14話 夢の終わり
イザベル視点です
『襲っちゃうのが一番手っ取り早いと思うよ』
「……」
『何?その目は…』
「…いや、わたし、相談する相手を間違えたのかな、と」
『そんなことないわよ。相手が男だろうが女だろうが、体に溺れさせちゃえばこっちのものなんだから』
…うん、やっぱり相談する相手を間違えたんだろうね。
10歳の頃から話を聞いて欲しい時や相談したいことがある時はいつもメリッサにお願いしていたから、今回も自然と彼女に相談したんだけど…。
そういえば彼女、生前は恋愛に関してものすごく破天荒な人だったっけ。
『本当だってば。あたし、処刑された時は彼氏が三人、彼女が四人いたのよ?』
「それが処刑の理由だったんだよね?」
『違う!妹に裏切られたって何度も言ってるでしょ?』
「…そうだったね。その妹さん、先日わたしが召喚したアンデッドの中にいたんだっけ?」
『ええ。お互いこういう存在になったわけだからもう恨みとかは全然ないんだけど…おかげさまで最近は毎日のようにハードプレイができてて楽しいわ。あたしってやっぱりドSなんだなって実感してる♡』
うん、なんというか…。楽しそうで何より。
…破天荒なのは「生前」に限った話じゃなかったんだね。
その日、メリッサから魔物の動向に関するいつもの報告を受けた後、わたしはメリッサに最近ずっと悩んでいることについて相談していた。
相談の内容はエリカさんに対するわたしの気持ち。
いつの間にかわたしは、エリカさんのことが恋愛対象としても好きになっていた。そしてそのことに自分でも気づいていた。
無理もない。今まで誰にも愛されたことがなかったわたしにあんなにも優しくしてくれて、いつもわたしのために尽くしてくれる人だから。
そりゃ好きになるよ。好きにならない方がおかしい。
でも最初はわたしのエリカさんに対する好意は、あくまでもご主人様に対する忠誠心や敬愛、そして彼女がいつも言ってくれているように「親友」または「家族」のような存在に対する親愛だったんだけど…。
気がついたらわたしの彼女に対する好意には片思いの相手に対する恋愛感情が明確に含まれていた。
きっとエリカさんは、わたしにとってあまりにも大きな存在になっちゃったんだと思う。
わたしの中に存在するあらゆる「好意」や「愛情」が、最後の一滴まですべて彼女に向いてしまっているから、その中に恋愛感情も含まれちゃうのはある意味自然なことだと思うんだよね。
…でもエリカさんは女の子。
今まで一度も男性に対して恋愛感情を抱いたことがなく、また魅力を感じたこともなかったわたしは、エリカさんのことが好きになったことで自分の恋愛対象が女性だったんだってことをやっと理解したんだけど…。
エリカさんもわたしと同じかどうかは分からない。
エリカさんはいつだって最高に優しいし、まるでわたしを口説き落とそうとしているかのような言葉も頻繁にかけてくるんだけど、だからといってエリカさんがわたしを恋愛対象として見ているとは限らない。
いや、どちらかというとその可能性は低いと思う。
だとすればわたしはエリカさんが求める通りの存在…それがたとえば姉や親友のような存在ならその役割に徹するしかないと自分に言い聞かせているんだけど…。
最近は段々そうやって自分の気持ちを抑えることが難しくなってきていた。
…ということをわたしはネクロマンサーらしく、デュラハンのメリッサに相談したわけなんだけど…。
とても真剣な顔でわたしの話を聞いてくれたメリッサのアドバイスが、先ほどの「襲っちゃえばいいと思うよ」というものだった訳です。
やっぱり相談する相手、間違えたよね、わたし。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ベルはね、考えすぎなのよ』
「…いや考えるでしょ。相手はご主人様だよ?しかも恩人なんだよ?」
『だったら体で恩返しすれば良いじゃない』
「……」
うん、ダメだ。きっと恋愛に関する話題ではわたしと彼女は永遠にわかり合えない。
『あとね、その子、ものすごく可愛くて、性格もめちゃくちゃ良いんでしょ?』
「うん。本当は女神様か天使なんじゃないかって本気で疑っちゃうくらい」
『だとするとさ、モタモタしてる場合じゃないと思うよ。きっとすでにライバルがたくさんいるんじゃない?ベルは自分の女神様を他の人間にとられてもいいの?』
「…!良くないよ、良くないけど」
『だったらさっさと自分のものにしちゃいなよ。こういうのって先手必勝だから。誰かに取られてから後悔しても遅いからね』
…なんだろう。段々メリッサの言う通りかもしれないと思えてきた。心に響いたのは「エリカさんを他の人間にとられても良いのか」のところ。
そんなの嫌だ。
……絶対に嫌だ。
もうここは騙されたと思ってメリッサの言う通りにしてみる?
…っていやいや、どこのメイドが大恩人のお嬢様を性的な意味で襲うんだよ。落ち着け、イザベル。
そしてわたしが「落ち着け、イザベル」と自分に言い聞かせた、その時だった。
「あの…」
『「…!?」』
「えっと、邪魔してごめんなさい。そちらの方はお友達…かな?」
声をかけられた方向に振り向くと、そこにはエリカさんの姿があった。
なぜ彼女がここにいるのか、そしていつからいたのか…。
一瞬で頭が真っ白になってしまったわたしには分からなかったし、考える余裕もなかったんだけど…。
でも一つだけ、パニック状態のわたしにもわかることがあった。
それは、「わたしの幸せな夢は終わった」ということだった。
無理もない。わたしの作品をブックマークしてくれて、しかも☆5までつけてくれた人だから。
そりゃ好きになるよ。好きにならない方がおかしい。