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大好きな幼馴染がほかの男にとられないように頑張ります  作者: 完成された欠陥品
第二章

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32/33

 エレベーターのドアが開いた瞬間、嫌な予感が胸を締め付けた。


 八階のフロアは、思っていたよりも静かだった。

 オフィス用の白い壁、等間隔に並んだドア、消えている照明。

 人の気配があるのかないのか、判断がつかない。


「……春香」


 名前を呼んでも、返事はない。

 喉がひりつく。呼吸が浅く、胸がうまく膨らまない。


 焦るな、と自分に言い聞かせる。

 焦ったところで、春香が見つかるわけじゃない。

 わかっているのに、足は勝手に前に出る。


 視界の端に、一つのドアが入った。

 簡易的なプレートに、無機質な部屋番号。


 理由はない。

 ただ、ここだと思った。


 ノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。

 勢いよくドアを開ける。


「春香――」


 声は、途中で止まった。


 部屋の中は、簡易的なオフィスだった。

 机と椅子、ホワイトボード、積まれた段ボール。

 そして、その中央に人影があった。


 相場さんだった。


 立ったまま、こちらを見ている。

 顔色は悪く、目元は赤く腫れているように見えた。


「……相場さん?」


 どうして、ここにいる。

 どうして、こんな顔をしている。


 頭の中で言葉が絡まり、何一つ整理できない。


 俺は一歩、部屋の中に踏み込んだ。

 靴底が床に擦れる音が、やけに大きく響く。

「春香はどこだ」


 オフィスの中に足を踏み入れた瞬間、そう口にしていた。

 息が荒い。喉が痛い。頭の中がひどくうるさい。


 視界に入ったのは、相場さんだった。

 部屋の中央に立ち尽くし、こちらを見ている。


「相場さん、春香は――」


 言い終わる前に、部屋の奥を探そうとして、一歩踏み出した。


「待って、真一」


 背後から声がした。


 聞き間違えるはずがない。

 何度も、何度も呼ばれてきた声だ。


 俺は弾かれたように振り返った。


 そこに、春香が立っていた。

 俺が入ってきたドアの近く。

 壁に軽く手をつきながら、こちらを見ている。


「……春香」


 春香は、ゆっくりと一歩前に出る。

 それから、俺と相場さんを順に見た。


「真一、落ち着いて」


 その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


「大丈夫。私は、ここにいる」


 そう言ってから、少しだけ息を吸う。


「だから……お願い

 紗月の話を、ちゃんと聞いてあげて」


 その言葉のあと、春香は俺から視線を外した。

 ゆっくりと、部屋の中央に立つ相場さん――紗月のほうを見る。


「……紗月」


 名前を呼ばれた相場さんの肩が、びくりと揺れた。


 それでも、春香の声は優しかった。

 急かすでも、問い詰めるでもない。

 ただ、そこにいることを確認するみたいな声音だった。


 春香は何も言わない。

 理由も、正しさも、求めない。


 ただ静かに、紗月を見つめている。


 まるで――

 もう覚悟は決まっていると、知っているみたいに。


 相場さんは俯いたまま、しばらく動かなかった。

 握りしめた手が、わずかに震えている。


 春香は一歩も近づかない。

 距離を詰めることもしない。


 ただ、その場を譲るように、黙って待っていた。


 やがて、相場さんが小さく息を吸う音がした。

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