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3話 三度目の出会い

「お嬢様、イザベルさんを連れてまいりました」


(…来た!)


 ノックの後に聞こえてきたマーガレットさんの声が、私に生き残りをかけた長い戦いが始まったことを知らせてくれた。


 一度深呼吸をした私は、座っていたソファーからゆっくり立ち上がった。


 そして自分にできるもっとも穏やかな笑みを浮かべ、自分に出せるもっとも優しい声で返事をした。


「どうぞ、お入りください」

「…失礼致します」


 静かにドアが開き、とても緊張した面持ちのイザベルさんがマーガレットさんと一緒に部屋に入ってきた。


 真っ黒の髪に、真っ白の肌。服装も白と黒を基調にしたシンプルなもので、ルビー色の瞳が差し色になっているのがすごく印象的だった。


 失礼ながら全身から幸の薄そうなオーラは出ているものの、相変わらずモノトーンと憂いに満ちた表情が良く似合う美少女だった。


 まあ、美少女と言ってももちろん私ほどではないけどね。


 …

 ……

 ……ほら、そういうところだよ。そんなこと言うから嫌われるんだよ。何考えてんの?


 あなたの命は今、部屋に入ってきたモノトーンの美少女にかかってるんだよ?


 口に出してないとはいえ、そんな生意気なことを考えて良いと思ってるの?バカなの?死ぬほど反省して!


 とまあ、私がそんなしょうもないことを考えている間に私の目の前までやってきたイザベルさんは、深く頭を下げてとても丁寧な話し方で自己紹介をしてくれた。


「お初にお目にかかります、お嬢様。本日からこちらでお世話になります、イザベル・ホランズワースと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 うん、やはりとても緊張している様子だね。少し声が震えてるしね。


 そりゃそうだよね。彼女からするとこれから自分の主人となる、しかも性格に難があることで有名なお嬢様とのご対面だもんね。


 万が一でも失礼なことをして私の機嫌を損ねたらまずいって思っちゃうよね。


 …でもね、イザベルさん。たぶん私の方があなたより緊張してるから。

 

 だって、あなたは今、万が一私の機嫌を損ねたら「大変なことになる」と思って怯えているかもしれないけど、私は万が一あなたの機嫌を損ねたら「そう遠くない将来、確実に死ぬ」ことが分かってる訳だからね。


 恐怖と緊張のレベルはこっちの方が遥かに高いと思うよ。


 …って今はそんなことを言ってる場合ではなかった。ちゃんとご挨拶しないと。最初の挨拶を間違えると後から挽回するのがきっと大変だぞ。


 私は「敵じゃないよ」「だから殺さないでね」という気持ちをたっぷり込めた満面の笑みを浮かべ、できるだけ優しい声で彼女に自己紹介をさせてもらった。


「はじめまして!エリカです。イザベルさんとお会いするのをとても楽しみにしておりました。リュミエール家へようこそ!」


 …よし、決まった!


 事前に何度も練習したセリフは精一杯のフレンドリーさが表現できてたし、声のトーンも完璧にイメージ通り!


 あなたのことを心から歓迎してるよ、という気持ちがよく滲み出ている素晴らしい挨拶だった。


 新しくやってくるメイドにナメられるわけにはいかないと訳のわからないことを言って高圧的で攻撃的な態度をとっていた一周目や、彼女の顔を見た途端、恐怖に震えてまともに目も合わせられなかった二周目とは全然違う!


 実際に今、イザベルさんが少しだけ安心したような表情を見せてくれたし!きっと良い印象を与えられたんだよ!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 イザベルさんへの最初の挨拶は、我ながら会心の出来だったと思う。


 でももちろん、私はまだまだ満足していない。更なる高みを目指すんだ。


 私の本日の目標はイザベルさんに「この子と仲良くなれそうな気がする。ここでなら楽しくやっていけるかも!」って思ってもらうことだから。


「イザベルさんはおいくつですか」


 少し会話が途切れそうになったところで、ニコニコ笑いながら人懐っこい感じの声でイザベルさんにそんな質問をしてみる。実際にはもちろん年齢知ってるけどさ。


「はい、今年15歳になります」

「そうなんですね!私、先日13歳になったばかりなんですよ。イザベルさんの方がお姉さんですね!」

「そう、ですね…」

「私、たくさん甘えさせてくれる優しいお姉さんがずっとほしかったんですよね。うちのお姉ちゃん、結構厳しい人だから。あ、今のはお姉ちゃんには秘密ですよ」

「かしこまりました」


 ハイテンションでどんどん話を広げる私に少し困惑気味のイザベルさん。


 そして普段のキャラとのあまりのギャップに驚いたのか、その場にいたマーガレットさんは少し口が開いた間抜けな顔になっていた。


 驚かせてごめんなさい、マーガレットさん。でもこのキャラも事前に考えておいた、イザベルさん対策の一つなんだ。


 彼女、割と無口で控えめな性格だからね。こっちからグイグイいかないとたぶん会話が続かないし、仲良くもなれない。


「私のこと、実の妹だと思ってたくさん可愛がってくださいね♪」

「そ、そんな恐れ多いこと…」

「恐れ多くないよ!私がそうしてってお願いしてるわけだから。まあ、でも最初はちょっと難しいでしょうから、少しずつ仲良くなっていきましょうね」

「…かしこまりました。ありがとうございます」


 よし、イザベルさん、最初この部屋に入った時よりはリラックスした表情になったね。でもまだ終わらないよ。


「マーガレットさん」

「はい」

「イザベルさんの新人研修って今日からですか」

「いいえ、明日からの予定でございます」

「そうなんだ。よかった。じゃあ、今日は私がイザベルさんにこのお屋敷を隅々までご案内しますね」

「「…はい?」」


 マーガレットさんとイザベルさんの声が綺麗に揃ってしまった。


 言いたいことはわかる。どこのお嬢様が新人メイドに屋敷の案内をするんだよってことでしょ?


 ……ここのお嬢様がするんだよ!


「私、少しでも早くイザベルさんと仲良くなりたいんですよ。これからずっとお世話になるわけですからね。だからイザベルさんがお嫌でなければぜひ!」

「…かしこまりました。ではよろしく…お願い致します」


 うん、さすがに困ってる感じではあるけど、でも少なくとも嫌がってはないように見える。いや、私の自惚れじゃなければ、少し嬉しそうに見えなくもない。


 そりゃそうだよね。ものすごく性格悪いことで有名な自分の将来の主人が、なぜか信じられないくらい友好的な姿勢だもんね。


 「あれ?なんか想像してたのと違う。もしかしたらわたし、この子と仲良くやっていけるのかな…?」と思うよね。希望が持てるよね。


 よし、ここまですべて計画通り。あとはゆっくり屋敷を案内しながら一気に仲良くなっちゃおう。


 生き残るためには一日も無駄にはできないからね。今日一日を無駄にしたことによって「もう遅い」と言われてしまう将来がまたやってくるかもしれない。


 だから今日から私は常に全力疾走!


 頑張るぞ…!!

言いたいことはわかる。どこの作者が「同情でもいいからブクマと☆評価ください」と土下座をして懇願するんだよってことでしょ?


……ここの作者がするんだよ!

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