

 赤坂は声のする方角が分からず、とりあえず天井に向かって叫んだ。

『皆さん、記憶がなく戸惑っている所でしょうか。それは仕方ありません。人は何か強い出来事があると、脳が記憶を封じ込めることがあります。心がもたないからです』

「そんな御託はいいからとっとと家に帰せよ!!」

『さて、そんな皆さんに提案です。ちょっとした遊びをしましょう』

「話聞けよ!!!」

「赤坂、これはただ音声を再生してるだけだ。問答はできない」

 椎名は赤坂を手で制す。赤坂はまた舌打ちをした。

『これから一時間後きっかりにそこの扉に入りなさい。見事クリアできた暁には記憶を一つ返しましょう。それまでは団らんするなり、食事をとるなり、お好きにお過ごしください。白星さん、小林くん、赤坂くん、三河さん、武田くん、郷田くん、相坂さん、椎名くん、古橋さん、そして水原くん、ご健闘をお祈りします』

 ピンポンパンポン、とまた無機質な音が鳴る。一同はわけがわからないといった顔でお互いに顔を見渡している。そして、俺はどうやら水原という名前らしいことが分かった。

「名前わかってよかったね!よろしくね、水原くん!」

 危機的状況だというのに、白星はあっけらかんとした様子で俺に話しかける。

「こわく、ないのか?」

「私ね、なんでも楽しもうと思ってるの!今はどうにもできないかもだけど、その、ゲーム?みたいなのクリアすればここから出られるんでしょ?じゃあ頑張らないと!」

 飲み込みが早すぎる。普通ここまで人は楽観的になれるのだろうか。

「やるしか、なさそうね」

 古橋がそう言うと、皆で口々に「やろう」「がんばろう」とお互いを励ましあった。気の弱そうな相坂でさえ、拳を握りしめ、三河と話している。

 俺は未だに納得もできていないのに、こいつらの順応の高さはなんだ?俺だけおかしいのか?なぜそんなにも平然としていられる?

「水原くん、がんばろうね!」

 白星のその笑顔に少し頑張ろうという気になった。

 とにかく、これから何かが始まる。


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