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7話 幻覚を見てるのかな

イザベル視点です

 穏やかな笑みを浮かべてこちらを見つめるエリカお嬢様は、はっきり言ってわたしの予想をはるかに上回る美少女だった。


 白銀色に輝くサラサラの髪に、ミステリアスな紫の瞳。ちょっと異質に感じるほど整った顔立ちと、儚げで幻想的な雰囲気。


 なんていえばいいんだろう。もうわたしとは種族から違う気がした。同じ人間とは思えない。人間というよりは天使か妖精と言われた方がしっくりくる。


 こんな人いるんだ…。うん、これなら容姿だけで有名になるのも分かるよ。


 というか普通、噂には尾ひれがつくものだと思うけど…。彼女の場合は逆だった。噂は彼女の美しさを十分に表現できていない。


 「リュミエールの真珠」という二つ名だけでは彼女の美貌のすごさは半分も伝わらない。


 …えっ、でもちょっと待って。


 彼女の容姿が噂よりも遥かにすごかったということは…。もしかしたら彼女の性格も噂より遥かにすごい可能性もある、のかな……?


 …いや、そんなこと考えても意味がないよね。余計なことを考えるのはやめよう。仮にそうだとしてもわたしにできることは何もないんだ。


 エリカお嬢様がどんな性格だとしてもわたしはそれを受け入れるしかないのだから。


 わたしにできることは、これから誠心誠意お嬢様に尽くして、それでもお気に召さないことがあればその時はもうお嬢様のストレス解消用の藁人形になることだけだよ。


 入室してからエリカお嬢様の待つソファーの近くまで移動する数秒間の間に、わたしはそんなことを考えていた。


 そして最後のシンキングタイムも終わり、いよいよお嬢様に最初のご挨拶をさせていただく時がやってきた。


「お初にお目にかかります、お嬢様。本日からこちらでお世話になります、イザベル・ホランズワースと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 わたしはちょっと過剰なくらい腰を曲げ、できるだけ礼儀正しい言葉でお嬢様にご挨拶をした。


 自分の声が緊張と恐怖で震えているのがわかる。


 何が返ってくるんだろう。無視?嘲笑?嫌味?罵倒?ビンタ?


 どうかお手柔らかにお願いします、お嬢様。わたしの無条件服従の姿勢が少しでもお嬢様に伝わっていますように…!


「はじめまして!エリカです。イザベルさんとお会いするのをとても楽しみにしておりました。リュミエール家へようこそ!」


 …

 ……

 ……えっ?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 返ってきたのは、太陽のような笑顔と温かい歓迎の言葉だった。


 お嬢様の口調はものすごくフレンドリーだったし、お嬢様の声には「あなたと会えて嬉しい」という気持ちがたっぷり込められている気がした。


 かなり予想外だったけど、よかった!少なくとも最初の挨拶からお嬢様の逆鱗に触れることはなかったみたい。とりあえず安心した…。


 でもさらに予想外のことはその後に発生した。


 そのまま速やかにご挨拶を終わらせて退室しようとしていたわたしを、お嬢様が解放してくれなかったのである。


 彼女はわたしに興味津々な様子でいきなり質問攻めをはじめてしまい、もうわたしは何が起きているかもよく分からないまま、ただお嬢様の質問に答えているだけの状態になっていた。


「イザベルさんはおいくつですか」

「はい、今年15歳になります」

「そうなんですね!私、先日13歳になったばかりなんですよ。イザベルさんの方がお姉さんですね!」

「そう、ですね…」

「私、たくさん甘えさせてくれる優しいお姉さんがずっとほしかったんですよね。うちのお姉ちゃん、結構厳しい人だから。あ、今のはお姉ちゃんには秘密ですよ」

「かしこまりました」


 …いやお嬢様、初対面から友好的すぎません?


 なんか話が違うぞ。もちろん良い意味で違っている訳だからとても嬉しいけど。


「私のこと、実の妹だと思ってたくさん可愛がってくださいね♪」


 …はい?実の妹?いやいやそんなことはできませんよ!?


「そ、そんな恐れ多いこと…」

「恐れ多くないよ!私がそうしてってお願いしてるわけだから。まあ、でも最初はちょっと難しいでしょうから、少しずつ仲良くなっていきましょうね」

「…かしこまりました。ありがとうございます」


 というかちょっとお嬢様のコミュニケーション能力すごすぎない?


 人間とのコミュニケーションには全くなれていないうえに、つい先ほどまでお嬢様に怯えまくっていたわたしが割とリラックスしてお喋りできてるんだけど。


「マーガレットさん」

「はい」

「イザベルさんの新人研修って今日からですか」

「いいえ、明日からの予定でございます」

「そうなんだ。よかった。じゃあ、今日は私がイザベルさんにこのお屋敷を隅々までご案内しますね」

「「…はい?」」


 わたしとマーガレットさんの声が綺麗に揃った。


 マーガレットさんは先ほどからずっと驚いた表情をしているから、たぶん今日のお嬢様はいつもとはだいぶ違う感じなんだろうね。

 

 というか、はい?いやあの…はい?どういうこと?どこのお嬢様が新人メイドに屋敷の案内をするんです?


 …なんで?どうして?


「私、少しでも早くイザベルさんと仲良くなりたいんですよ。これからずっとお世話になるわけですからね。だからイザベルさんがお嫌でなければぜひ!」


 もちろん嫌な訳がないし、わたしと仲良くなりたいという言葉自体、実は生まれて初めて言われた言葉だから正直めちゃくちゃ嬉しいんだけど…。


 …うん、だったら別に悩む必要ないか。


 最初から完全無抵抗、すべてはお嬢様の御意のままにと決めているんだ。お嬢様が屋敷の案内をされることを望まれるのであれば、わたしはされるがまま大人しく案内されるのみ。


「…かしこまりました。ではよろしく…お願い致します」


 わたしの返事に、お嬢様は嬉しそうに目を細めた。


 …いやなんだろう。お嬢様、想像していたのとあまりにも違う。


 性格に難があるどころか、信じられないくらい優しくて明るい方だったんだけど。しかもなぜかわたしにめちゃくちゃ友好的。


 ……もしかして、あれかな?


 一度最高に幸せな気分にさせてから、「調子に乗ってるんじゃないわよ」とかいって一気に地獄に落とす作戦?


 それとももしかしてこれは幻?わたしは幻覚を見てるの?


 …でも少なくともその日は、わたしは地獄に落とされることも、幻覚から目が覚めることもなく、お嬢様は終始ご機嫌でわたしに屋敷を案内してくださっていた。


 もしかしたら一日で終わる夢かもしれないけど、別にそれでもかまわない。


 だって、その日が、わたしにとって今までの人生で一番楽しい一日だったから。

どうかブクマと☆評価をお願いします、読者様。わたしの無条件服従の姿勢が少しでも読者様に伝わっていますように…!

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