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21話 無理はしてほしくないけど…

 私はベルさんを強引に自分のベッドに寝かせ、その隣に腰をかけた。そして自分の右手を彼女の左手に重ね、真剣な表情で彼女の目を見つめながら話を始めた。


「ねぇ、正直に言って?」

「…はい」


 状況が飲み込めてない感じの不安そうな、でもどこか期待も含まれているような表情で私を見つめ返すベルさん。


「最近、無理してるでしょ」

「…えっ?」

「ここ数日、なんか疲れてるというか、体調悪そうに見えるんですよね、ベルさん」

「……あ」


 ベルさんの顔は不安と期待が混ざった表情から、「しまった」という感じの表情に変わっていた。


 図星か。私の目は誤魔化せないぞ。いつもあなたのことを見てるからね。


「ダメですよ?体調が悪いならちゃんと休まなきゃ。どうして無理しちゃうの?」

「違うんです。別に体調が悪いわけではなくて……」

「…?」


 一瞬、続きを話すことを躊躇している様子のベルさんだったけど、私が「話すまで逃がさない」という意思をたっぷり込めた目で彼女をじっと見つめたことでやっと観念してくれたらしい。ポツリポツリと最近の出来事について話してくれた。


 ベルさんによると、ここ数日グランフェルト山脈の魔物が今までにない感じで勢いを増していることで、遠隔でメリッサさんのことをサポートしている時間が長くなっていつもより体力も魔力も消耗しているらしい。


 そしてメリッサさんはベストコンディションを維持するためには定期的にベルさんに直接会って魔力を補充する必要があるけど、最近はずっと戦っているメリッサさんの消耗もとても激しいからその魔力の補充作業も毎日のように行っていたと。


 で、異変が起きていることを私に気づかれて心配をかけたくないけど、かといってメリッサさんと会うのは必ず私の部屋にして欲しいという私の言いつけも破りたくなかったから…。


 仕方なく深夜にこっそり私の部屋にやってきてメリッサさんを呼び出していたらしい。


 …私、毎日能天気に熟睡していたから全然気がつかなかった。


 というか私の部屋、無駄に広いから寝てる間にベッドがあるところの反対側で話をされたら気づきにくいんだよね…。


「…実は毎日遠隔でメリッサさんをサポートしてて消耗してるというのは建前で、本当は睡眠不足がベルさんの疲れの主な原因だったりします?」

「……」

「どうなの?」

「…はい、その通りです。ごめんなさい」

「なるほど。つまりベルさんのここ最近の不調は私のせいだと」

「…!?どうしてそうなるんですか?違いますよ!」


 私はわざと悲しそうな表情を作って、不満げな口調で話を続けた。


「だってそうじゃないですか。ベルさんの不調の原因は睡眠不足。そしてベルさんが睡眠不足になったのは私に気を使って変な時間帯にメリッサさんと会ってたから。きっとベルさんにとって私はよっぽど頼りがいがなくて、信用もできない相手だったんでしょうね」

「…!」

「私、あれだけ困ったことがあったら何でも相談してほしいって言ってたのにな…。まあ、しょうがないか。私なんかに相談しても何の解決にもならないもんね」

「ごめんなさい、エリカさん。本当にごめんなさい!もうしません、許してください!」


 あっ、やばっ。やりすぎた。いつの間にかベッドから身を起こしたベルさんが泣きそうな顔をして私の腕にしがみついてる…。


 私は半ば強引に押し倒すような形でベルさんを再びベッドに寝かせ、彼女を見下ろしながら話を続けた。


「もう変な気を使ったりしません?」

「はい!」

「困ったことがあったらすぐに相談してくれますか」

「はい!」

「分かりました。じゃあ、とりあえずそのまま少し寝て。夕飯前には起こしてあげるから。そしたら許してあげます」

「……はい」


 普段のベルさんの性格からすると、メイドの自分が私のベッドで昼寝をするなんて考えられないとか言って遠慮しまくってたと思うけど…。


 先ほどの脅しが効いているのか彼女は大人しく言うことを聞いてくれた。そしてよほど睡眠が足りてなかったのか、あっという間に眠りについてしまった。


 そんなベルさんの寝顔は、めちゃくちゃ綺麗だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ベルさんに少し仮眠をとらせてから、私は彼女と今後のことについて話し合った。


 私はいつまでもベルさんが一人で頑張ってどうにかなる話ではないから、父に魔物の勢いが増していることを報告して何らかの対策を打つように働きかけてみると提案したんだけど…。


 その提案はベルさんに却下されてしまった。


 却下の理由は、魔物が勢いを増していることをなぜ私やベルさんが知っているのかを説明するのが難しい、それを説明するためにはどうしてもベルさんがネクロマンサーとしての素質を持つことも伝えないといけなくなるというものだった。


 そしてベルさんがネクロマンサーであることがバレること自体は別にかまわないが、それによって私に迷惑がかかったり、私のそばにいられなくなったりするのは耐えられないと。


 さらに、ベルさんの体調が微妙だったのはほぼ100%睡眠不足が原因で、増えた魔物を殲滅するためにメリッサさんの遠隔サポートを行うこと自体は彼女にとっては大して負担にならないらしい。


 だからどうか自分に引き続き恩返しのチャンスを与えてほしいとベルさんに懇願されてしまった私は、渋々ベルさんの意見を受け入れるしかなかった。


 確かにベルさんの言う通りなんだよね。ベルさんがネクロマンサーの力を持つことから伝えないと、グランフェルト山脈に魔物が増えていることをどうして私たちが知っているかが説明できない。


 うーん、ベルさん一人に無理をさせたくはないんだけどな…。


 仕方ない。ベルさんがちゃんと休めるように、今までよりもずっと私の近くにいてもらって、普段はメイドとしての仕事を一切させずにお姫様のように扱おう。


 少しでもベルさんの負担を軽減するために私にできることはそれくらいだから。何でも自分に相談してって言ってる割には私、全く役に立たないね。情けない…。

 

 あ、そういえば先日ケネスくんが王都に帰っていった。過去の2回よりはかなり早い帰還になっちゃったね。


 いろいろお世話になりました。王都でも頑張ってね!


 …ちょっとさっぱりしすぎてる?私、薄情者かな?

「もう変な気を使ったりしません?」

「はい!」

「困ったことがあったらすぐに相談してくれますか」

「はい!」

「分かりました。じゃあ、とりあえずブクマと☆評価をつけてから少し寝て。そしたら許してあげます」

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