23日⑥
入って来たのはセレスだった。
ドアを静かに閉めて、“魔法使いたち”が座っているテーブルの横に立つ。
「魔法使い諸君、お待たせした」
そう言って、胸ポケットから手帳を取り出した。
「これから順に名前を呼んでいくから、呼ばれた者は返事をするか挙手してくれ」
そして、持っている手帳に目を通す。
「古戸裕作君」
「はい」
「来海桜君」
「はーい!」
まず、入口に近い方に座っていた2人が呼ばれた。
「土門慎二郎君」
その2人の次に名前を呼ばれたのは、裕作の隣に座っていて、腕を組んでじっと待っていた男子高生だった。肩まで届く紫色の髪の毛をサイドで結んでいる。
「ちなみに、彼にはこれから、毎食の料理担当をお願いしています。一人では大変なので、皆で積極的に手伝ってあげるように。」
(あの人が……)
「次、木崎絢奈君」
次に呼ばれたのは来海の隣に座っている、先程まで読者をしていた女子高生。黒色のセーラー服に緑色のスカーフ。髪は宮地より明るめの茶髪で、それをサイドで三つ編みにしていた。
「火神紅蓮君」
「火神紅葉君」
今度はゲームをしていた赤髪の男女2人組が呼ばれた。
同じ苗字に似ている顔つき。裕作の言っていた通り、この2人は双子で間違いないようである。
男子高生の方は短髪で、羽織っている赤色のジャージと、鼻の上の絆創膏が印象的だった。いかにも活発そうな青年の特徴だったが、意外にも彼からは声を掛けられなかった。ゲームに集中していたのもあるのかもしれないが。
一方女子高生の方は、毛先を遊ばせたロングヘアに、服装は灰色のセーターに短めのスカート。メグたちのクラスにも数人程いる、所謂ギャルを彷彿とさせた。
「若月翔君」
次はやや高めの声で返事をした、灰色の髪の男子高生。
この辺りでようやく、来た順で名前を呼ばれているのだと理解した。
「金山英美莉君」
「は、はい……」
次に名前を呼ばれた、金髪ツインテールの……恐らく年下だと思われる女子高生は、名前を呼ばれると肩をビクッとさせた。少しびっくりしたようで、震えた声で返事をした。
「天童理人君」
先程まで機械いじりをしていた、薄緑色の髪に眼鏡の男子高生。典型的なインテリキャラの雰囲気を醸し出している。
「水城凛音君」
先程の女子高生が名前を呼ばれた。視線は彼女に集まったが、彼女自身は誰とも目を合わせようとせず、特に返事をすることもなく俯いていた。
「宮地環君」
「はい」
(次、私だ……)
自分の番が近付いた途端、急に緊張が走った。
「最後、白銀メグ君」
水城を除いた全員の視線がこちらに集まる。
「……はい」
結局緊張は解けず、少し小さい返事になってしまった。
……全員が揃ったことを確認したセレスは、持っていた手帳を胸ポケットに仕舞った。
そして、“魔法使いの集い”の開催を宣言する。
「改めまして、星護館へようこそ。私はこの星護館の管理人をしている、綾小路セレスと申します」
「明日から2週間、皆さんにはこの館で共同生活を送って頂くことになりますが、そのうえで幾つかルールを設けたいと思います」
そう言って、再び手帳を取り出した。
そして、内容を読み上げる。
『①、原則として途中退場や外出は認めない。但し、有事の際は例外とする。』
『②、夜更かしや暴飲暴食は禁止。規則正しく健康的な生活を心掛けること。』
『③、料理や館の清掃などの家事には、魔法使い全員で分担・協力し、積極的に取り組むこと。』
『④、体調が酷く優れない場合は、無理をせずに世話係に申し出ること。』
『⑤、魔法使い同士の暴力行為は厳禁。相手に怪我を負わせた者にはペナルティを課す。』
「……以上になりますが、ルールは今後追加される場合がございますので、どうかご了承を。それと……」
ガチャ……と再び、誰かがドアを開ける音。
「ごめんなさい、遅くなったわ」
そう言って入って来たのは、銀色のウェーブしたミディアムヘアに、白衣姿の長身の女性だった。
「随分と遅かったみたいだが、何かあったのかな?」
「お化粧直しをしていたの。せっかく来てくれたんですもの、だらしない格好でお出迎えなんて出来ないでしょう?」
セレスはゴホン、とわざとらしい咳払いをし、気を取り直す。
「こちら、私と同じく、皆さんのお世話係を担当する、心理カウンセラーの皇エリス先生だ」
「どうぞよろしく」
そう言って、ニッコリと笑みを浮かべた。
「顔合わせは以上で終了となります。館内の設備は、本日から自由に使用して頂いて構いません」
「それから朝の7時30分と、昼の12時、そして夕方の6時はここで食事となります。強制ではありませんが、時間になったらここに集まってください」
「そして今後、何か分からない事がありましたら、私たちお世話係に何なりとご質問を」
時間は19時。顔合わせは終了し、今日はこれにて解散となった。