5話 幸の薄さに絶対的な自信がある
イザベル視点です
わたし、なんで生まれてきちゃったんだろう。そしてなんで生きてるんだろう。
今までの人生、何回自分にそう問いかけたのか分からない。そして何千回、何万回問いかけても、納得できる答えを見つけることはできなかった。
わたしの名前はイザベル・ホランズワース。15歳。趣味は特になし。特技はアンデッドの召喚と使役。
あと、幸の薄さには絶対的な自信を持っている。たとえば、直近の幸薄エピソードとしては、先日両親を亡くし、天涯孤独になっちゃったというものがある。
…本格的でしょ?
親から愛された記憶はほとんどないし、人間の友達は一人もいない。
今までの人生を簡単にまとめると「うっかり生まれてしまい、仕方なく生きてきた」という感じだと思う。
一応父の肩書は「ホランズワース男爵」だったので、身分としては貴族ではあるんだけど…。
聞いた話では家は祖父の代で没落したらしく、わたしは貴族らしい生活をしたことは一度もない。極貧ではなかったが、どちらかというと貧しい生活だった。
でも問題はそこじゃなかった。別に裕福じゃなくても家族仲がよかったら普通に幸せに暮らせていたと思う。
問題はうちの家族が常に不仲だったというところにあった。
そして悲しいことにその原因は、わたしが持って生まれた呪われた力だった。
先ほど言ったとおり、わたしの特技はアンデッドの召喚と使役である。つまり、わたしは世間から忌み嫌われるネクロマンサーである。
わたしにネクロマンサーの素質があることが判明したのは4歳の時だった。
どうやらその前までは貧しくても家族三人仲良く暮らしていたらしいけど、その日からすべてが変わってしまった。
父はネクロマンサーの素質を持つ娘を全く受け入れてくれなくなった。もう「拒否反応」って言っても過言ではない感じ。
あとから知ったんだけど、どうやら父にとってはネクロマンサーの素質そのものが問題ではなかったようである。
父方と母方の両家どちらにも一度も現れたことがないネクロマンサーの素質を持った子供が生まれてきたことによって、父は母の不貞を疑うようになったらしい。
そして酒浸りになり、徐々に家に寄り付かなくなってしまった。
母は、彼女の言っていたことが本当であれば、父のことを心から愛していて不貞を働いたことは一度もないとのことだった。
そんな母は愛する人に信じてもらえなくなったことが原因で、徐々に精神を病んでいってしまった。
そして母は父との関係が破綻した原因であるわたしを恨むようにもなった。だからわたしには母からの愛情を受けた記憶もほとんどない。
ただ、母の日記によると、母は心のどこかでは「本当は娘のせいではない」「娘が悪いわけじゃない」という風に思ってくれていたらしい。
だからなのかは分からないが、わたしは母に虐待はされなかった。必要最低限の面倒は見てくれたしね。
…とは言っても母はいつもわたしにとても冷たかったけどね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
両親に愛してもらえなかったわたしは、常に孤独だった。
そして寂しさを紛らわせるためにわたしが選んだ方法は、こっそり召喚したアンデッドとお話をすることだった。
最初は言葉も通じないゾンビを召喚して一方的に話しかけることしかできなかったけど、毎日のようにアンデッドを召喚している間にわたしのネクロマンサーとしての才能はどんどん開花していった。
召喚するアンデッドはゾンビからグールに、グールからレブナントに、レブナントからレイスに進化していき…
10歳の頃からはほぼ毎晩、人間と同等の知性を持つとされる最上級のアンデッドであるデュラハンに話し相手になってもらっている。
わたしがネクロマンサーの素質を持つことは対外的には極秘で、そのことを知っているのは父と母しかいなかったけど…。
二人は娘に無関心だったので、わたしが夜な夜なアンデッドを召喚して寂しさを紛らわせていることに気がつかなかった。
もしかしたら気づいたうえで、どうでも良いと思って放置していただけかもしれないけどね。
いずれにしても夜、アンデッドたちが話し相手になってくれていなければ、わたしはきっと気が狂っていたと思うから、親がわたしに無関心だったのはそういった意味では逆によかったのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなわたしの日常は10年以上続いた。
でも先日のある出来事によってわたしは、あまり幸せとは言えなかったその日常さえも突然奪われることになってしまった。
両親が亡くなったのである。
しかもその死に方がなんというか…。
具体的に何があったのかは知らないし、知りたくもないけど…。とにかく酷いものだった。
…おそらくだけど、二人の死因は母による無理心中だと思う。滅多刺しにされた父の遺体はネクロマンサーのわたしでさえ気分が悪くなるような状態だった。
…きっと深い愛情と強い憎しみは紙一重なんだろうね。
両親の遺体の第一発見者となったわたしは、別に悲しいとは思わなかったけど…。最後まで娘のことは全く眼中にない人たちだったなと思って、さすがにムカついた。
一瞬そのままゾンビ化して一生こき使ってやろうかとも思ったけど…。きっと虚しくなるだけだからやめた。
で、父方の祖父母はすでに他界していて、母は父と駆け落ち同然で結ばれたことが原因で実家と完全に絶縁していたので、わたしは母方の親戚がどこの誰なのかも分かっていなかった。
いよいよ天涯孤独になったわたしは、このまま自分も死ぬか、どこかの娼館で働くしかないのかなと思っていたんだけど…。
そんなわたしに救いの手を差し伸べてくださる方がいた。
そんな作者は愛する読者様にブクマと☆評価をもらえなくなったことが原因で、徐々に精神を病んでいってしまった。