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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その32 Aファイル関係者

作者: 天城冴

国有地売買への前首相他の関与を認める証拠、Aファイル。それが公にされる前に辻褄を合わせようとした課長らに呼び出された職員、アカミとアスギ。休日出勤中に彼らが見たのは不正のせいで直接、間接的に亡くなった人々で…

ニホン国、首都の官公庁ビルの林立する一角。大型連休中だというのに明かりのついた部屋がちらほらみえた。その一室で数名の男性が倉庫から出された大量のファイルを床に並べて中身をチェックしていた。

「オイ、本当に見つかったのか、あのファイル」

「ああ、そうらしいぜ、アカミ」

「ほんとかよ、アスギ、あの、前首相がかかわったっていう公文書改ざんしたとかいう。で、職員が自殺したって」

「そうだよ。だが、死んだのはそいつだけじゃないらしい。あの国有地を格安払い下げウケたっていう園長夫婦だってヤバかっただろ。収監されてかえってよかったかもってよ」

「そんな重大なファイルだったのか。まあ、国の土地売買なんだし、文書があって当然だけど…」

「だけど、その案件、部長もかかわってたらしいぜ。どうもお偉方のご機嫌とりのために、不正を強要したって話だ。しかも部長だけでなくってさ。あのゴマすり課長とかも」

アスギはそっと窓の方をさす。指の先には何十ものファイルを取り出しては、目を通すやせ気味の黒縁眼鏡の初老の男性の姿。

「そ、それで俺たち連休中なのに駆り出されたのは」

「関連するファイルをみつけて、なんとか辻褄合わせる気か。」

「多分そうだろう。もしかしたらもっと公になったら全員責任まぬがれないようなものがあるのかも…な」

「そんなことを休み中にさせようってのか。いや、休みだからこそか」

「ああ、そのうえ、出てきてる奴みろよ、独身かそれともなければ上の連中のいいなりか、だろ」

「そうか、あの自殺した職員の奥さんが訴えたんだっけ、国を。そういう心配のない奴を集めたのか」

「俺らは独身枠、だろうな。休み中に呼び出しくらって、のこのこ出てくるんだから、ゴマすり野郎と一緒くたにされてんのかもしれないけど」

「一応、休日出勤の手当て出るっていうから、来たんだけどな、俺。だいたい、休み中だって、今やこの国、とくに首都の人間は旅行なんておいそれいけないだろ。新型肺炎ウイルスのせいでさ」

「それも上の連中のせいみたいなもんだろ。前首相が変なマスク配るとか、検査抑制とか言い出すジジイ御用学者を対策にあてたとか。今の首相だって旅行キャンペーンや国際大運動大会開催を強行したり、連中ロクなことやんないからな。人災だって言ってたやつもいた」

「こんなこと言っちゃなんだけど、あの文書が去年明らかにされてたら、こんな悲惨なことにならなかったんじゃないか」

「そうだよな。政権交代とまではいかないまでもさ、前首相は不正で降ろされて、長官だった現首相もいなくなって閣僚とかも入れ替わって、も少しマシだったかもな」

「だいたい野党連中のほうが言ってる事マトモじゃないか。国際大運動大会は中止してウイルス対策に全力であたるべきとか。戦争とかいってんだったら、他の余計なことすべきじゃないよな」

「だよな、旅行キャンペーンとか、食事キャンペーンとか、まだ感染が拡大してんのにやっちゃって、さらに拡大させてんだから。与党のお偉いさんの利権とかのせいで国民が苦しんでんだよ。俺らだって迷惑なのに、官庁に勤めているからって同じ穴のムジナ扱い、ホントあいつら…」

