8
春香 Side
「告白、していいよ。
真一は、ちゃんと聞いてくれる人だから」
その言葉を聞いた瞬間、紗月は俯いたまま動かなくなった。
肩が小さく上下し、ぽた、ぽたと床に雫が落ちる。
「……ずるいですね、春香は」
震える声で、紗月はそう呟いた。
「そんなふうに言われたら……逃げられないじゃないですか」
しばらくして、紗月はゆっくりと顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃになった顔だったが、目だけは不思議と澄んでいた。
「……わかりました」
短く、しかしはっきりとそう言って、紗月は春香の背後に回る。
「私……ちゃんとします。
真一君に、自分の気持ちを言います」
春香の背中で、縄がほどける感触がした。
きつく結ばれていたはずのそれが、驚くほどあっさりと解かれていく。
「紗月……」
「ごめんなさい」
それだけ言って、紗月は春香の腕に残っていた最後の結び目を解いた。
自由になった腕を下ろしながら、春香はゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう」
その言葉に、紗月は小さく首を振った。
「……ありがとうって言われるようなことじゃないです。
でも……これで終わりにしたかった」
紗月は一歩下がり、深く息を吸う。
「逃げないって、決めたので」
その横顔は、泣いているのに不思議と落ち着いていた。
負けを認めた人間の、静かな覚悟の顔だった。




