23日③
扉を開ける前は、外装からして廃墟のようなものを想像していた。
しかし中はむしろ廃墟とは程遠いくらい、壁や床はしっかりしていて、電気もちゃんと付いており、埃や蜘蛛の巣といった目立つ汚れも全く無く、清潔だった。
アンティーク調の家具が置いてあったり小物が飾られていたりで、見た感じとしては確かに、“魔法使いの集い”が行われるには相応しい場所だと感じた。
まるで誰かが住んでいるみたいに落ち着いた雰囲気はあったが、やはり興味本位で来てしまったので不安は拭えなかった。
その時。
―――ガタン。
どこかのドアを開けた音だろうか。
音がした方に振り返ると、メグにとっても宮地にとっても見慣れない長身の男性が、背筋良く立っているのに気が付いた。
その男性は、茶色をベースにした金色のスパンコールが飾り付けしてある派手なタキシード姿。そして目元にはこれまた派手な仮面を被っていた。
少なくとも口元はにこやかに、自分たち来客を迎えてくれた。
「宮地環君に、……白銀メグ君だね」
「……はい、そうですが」
応じたのは宮地だった。その表情は当たり前だが警戒していた。
それを察してか、男性はすぐに名を名乗る。
「ようこそ星護館へ。私はこの館の管理人をしている綾小路セレス。こんな格好をしているが、決して怪しい者ではないよ」
「あと、マジツールは持って来ているね?」
「はい」
メグは持っていた鞄を床に下ろしてチャックを開け、いつの間にか奥の方に下がってしまっていたペンダントを取り出した。
その一方で、宮地は首に掛けていたヘッドホンを手渡した。
「それマジツールだったんだ……」
「あ、ああ……」
「ありがとう。明日にはお返しするよ」
「……宇野魅宙はいないのか?」
「ああ、少し用事が出来たらしくてね。しばらくは来れないみたいなんだ」
「あと私は、あの子に君たち“魔法使い”のお世話をするように、と言われているだけだからね。余計な干渉はしないし、するつもりもない」
「………」
「もうみんな食堂に集まっている。2階の個室へと案内するから、そこに荷物を置いたら食堂へ向かうように」
「はい……」
いまいち納得のいかないまま返事をしてしまう。
言い終わると同時に、セレスは2人に館の見取り図を渡した。
その図を見ると、1階は東側の突き当たりが食堂で、西側の突き当たりが大浴場。階段近くには図書室や、物置き部屋などもあった。
2階は個室となっているようで、男子は西側に、女子は東側に、それぞれ一人一部屋ずつ与えられていた。
詳しい事の説明は全員が食堂に集まった時にするとのことだったので、まずは指定された部屋に荷物を置くことにする。
「あっ……じゃあ私、こっちか」
「お互いに一番端か……」
メグは東側の突き当たりの部屋。宮地は西側の突き当たりの部屋。
宮地の表情は不満そうだった。
……確かに隣同士だったなら、何かと安心だっただろう。
そう思うとメグも少し残念な気持ちになった。
「んじゃ、また……食堂でな」
「……うん」
2人は階段を登り切った後一旦別れた。
それぞれ自分の部屋へと向かい、ドアを開ける。
個室の見取り図を見てみると、入ってすぐ右側にトイレがあり、その隣は洗面所にシャワー室となっているようだ。
真っ直ぐ進んだ先には、白い毛布と枕のベッド、何も置かれてない勉強机や化粧台に、空っぽのクローゼット。色は茶系で統一されていて、こちらも埃や蜘蛛の巣など、目立つ汚れは無く清潔だった。
「はぁ……」
扉を閉め、持っていた荷物を少し乱暴に床に置くと同時に、疲れで思わずため息を吐いた。
これから何が始まり、そして何が行われるというのだろう。
壁に掛かっていた時計を見ると、もうすぐ夕方の5時半になるところだった。
そろそろ部屋を出なくては。