23日④
部屋を出て、階段を下ろうとした、その時。
下った先に、少なくともメグにとっては見慣れた服を着た人物が、食堂に向かって歩いているのが目に入った。
「あの人……」
間違いない。
真っ白なフードの付いたメンズもののつなぎなのだが、趣味の絵画の影響で、いろいろな色の絵の具やペンキで、フードの部分からくるぶしの部分まで全体的に汚れている。
そして、裸足にスリッパ。
これを私服と豪語してどこへでも出掛けるのだから、変わり者なのは正直否定出来ない。
しかも、ミルクティーベージュの髪で目が隠れている。なので普段何を考えているのかを読み取るのが難しい。
それでも、性格は至って普通に明るくて物腰も柔らかく、誰もが少し話をするだけで、すぐに打ち解けてしまう。
名前は古戸裕作。メグの従兄で、学年は1つ上。
ちなみに宮地の時とは違い、以前からお互いに自分たちの正体を知っている。
メグがこの集いへの参加を決めたのも、実は事前にその従兄と連絡を取り合っており、彼は参加してみたいと言うので、それに何となくで便乗したからなのである。
メグは急いで階段を駆け下り、従兄の名を呼ぶ。
「ゆ、裕作兄さん……!!」
名前を呼ばれた従兄は声がした方向へと振り返る。
「メグ、ちゃん……なのか…!?」
「うん、久しぶり…!」
「久しぶりだね……!もう随分会っていなかったよね。元気そうで良かったよ」
「兄さんこそ!」
お互いに遠く離れたところで暮らしていて、電話で連絡は取り合っていたものの、長らく直接は会っていなかった。
だから余計に会話が弾む。時間を忘れてしまうほどに。
「ここに来たのは、ちょうど1時間くらい前だったかな。その時はまだ誰も来てなくて、僕が一番乗りだったんだけど」
「だんだん人も増えてきた頃、ちょっとトイレに行きたくて席を外したんだよ。それで、食堂に戻る途中で、今君に声を掛けられたんだ」
メグは一番に、自分が不安に思っていた事を訊いてみる。
「えっと……ここに来てる人たちって……ど、どんな感じ……だった…?」
裕作はメグを落ち着かせてみせる。
「そう身構えることはないさ。少なくとも外見はだけど、僕たちと同じ高校生くらいの子しかいなかったよ。席に座ってた全員とは一応挨拶ついでに少し話もしてみたけど、みんな悪い人って感じじゃなさそうだったしね」
メグははっとする。ここはもう現実世界とは違うんだと改めて思い知らされた。
それでも会話を続ける。
「そ、そうなんだ……よかった……」
「あと、宮地くん……だっけ?そういえば彼とはご挨拶がまだだったな」
うんうん、こんな感じ!
兄さんとお話をするのは、いつだって楽しいから好き。
会話を重ねるうちに、少しずつメグの緊張は解れていった。
さすが従兄。コミュニケーション能力の高さは伊達ではなかった。
クラスメイトの宮地に、従兄の裕作。裕作の言う通り、知っている人間が、頼もしい仲間が、なんと2人も。招待状を受け取った時の不安がまるで嘘のよう。
むしろ少しだけわくわくすら覚えた。
「……じゃあ、中に入るとしようか」