23日⑦
またまたお久しぶりになってしまいました
完結させる気はちゃんとあります
なので気長にごゆるりとよろしくお願いします
「……ひとまず、終わったね」
メグは向かいの席の宮地に話し掛けた。
「ん、来たばっかなのにもう疲れた……」
「この後、どうする?」
「あー……今日はもう自分の部屋で休むわ」
伸びをしながら宮地はそう言って、椅子から立ち上がった。
「そっか……」
じゃ、と軽く手で合図し、食堂を出て行く宮地。メグはそれを見送った。
食堂を見渡す。今現在残っているのは、メグと裕作と来海桜、そしてあともう一人、金山英美莉だった。
顔合わせが終わってすぐ。メグの隣に座っていた水城凛音が、我先にと素早く立ち上がって食堂を早歩きで出た。
一同はそれを見て一瞬だけ驚いたが、その後に世話係のセレスとエリスが、「では、また明日の朝にお会いしましょう」と言って出て行くと、それに続く形で他の魔法使いたちもぞろぞろと食堂を後にした。
裕作は自分や他の魔法使いたちが使用していたティーカップを洗っていた。
来海と金山は自分の席に座っており、来海はスマホをいじっていた。
「ほんっと信じらんない……こんな山奥なのにめちゃくちゃ電波良いんだけど~!」
「この館は“設備の整った環境”って、招待状に書いてあったね。それもその一つなのかもしれない」
一方金山は、顔合わせの時と変わらず不安げに俯いていた。
それを見た裕作は少しだけ考え込み、「あ、そうだ!」と何かを思い付いた。
「もし良かったらなんだけど、今ここにいるみんなで一緒に館中を回らないか?」
「いいね、賛成!」と来海が乗っかる。
「西の方とか、あたしもまだ行ってないし!」
「メグちゃんも、食堂とか自分の部屋以外は、ちゃんと見れてないんじゃない?」
「言われてみれば、確かにそうですね……」
「金山さん、君はどうかな?」
「へっ?」
話の流れで自分も呼ばれるのは分かっていたようだが、まだ緊張が解れていないのか、少々怯えたような目でこちらを見た。
「えっと……わたくしも、ですか?」
「うん。一人でも人数多い方が絶対楽しいし」
「ごっ、ご迷惑でなければ……」
「決まりだね!」
裕作はニコッとそう言って、ポケットから館の見取り図を取り出し、1階を指差した。
まずは食堂を出てすぐ。向かって右側には男子トイレ、左側には女子トイレがある。
女子トイレのすぐ隣は倉庫となっており、分の飲料やレトルト食品、お菓子が置いてあった。
そこから少し先に進むと図書室があり、小説をはじめ、絵本や図鑑に最新号の雑誌など、たくさんの本が、天井に届く程の大きな本棚にずらりと並べられていた。
何箇所かに踏み台や脚立が設置されていて、それらを使えば高い位置の本も取れるようになっている。
「あれっ」
「どうかした?」
裕作は小説のコーナーにあった内の一冊を手に取った。
「『樹咲伊緒』の新作だ……!」
それは、世界的に有名なベストセラー作家の新作。裕作は彼の小説の大ファンで、メグも何度もおすすめの小説だと電話越しに聞かされていた。しかし、その新作が発売された直後、突然執筆活動の休止を発表した。
「あーね。名前くらいならテレビで聞いたことあるかな……あたし、本とかあんま読まないからさ」
トイレの隣、図書室の向かいの部屋は、『リビングルーム』と記載されていた。
中に入ると、大画面のテレビや足を伸ばせる程のソファなど、名前の通り一般的な家のリビングだった。
その一方で、煉瓦で造られた本格的な暖炉や、高そうなグランドピアノなど一際目立つものも置かれており、ややチグハグな印象を受けた。
「ピアノか……。そういえば金山さんって、初めて会った時どこかで見聞きした名前だな……とは思ってはいたけど、確か、国際音楽コンクールで優勝したって子だよね?」
「えっ、そうなの?すごいじゃん!」
「……昔の話ですよ。今はもう……」
「ん?」
「いっ、いえ!何でも……」
「………」
皆が黙ってしまい、雰囲気が少し暗くなったことに気付いた金山は、慌てて謝罪する。
「……ごっ、ごめんなさい!」
「ううん!ねっ、次行こ!次!」
「そうだね、まだまだ折り返し地点だ」
一同はリビングルームを後にする。
最初に入って来た玄関を通り過ぎて、次は西側。
突き当たりの手前はジムとなっていた。本格的なトレーニング器具から、百均でも売っているような手軽に始められるものまでが、あちこちに設置されている。
そして、西側の突き当たりは大浴場。流石にここは男女二手に分かれて探索する。入ってすぐにマッサージチェアが置いてあり、相違点はロッカーの配置が男女で左右対称になっているというだけのようである。
さらにその横には、なんとサウナまでもがあった。
肝心の大浴場は、壁や床は大理石模様のタイルが使用されており、湯船には赤やピンクの薔薇と、その花弁が浮かんでいた。
これには一同も思わず、「うわぁ……!」と声が出た。
「こんな素敵なところに、これから毎日入れるなんて……!」
「本当ですね……!」
「明日から……ってか、今日から入っていいんだよね!?」
と、以上が1階の間取り。
無事に探索が終わり、全員が2階への階段を登り切る。
「……あの、ありがとうございました」
金山はそう言って深々とお辞儀をする。
「いいってことよ!」
「楽しん貰えたみたいで良かった」
「じゃあまた明日!」「明日からよろしくね!」、と4人はそれぞれ自分の部屋へと戻った。
◇ ◇ ◇
部屋に入った途端に静まり返る。雨音がしたので、窓から真っ黒な外を見てみると、天気予報の通り雨が降っていた。曰く、この雨は明日の昼になるまで止みそうにないらしい。
(兄さんも元気そうだったし、他の人たちとも仲良くなれたし、来てみて良かったかも)
とりあえず、メグは荷物の中身を取り出すことにした。
冬休みの宿題に教科書、筆記用具は机の上に。
着替えやタオル類はクローゼットやタンスに。
パジャマと下着と明日着る服は出したままにして、軽くシャワーを済ませた。
髪を乾かしている時にふと時計を見ると、時間はもうすぐ23時になるところだった。
そろそろ寝ようと思い床に入り仰向けになる。
しかし、雨音もそうなのだが、いつもと違う天井に、いつもと違う布団に枕だからなのか、それとももっと別の理由なのか、とにかくそれのせいで落ち着かなくてなかなか眠れない。
それでも寝ないわけにもいかず、頑張って目を閉じた。―――それからしばらくして、漸く彼女は眠りに就いた。