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23話 石ころと真珠

クラリス視点です

 私には妹が一人いる。私より二つ年下で、名前はエリカ。


 幼少期から妖精のような可愛らしさでみんなを虜にしてきた妹は、そのまま美しく成長していつの間にか「リュミエールの真珠」と呼ばれる全国区の有名人になっていた。


 そして15歳になった妹の美貌は、同性で血の繋がった家族である私でさえたまにその美しさに見惚れてしまうようなものになっていた。「絶世の美女」とか「傾国の美女」とか…そう呼ばれるようなレベル。


 輝くようなプラチナブロンドに、紫の神秘的な瞳。完璧に整った形の目、鼻、口がそれぞれのパーツがあるべき理想的な場所に配置されている。


 比較的長身でスレンダーな体型で、身のまとった雰囲気は幻想的で神秘的。そしてまだ15歳でありながら、彼女がやろうと思えば王子だろうが皇帝だろうが魅了できそうな魔性のフェロモンまで。


 でもそんな妹は、実は数年前までものすごく性格に難がある子だった。わがままで傲慢、そして短気。


 長女で、地味な存在である私にも甘い両親が、あれほど美しい妹を溺愛したのはある意味当たり前で、その結果、妹が段々ああいう性格になっていったのも当然の結果と言えるかもしれない。


 そんな妹を、少し前まで私は「顔だけは良いけどそれ以外はすべてがダメダメな、残念な身内」としか考えていなかった。


 いくら顔が良くてもあの性格だといつか身を滅ぼすだろうなと思っていたし、姉として度々そんな妹を窘めていた。正直、私なんかの言葉で彼女が変わってくれるとはあまり考えてなかったけど。


 でもそんな妹は、ある日を境に魂が入れ替わったように激変してしまった。もう別人になったといっても過言ではなかった。


 傍若無人に振る舞ったり、使用人にきつく当たったりすることが一切なくなった。逆に「もう少し自己主張すべきでは?」と言いたくなるほど大人しい性格になり、誰に対しても礼儀正しく接するようになった。


 わがままを言ったり、両親に物をねだったりすることも全くしなくなった。ちなみに両親はそのことを大変寂しく思っていたりする。

 

 必要以上に他人と関わろうともしなくなり、自室で専属メイドのイザベルさんと二人で静かに過ごすことを好むようになった。


 しかも、これらの変化は成長に伴い徐々に精神的に成熟したことによるものではない。妹は本当にある日突然、前とは全く異なる性格になってしまったのである。


 そしてそのきっかけは、おそらくは先ほど言及した彼女の専属メイド、イザベル・ホランズワースの登場だった。


 数年前にイザベルさんが屋敷にやってきて、妹の専属メイドになった時から妹は別人になってしまったからね。


 イザベルさんが何をどうやったのかは知らないけど…。いずれにしても相当な問題児だった妹の行動が嘘のように改善されたのは、イザベルさんが屋敷にやってきてくれたことがその理由とみて間違いないだろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 妹の性格や行動が改善されたのはもちろん私にとっても歓迎すべきことだった。身内に問題児がいるのは決して嬉しいことではないからね。


