20話 非常識な計画
ロイ視点です
俺がリュミエール辺境伯領で仕事をするようになってあと少しで二年になろうとしていた。
表向きの仕事である領内のパトロールと魔物討伐は順調で、リュミエール辺境伯領内においてロイ・メイウッドという名前は結構有名になりつつあるんだけど…。
裏の業務というか、俺がリュミエール領にやってきた本来の目的のための動きの進捗は正直芳しくなかった。
俺がリュミエール領に来た理由。それは俺の主であり、恩人でもあるフォルセル侯爵の意向によるものだった。
王国の騎士なんだからお前の主は女王陛下じゃないのかって?…いやまあ、表向きはもちろんそうなんだけど、いろいろあったのよ。
別に珍しい話でもなんでもないんだけど、俺は後妻の息子でさ、10歳で父が亡くなった後に勃発した兄たちの後継者争いに巻き込まれて母子ともに殺されそうになって…。
その時に救いの手を差し伸べてくださったのが、母が若い頃メイドとして仕えていたフォルセル侯爵だったというわけですよ。
というか他所のうち、それも自分より格上の貴族のところのメイドさんに手を出しちゃったうちの父って本当に破天荒だよね。
剣の腕はすごかったらしいけど、物事は基本的に下半身でしか考えられないタイプだったらしいんだよね。
…俺や俺の父の話なんてどうでもいいね。そんなもん誰も興味ないだろうし。
ということで、俺は命の恩人のフォルセル侯爵に忠誠を誓っているわけなんだけど…。その侯爵がここ数年、ちょっとおかしくなってるんだよね。
元々は余裕と威厳に満ち溢れたカッコいいおじさんだったんだけどさ、ここ最近は政敵との権力争いで劣勢に立たされているらしく、段々手段を選ばない感じになってきている。
今回の件もそう。侯爵はどうやらリュミエール家を弱体化させて自分に隷属させるか、完全に崩壊させて自分の息のかかった者を新たな辺境伯にしようと企てているらしい。
そこまでなら普通の貴族同士の権力争いの範囲内だと思うけど…。問題はね、そのための方法があまりにも非常識なんだよね。
「これを怪しい相手に向けるだけで良いわけね?特に触らせる必要とかもなく」
「…ええ」
「相変わらず無口なやつだな、あんた。もう少しちゃんとコミュニケーションとろうぜ」
「連慮しておく」
「まーた振られちゃったか。いつになったら振り向いてもらえるんだ!?」
「……失礼する」
俺の無駄口をガン無視して、女は静かに立ち去って行った。
…そう。やっぱりおかしいんだよ。主にあの女の存在がおかしい。もしかしたら侯爵、あの女に操られてるんじゃないか?
彼女は「カサンドラ」という名前以外は一切素性を明かさない、怪しさ満載の謎の魔導士で、しかも得意分野は魔物の召喚と使役。いつも深くフードをかぶってるから、俺はまともに彼女の顔を見たこともない。
…いかにも「邪悪な魔女」って感じなんだよね。
そして俺が今回の侯爵の計画を「あまりにも非常識な計画」と表現したのは、それが主に彼女の力を利用したものだったから。
つまり、侯爵は彼女の力を使ってグランフェルト山脈に人為的に魔物を集結させ、頻繁にリュミエール領を襲わせることで徐々に弱体化させようとしていた。
同時に俺がその魔物の退治で活躍することでリュミエール辺境伯の信頼を得てリュミエール家と侯爵をつなぐ役割を担うか、それとも中からリュミエール家を崩壊させてしまうか、というプランね。
つまり、侯爵は自分の目的のために魔物を使って人間を襲わせようとしているわけで…。正気とは思えない話だよね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
侯爵の計画は今のところ全然うまく行っていなかった。理由は、リュミエール領を襲う魔物が計画通り現れなかったことである。
でもカサンドラがちゃんと仕事をしていないというわけではなさそう。そうでなく、どうやらカサンドラが召喚した魔物がリュミエール領に降りてくる前に何らかの理由で消滅していることが原因のようだった。
そして調査の結果、おそらくカサンドラを遥かに凌駕する強大な魔力を持つネクロマンサーがリュミエール領を守っていて、そのネクロマンサーが召喚したアンデッドたちがカサンドラの魔物を駆逐している可能性が高いという結論が出たみたい。
それで先日、俺はカサンドラから「魔力測定器」というよく分からない道具を受け取って、領内の人たちの魔力を測って回ることになったんだけど…。
特に深い意味もなく「まずはリュミエール家の屋敷にいる人たちからにするか」と判断したのがたまたま良い結果につながって、俺はすぐに「規格外の力を持つネクロマンサー」がメイドのイザベル・ホランズワースである可能性が高いことを突き止めた。
あまりにも桁違いの数字が出たから、見た瞬間すぐに「たぶん彼女で正解だな」という結論を出すことができた。目安として教えてもらった平均的な魔導士の魔力の1000倍以上の数字だったからね。
そこで俺は、イザベルちゃんを味方に引き入れるか、それとも排除する方向で動くかを判断するために彼女の周りをうろついて彼女のことを観察してみたんだけど…。
観察の結果、出した結論は「イザベルはあらゆる意味で主人のエリカを崇拝している。エリカを裏切ることはまず考えられないからイザベルと、場合によってはその主人であるエリカをセットで排除する方向で策を練る必要がある」というものだった。
ということで、俺はまずはこれから敵にまわることになるイザベルの力がどこまで規格外のものなのかを確認する必要があると判断し、そのために早速カサンドラに連絡を入れることにした。
敵がカサンドラがどう頑張っても相手にもならないレベルの化け物なのか、それともカサンドラが本気を出せば動きを封じ込むことくらいはできる相手なのかを見極めないといけないからね。
…侯爵のことを非常識と言う資格は俺にはないかもね。結局俺も流されるまま侯爵の命令に従い、カサンドラの力まで積極的に利用しようとしているわけだから。
つまり、作者はブクマと☆評価をもらうために魔物を使って人間を襲わせようとしているわけで…。正気とは思えない話だよね。