「お、おい!喋ってないで、次のファイルをもってこい!」

話しているのを見とがめた課長が二人を席からしかりつける。アカミとアスギは斜め読みしていたいくつかのファイルを課長の席に運んでいく。

「い、いいか。これは重要な職務なんだからな、む、無駄話なんてしないで、さっさとやれ。まったく似たような名前だから逆らうのか、ブツブツ」

言いながら、ファイルをひったくるように受け取る課長。アカミとアスギは顔を見合わせて肩をすくめる。

「お、お前ら!私をバカにしてるのか!く、くそ!そんな態度をとっていれば、あいつのように…」

怒鳴りだした課長の顔が不意に青ざめた。

「う、うぐうぐぅぅぅ」

口をパクパクさせながら、目を見開いている。腕をあげようとするが、固まって動けないらしい。細かく震えながら、何か言おうとしているが、言葉にはならなかった。

「課長?」

「ど、どうしたんです?」

課長の様子に二人が声をかけるが、課長は返事をせず、じっと、彼らの後ろをみていた。

「な、なんだ」

二人が振り向くと

何もない。

ただいつものオフィスの…はずが

いつの間に入ったのか、見知らぬ顔がちらほらと、いた。

出勤していたはずの同僚たちの姿が見えない。

「お、おい、あいつらは」

「ゆ、床に倒れてるぞ!」

「ハシゲにマツイダ、課長のお気に入りばかりじゃないか」

「ど、どういうことだ、なにがあったんだ、こ、こいつらは」

パニックになった二人を気にも留めず、見知らぬ男女が課長に近づいてくる。

「ぎゃーア、アカギギ!わ、私のせいじゃない!私は悪くない!」

“そうかな、貴方はあのファイル、Aファイルにかかわったんだろう”

答えたのはアカギギと呼ばれた男ではなく、その後ろにいた男性

他の男女も次々に口を開く。

“アンタたちがあの土地売買をめぐる不正に加担して、あの首相を野放しにしたせいで、私たちは死んだんだよ”

“あんなマスク配るバカを放置してたから、検査も治療もロクにしてもらえなかった”

“直接じゃないけど、医療崩壊が起こったのはアンタたちのせいよね。あんな連中、さっさと逮捕されればよかったのよ”

“苦しかったよ、あのウイルスで息もできなくて”

“私たちがこんなに苦しいのに、あの連中は自分たちだけ検査うけて治療してもらって、そのうえワクチンまでうってるのよ、私たちのお金で”

“お前たちがあんなことをしなきゃ、あいつらがのさばることもなかったんだ”

“共犯者だよ”

恨めしそうな顔の男女が課長に迫っていく。

アカミとアスギは呆然として彼らを見ていた。

「ひ、ひいいい!う、ゲッホ、ゲッホ」

課長は急に咳込み、胸を押さえながら、床に崩れた。ヒクヒクと口を動かしながら、床をのたうちまわる。

「か、課長?ま、まさか」

「か、感染したのか?新型肺炎ウイルスに?」

驚くアカミとアスギに幽霊たちの声が聞こえる。

“同じ目にあわせればいいよ”

“首をつらせてもいいけどね”

“そんな簡単なことじゃだめだよ。この国の何千何万の人を死に追いやった罪の重さをおもいしらせなきゃあ”

“そうだよ、うんと、酷い症状になって死なせてやろうよ”

“最悪の変異株の恐怖をたっぷりと味わって”

最後のセリフを聞くや否や

「うわああ、に、逃げろ!感染する」

「ひいい、俺たちは無実だあ!」

二人は逃げ出した。

幽霊たちは彼らに目もくれず、苦しむ課長を見つめていた。やがて、課長が動かなくなると

“さあ、次に行こうか”

アカギギの低い声とともに、ゆっくりと動き出した。


どこぞの国では無策のうえ、仮病で退陣した元トップがまた出張っているようですが、どうなんでしょうかねえ。ムダ金使いに依怙贔屓、いらぬ大会誘致などロクなことしないオッサンですが。そのロクデモナイオッサンの不正の証拠もようやく出てきたらしいですが、また妙な黒塗り隠蔽やるんですかねえ。そんな誤魔化しばかりしていたら、ますます滅亡にちかづきそうですが。

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