 だから最初、私は妹の変化に驚きながらも純粋に喜んでいたけど…。実は妹の変化は、私の心に予想外の悪影響を及ぼしていた。


 生まれ変わったエリカは、私なんかとは比べ物にならないほど眩しい存在になっていた。


 元々私の外見は、妹の美しさには遠く及ばないレベル。


 妹の白銀色と違い、私の髪は黄ばんだシルバーと言えば良いのかな?金なのか銀なのかよく分からないような中途半端な色。


 バイオレットサファイアのような鮮明で美しい紫色の妹の瞳とは対照的に、私の瞳はくすんだ感じの茶色っぽい紫だった。


 顔の各パーツの形の良さなどは比較するだけ悲しくなるから省略するとして、体型もすでに身長では妹に抜かれているのに、横幅だけ私の方が上回っていたりする。


 …別に私も太っている訳ではないはずなんだけど、エリカの体型がちょっとおかしいんだよね。良い意味で。


 元々美形揃いの家族の中で、一人だけ平凡な外見だった私はそのことに対して相当なコンプレックスを抱いていた。


 そして家族の中でも特別美しいエリカの性格が改善され、文句をつけようがない理想的なご令嬢になったことで、私が妹より優れているところは一つもなくなっていた。


 生まれ変わったエリカは宝石のような存在、まさに「リュミエールの真珠」だった。それに比べ私は、ただの石ころ。


 毎日のようにそんなことを考えるようになり、段々劣等感や自己嫌悪が私の心を蝕んでいくのを自分でも感じていたんだけど…。


 そうでなくても劣等感に押しつぶされそうになった私の心にトドメを刺すような出来事が、最近あった。


 壊れかけの私の心を完全にへし折ったのは、ケネス・ブライトン伯爵令息だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 私は約1年前にリュミエール辺境伯領にやってきたケネスさんに好意を抱いていた。一目惚れに近かったかもしれない。


 ケネスさんは最初から私のような石ころには分不相応で、どこからどう見ても私より妹とお似合いの相手なのは分かっていたけど…。


 それでもケネスさんに惹かれてしまう自分の心を制御することはできなかった。


 私がケネスさんに惹かれた理由は簡単に言うと「顔」だった。単純に私自身が面食いだということもたぶんあるとは思うけど…。


 実はケネスさんは「エリカの男版」と言っても良いくらい、その美しさだけではなく雰囲気やオーラまでなんとなく妹に似てたんだよね。


 だから、もし私がそんなケネスさんと結ばれれば、ケネスさんがエリカではなく私を選んでくれれば、私は妹に対する激しい劣等感を少しは忘れられそうな気がした。


 …今考えると「どんな超理論だよ」と思うし、とてつもなく自分勝手な理由だけどね。


 でも世の中そんなに甘くはなくて、数か月後、ケネスさんは予想通り私ではなくエリカの方に惹かれて彼女に言い寄るようになった。


 そしてそれを見た私の劣等感と絶望はその段階でもう取り返しがつかない領域に入ってしまった。


 でもエリカはケネスさんにはまるで興味がない様子で、彼のことをほとんど相手にしなかった。そしてしばらくしてケネスさんも諦めた様子でそれ以上積極的にエリカと絡むことをやめていた。


 だから私は、勇気を振り絞ってケネスさんにアプローチをしてみることにした。今思えば、私なんかが勇気を出したところでどうにもならないのは明らかだったけど、当時はそこまでちゃんと考えられなかった。


 ケネスさんの反応は案の定、素っ気ないものだった。私は思い切って彼に告白までしてみたけど、あっさり断られた。「他に好きな人がいるから」という理由で。


「…ケネスさんの好きな人って、エリカのことなんですか」


 なんでそんなことを聞いたのか、自分でも分からない。たぶんその答えがYesだということは最初から分かっていたし、どんな答えが返ってきたところで傷口が広がるだけなのに。でもなぜか確認せずにはいられなかった。


 でも私の意味不明な質問に対するケネスさんの返事は…


「どうしてそれをクラリスさんに言わないといけないんでしょうか」


 という冷たいものだった。…その言葉がもう答えになってるよね。


 そして結局私の恋が実ることはなく、ケネスさんは先月王都に帰っていった。


 ケネスさんが王都に帰ってからしばらくは、放心状態に近い感じで毎日ボーッとしていた私だったけど、最近はある人のおかげで失恋の痛みを少しずつ忘れ始めている。


「遅くなってごめん!」


 人懐っこい笑顔を浮かべて、その人が私のところに駆け寄ってきた。


 …走ってこなくてもいいのに。


「ううん、ほとんど待ってないから大丈夫だよ」


 実際には少しだけ待ってたけど…そんなことは気にしない。彼は毎日領内のパトロールや魔物の討伐で忙しい中、わざわざ私なんかのために時間を作って会いに来てくれてるわけだから。


 彼がどうして私に優しくしてくれているのかは分からないし、正直知りたくもないけど…。


 どうか彼は、彼だけはエリカではなく、私のことをずっと見ていてほしいなと心から思う。


 私、そのためなら何でもするから。

いずれにしても相当な問題児だった作者の行動が嘘のように改善されたのは、たくさんの読者様がブクマと☆評価をつけてくれたことがその理由とみて間違いないだろう。

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