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惑える魔法使いたち  作者: 未愛
第0.5章
3/9

23日②

 『クラスメイトの宮地環も自分と全く同じ内容の手紙を受け取っている』という事実を知ったのは、今からちょうど1ヶ月くらい前だった。


 当時教室では偶然、彼とは席が隣同士。なので話す機会も自然と増えた。


 そんなある日の夕方。下校時刻になったので帰る準備をしていると、バタッ、と何かが床に落ちた音がした。


 見ると、それはノートだった。


 表紙が上の状態で落ちてあって、名前も書いてあったので、持ち主はすぐに分かった。


 拾ってほこりを払おうとした、その時。


 ノートに何かが挟まっているのに気が付いた。


 最初こそ授業のプリントだろうと思ったが……


「……!?」


 それは、真っ黒の便箋。白い文字で宮地の名が、フルネーム且つ様付け記載されてあった。


 裏にはこれまた同じように、アルファベットの「M」のような模様が刻印されている、赤黒い封蝋。


「みっ、宮地くん!」


 帰ろうとしていた宮地に声を掛け、ノートと一緒に手紙も渡そうとした。


「あの、これ……」


「……!!」


 宮地は渡された物をひったくるように取り上げた。


 その表情は焦っていた。隠していたものが見つかってしまった、見られてしまった、バレてしまった、というような顔だった。


 逃げるように立ち去ろうとする宮地を、メグは呼び止める。


「あっ、待って!……違うの!」


 宮地ははっとして、ゆっくりとメグの方に体を向ける。


「それ……その手紙……私も、持ってるの……」


「え…?」


 突然のカミングアウトに、宮地は驚き、困惑する。


 メグ自身も、何と言葉を続ければいいか分からなかった。


「………」


 2人はしばらく固まっていた。


 誰もいなくなった教室に、沈黙が続く。




 ……手紙手紙とずっと言ってきたが、2人が受け取ったのは、正確に言えば()()()だった。


 びっくり箱のような驚かすような仕掛けは特になく、中には紙が一枚入っているだけ。


 その紙にはこう書かれていた。そこそこの長文だが、どうかお付き合い願いたい。


『親愛なる魔法使いの皆様、日々の学校生活をいかがお過ごしでございましょうか。宇野魅宙(ウノミソラ)でございます。


 この度は突然のお手紙で、皆様を驚かせてしまい申し訳ございません。


 そして一瞬でもラブレターだと期待されていた方には、そのご期待を裏切る結果となってしまい、誠に申し訳ございません。


 皆様にはいつものように直接お伝えしようか悩みましたが、たまには手紙も悪くないだろうという私の一方的な都合により、今回はこのような形でお伝えさせていただくことを、どうかご了承ください。


 さて、そろそろ本題に入るとしましょう。前置きが長いのと余計な一言が多いのは僕の悪い癖ですね。以後気を付けます。私のことなのできっとすぐに忘れると思いますが。


 目的はただ一つなのです。


 皆様魔法使い同士の交流の機会を設けるべく、“魔法使いの集い”を開催すること。


 当日は皆様がご使用になられている「マジツール」をご持参ください。これだけは絶対、強制です。


 それ以外にお願いしたい事はございません。この集いのためだけに用意された、設備の整った快適な空間で、魔法使いの皆様に共同生活を送って頂きたいのです。


 なお、開催期間が皆様でいうところの冬休みに当たるということなので、受験勉強に集中されたい方や進路に向けて準備をされたい方、年末年始にご実家に帰省される方もいらっしゃると思われますが、どうかご心配なく。ご家族様やご友人様など、皆様と普段関わりのある方とその周辺に、今回の集いや皆様の普段の生活に支障のない程度にマインドコントロールを仕掛けさせていただきました。


 ……長々と文章を考えていたら飽きてしまったので、急ですがこの辺でそろそろ終わりにさせて頂きます。とにかくこの集いが、皆様にとって必ず有意義なものになることを約束致します。


 ぜひご参加くださいますよう、心よりご案内申し上げます。宇野魅宙』


 ……この招待状を読み終えた2人は感じた。


 ただでさえ読まずとも怪しかったこの手紙に、さらにたくさんの突っ込みどころと、読む前以上の恐怖を。


 そして、白銀メグに、宮地環。


 この2人こそ冒頭にて言及した、“魔法使い”の内の2人なのである。


『マジツール』とは、“マジックツール”の略。あらゆる魔法や超能力など、人間には絶対に不可能な事がいとも簡単に、しかも使いたい時にいつでも使えるとても不思議な道具のこと。


 この招待状の差出人である宇野魅宙は、そんな2人にマジツールを与え、2人を魔法使いにした張本人なのである。


 “魔法使いの集い”とやらは今からちょうど1ヶ月後に開催されるらしく、期間は招待状の通り、冬休みの期間丸々。つまり2週間程。1日や2日ならまだ納得出来たが、この要求は実に滅茶苦茶だった。


 そして場所は……星宿(セイシュク)……館……?


 今回のこの集いのためだけに用意されたとのことだが、確かに建物の名前に聞き覚えはなかった。


 しかし住所は決して異国の遠い場所というわけでもなく、普通に電車など使えば行ける距離だったのでとても驚いた。だが、自分たちの知識が間違っていなければ、その館は結構な深い森の中にある。


 そこで、……何……?交流会だって……?


 本当に訳が分からなかった。


 メグも宮地も、招待状の件までお互いにその正体を全然知らなかった。


 思わぬところでまさかの共通点が出来たので一番は驚きだったが、仲間が出来て、お互いに少しほっとしたような気持ちでもあった。


 ……魔法使い同士の交流会……か。


 ということは自分たち2人以外にも、同じような境遇の仲間がいるということになる。


 不安はどうしても拭えなかったが、自分たち以外の魔法使いという存在に、会ってみたいという興味本位の気持ちも湧いてきた。


 決して短くない時間を悩みに悩んだ末、メグも宮地も、交流会に参加してみよう、ということで意見が一致したのだった。


 ◇ ◇ ◇


「や……っと、着いた……!!」


 待ち合わせ場所から出発して数十分後。夕暮れ時で大分暗くなってきた。


「………」


 メグと宮地の目の前にあったのは、“魔法使いの集い”が開催される星新館。看板に書いてある文字は少々擦れていて読めない部分もあるが、ここで間違いないだろう。


「………」


 事前にネットで調べようとしても、結局建物自体の外装や内装の写真や、その他の有益な情報は何も見つけられなかった。


 館と書いてあったので旅館のようなホテルを想像していたのだが、館は館でも、実際には西洋の外装の洋館で、見るからにとても古そうな建物だった。


 周囲の木々や、夕暮れ時なのも相まって不気味さが増しており、2人は何かの肝試しに来てしまったような気持ちになった。


 その上、この洋館が建てられたのは、ほんの数十年前ではなさそうだった。なんとも荘厳な佇まいで聳え立っていて、2人にいろんな意味で、ここに来たのが果たして本当に正解だったのだろうか、と感じさせた。


 そしてその中で、魔法使いの集いが行われる……。なんというか、()()()()()を感じた。


 他の人……というか魔法使いたちは、もうここに来た中に入っているのだろうか。もしかしたら自分たち2人が最後かもしれない。


 漸く扉の前に立つ。

 何度か深呼吸をし、ごくりと唾を飲み、お互いに目配せをし、頷き合う。そして、意を決し扉の取っ手に触れる。


 ……魔法の世界への扉が、今開かれた。

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