19話 できることはすべてやりたい
イザベル視点です
最近、わたしは毎日自分に驚いている。
でも数か月前のようなネガティブな意味での「驚き」ではないよ。逆に自分がこんなにもストレートに自分の気持ちを表現できるようになったことに良い意味で驚いている。
自分自身に誓った通り、わたしはエリカさんのことが好きで好きで仕方がないこと、そしてその「好き」は恋愛対象としての「好き」であることを隠すことなく、堂々とエリカさんにアピールするようになっていた。
正直、最初は不安だったし、怖かった。同性のわたしが恋愛対象としての好意をアピールすることによって、エリカさんにドン引きされたり、気持ち悪いと思われたりしたらどうしようと心配していた。
そんなわたしが心の壁を乗り越えてエリカさんに自分の気持ちを積極的に伝えられるようになった理由は、二つあった。
一つはエリカさんがわたしのネクロマンサーの力を受け入れてくれたこと。
自分のメイドがネクロマンサーであることを受け入れられるエリカさんなら、自分のメイドが自分のことを恋愛対象として見ていることも受け入れてくれる気がした。
もちろん、エリカさんもわたしのことを好きになってくれるかどうかはまた別の話だけどね。
もう一つは、ブライトン伯爵令息の行動により、自分がいかに嫉妬深くて独占欲の強い女かを理解したこと。
わたし、エリカさんのことを恋愛対象として認識して彼女に近づく人間には冗談抜きの殺意を感じて、具体的な殺害方法まで思いついてしまう危険人物だった訳だからね。
自分が「生涯、メイドとしてエリカさんのそばにいられるだけで満足です。エリカさんが愛する方と結婚なさるなら祝福します」という健気なことが言える人間ではないことを痛感したわけですよ。
だったら、立場上わたしから交際の申し込みまではできないにしても、自分の気持ちは分かりやすい形でエリカさんに伝える必要があると思った。
そうでないと、エリカさんの立場から見たわたしはただエリカさんの恋路を邪魔して、エリカさんに近づく相手に嫌悪感や殺意をぶつけるだけの厄介者になっちゃうからね。
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わたしに恋愛対象としての好意をアピールされるようになったエリカさんが、そのことに対して嫌悪感や拒否反応を示すことはなかった。
…よかった。本当によかった。ありがとうございます、エリカさん。やっぱりエリカさんは女神様です。天使です。大好きです。愛しています!
今のところエリカさんがわたしのアプローチを大歓迎してくれているという訳でもなく、どちらかというとわたしの予想外の行動に少し驚いて、戸惑っている様子なんだけど…。
別にそれでもいいんだ。
同性のメイドから突然、恋愛対象としての好意をアピールされている訳だから、驚いたり戸惑ったりするのは当然のこと。
エリカさんが嫌悪感や拒否反応を示していないだけで、チャンスは十分あると思うんだよね。
あとはとにかく粘り強く自分の気持ちを伝え続けると同時に、エリカさんにわたしのことを好きになってもらえるように最大限努力するだけ。
…わたし、いつからこんなにポジティブな人間になったんだろう。ちょっと前までは卑屈さとネガティブ思考に自信がある女だったんだけどな。
わたしがこんな風に変われたのも、すべてエリカさんのおかげだね。
やっぱりわたし、もうエリカさんがいないと本気で生きていけないんだろうな。
たまに、もしエリカさんに最後まで気持ちを受け入れてもらえなかった場合、自分はどうするんだろうって考えちゃうことがあるけど…。
たぶん、そうなったら「わたしにはどうしてもエリカさんが必要」と言って無理やりエリカさんを自分のものにするか、「エリカさんに受け入れてもらえなかった自分にはこれ以上生きる理由も価値もない」と言って自ら命を絶つんだろうなと思う。
うん、間違いなくそのどっちかだね。エリカさんに迷惑をかけたくはないから、たぶん後者を選ぶ可能性が高いとは思うけど…。
…どちらを選ぶとしてものすごく不幸な結末になっちゃうわけだから、やっぱり頑張ってエリカさんにわたしのことを好きになってもらうしかないね。
だから、そのためにできることは何でもしなきゃ。わたしの命はエリカさんに振り向いてもらえるかどうかにかかってると言っても過言ではないんだから。
これからも毎日死ぬ気でアプローチしよう…!
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ということで最近は毎日のようにエリカさんに好意をアピールして彼女を困らせているわたし(ちょっと戸惑ってるエリカさんの顔がまた最高に可愛い♡)だけど、そんなわたしの周りに少し不審な動きを見せる人物が現れた。
その人物の名前はロイ・メイウッド。エリカさんが前から警戒しているイケメン騎士である。
元々人懐っこい人物ではあったけど、今までわたしとはほとんど接点がなかったんだよね。わたしが意識的に彼を避けていたから。
でもここ最近の彼は、なぜかやたらとわたしの周りに現れる頻度が高くなって、その度にいつものフレンドリーな笑顔でわたしに話かけてきていた。
もちろん、エリカさんが彼のことを警戒しているので、わたしはあえて冷たい態度をとって彼のことを遠ざけているんだけど…。
彼、なかなかめげないんだよね。しかもわたしを恋愛対象として認識している様子は全くなく、わたしが冷たくあしらうとすぐに引き下がるから、ただ面倒なだけで彼の行動を問題視することも難しい。
いつも人懐っこい人がわたしにも人懐っこく接してるだけだからね。
でもわたしはエリカさんが少しでも嫌がることは絶対にしたくない訳で、最近はもう面倒くさいからこっそり殺しちゃおうかと考えていたりする。
…
……
……こんなこと言っちゃいけないね。「面倒くさいから殺しちゃおうか」ってどこのバーサーカーだよ。
ブライトン伯爵令息の一件以来、ちょっと考え方が過激になりすぎてるよ、イザベル。
エリカさん以外の人間のことはどうでも良いと考えちゃうのは仕方のないことだけど、だからといって簡単に他人の命を奪おうとするのはいけません。反省してください。
…はい、反省します。
だから、そのためにできることは何でもしなきゃ。わたしの命はブクマと☆評価をもらえるかどうかにかかってると言っても過言ではないんだから。
これからも毎日死ぬ気でおねだりしよう…!