13話 勇気を出して、会いにいかなきゃ
(はぁ…やっぱり今回もやってるんだね)
深夜、どこかに向かって一人で歩いているベルさんの姿を自室のベランダから確認した私は、ひとつため息をついてお出かけの準備を始めた。
お出かけと言っても目的地は屋敷の敷地内だから、ストール羽織ってランタン持つくらいで十分なんだけどね。
というか毎晩、屋敷の北に向かう道を夜中まで監視していてよかった。
やっぱり「今回は問題のイベントが発生しない可能性にかけて何もしない」という選択肢は致命的な誤りだったということだね。
ベルさんのことを怖がって逃げ回っていたことが裏目に出て、最終的には命を落とすことになった二周目の失敗からちゃんと学んだからね、私。同じ失敗を繰り返すはずがない。こう見えて結構有能だからね。うふふ♪
…はぁ。明るく振る舞おうとしても、やっぱりちょっと気が重いな。ちゃんと心の準備はしたつもりだけど…。正直に言うとやっぱり怖いんだよね。
でも怖がっていても仕方がない。今、動かなければまた破滅の未来が待ってるわけだから。
勇気を出して、会いにいかなきゃ。
…彼女たちに。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私はベルさんが何のために、どこに向かっているのかを知っていた。
彼女はこれから敷地の北端にある池の近くでアンデッドを召喚して、そのアンデッドと何らかの会話をするつもりのはず。
なぜそれを知っているかというと、一周目で自分が見たことだから。
当時ベルさんのことを目の敵にしていた私は、彼女が夜中どこかに向かっている姿を偶然目撃し、彼女の弱みを握れるかもしれないと思って彼女のあとをつけたんだ。
そして北の池で私が目の当たりにしたものは、首なしのアンデッド…確かデュラハンという種類だったと思うけど、とにかくそのアンデッドと何やら話をしているベルさんの姿だった。
私は大騒ぎして気味の悪いネクロマンサーなんて屋敷から追い出すべきだと強く主張したんだけど、ベルさんがその力を使ってうちに害を及ぼしているわけではないということが判明して、結局彼女が屋敷から追い出されることはなかった。
でもベルさんがネクロマンサーの力を持つことがみんなに知れ渡ったことによって、その後の彼女は屋敷内で孤立していった。ネクロマンサーは世間から忌み嫌われる存在だから。
で、お父様やお母様はどうしても気になるならベルさんを私の専属から外すと提案してくれたんだけど、私は「追い出すことができないなら手元においていじめ抜いてやる」という魂胆でそれは断っていた。
…
……
……うん、一周目の私、本当に性格悪かったね。
でもそのベルさんにゆっくり嬲り殺される形でちゃんと罰を受けているから、もう一周目の罪は償ったと信じたい…。
二周目の私は、ベルさんに一切関わろうとしなかった。心底彼女のことを恐れていたし、彼女と絡むことを意図的に避けていた。
そのための方法として「13歳で突然剣術に強い興味を持つようになって、同時に他人とのコミュニケーションを極端に嫌がるようになったちょっと頭のおかしいご令嬢」という、今考えるとツッコミどころしかない強引な設定を押し通していた。
空いた時間はすべて剣術の鍛練に使うし、そうでない時間も一人でいるのが好きだから「専属メイド」は不要とか言ってね。娘に甘い両親はそんな私の意味不明な主張を認めてくれて、ベルさんは二周目のこの時期にはすでに私の専属から外れていた。
だから当然、私がベルさんとデュラハンの姿を目撃することもなかったんだけど…。
運命の強制力のようなものが働いたのか、一周目で私が目撃したのとほぼ同じような時期に一人のメイドが偶然ベルさんとデュラハンの姿を目撃し、やはり騒ぎになったことでベルさんの秘密は屋敷のみんなに知れ渡ってしまった。
そして一周目と同じく、屋敷内でベルさんは孤立していったんだよね…。
ということで、おそらく「ベルさんとデュラハンが何か話をしている場面」は、この時期に屋敷内の誰かに必ず見つかる運命なんだと思う。
だとしたら私がやるべきことは一つ。
他の誰かに見つかる前に自分がその場面を見つけて、デュラハンを召喚することをやめさせるなり、続けるとしても今後は他の人に見つかる危険性がより低い場所…そうね。たとえば私の部屋でやってもらうなりする必要があるんだ。
ということで、私は今からベルさんとデュラハンに会いに行かなければならないという訳だよ。
正直、自分から首なしのアンデッドがいると分かっている場所に近づくのはとても気が重いけど…。
でも行かなきゃ。自分が首なしになるよりは、首なしのアンデッドに会いに行く方が遥かにマシな選択だから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
予想通りの場所に、彼女たちの姿はあった。
彼女たちに見つからないようランタンを消しているので、ベルさんの姿は暗くてよく見えなかったが、なぜかデュラハンの姿は暗い中でも不気味なほどはっきりと見えていた。
そしてデュラハンは私の方に背中を向けて、池の近くにあるちょうどいい高さの石の上に腰をかけていたんだけど…。
やはり後ろ姿でも十分インパクトがあるね。
だって、首から上は何もないわけだからね。頭は左手に持ってるわけだからね。
そしてデュラハンに段々近づくにつれて、先ほどから「私、今すぐ死ぬかもしれない」という原因不明の恐怖心が段々強くなってきている。
一周目でもここで殺されてはいないわけだし、あのデュラハンが敵ではないこともちゃんと理解しているのに、それでもなぜか死の恐怖が止まらない。
おそらく生きている者に対して強烈な「死の恐怖」を与えることが、デュラハンの力の一つなんだろうけど…。
でもここで止まるわけにはいかない。一周目ではここで大きな悲鳴をあげた訳だけど、それもやってはいけない。
ここで死の恐怖に負けたら、本物の死が私を待っているんだ。
だから私は、何やら話が盛り上がっている彼女たちに静かに近づいて、必死に笑顔を作って声をかけた。
「あの…」
『「…!?」』
「えっと、邪魔してごめんなさい。そちらの方はお友達…かな?」
やっぱり「何もしなくてもブクマや☆評価をもらえる可能性にかけて後書きに何も書かない」という選択肢は致命的な誤りだったということだね。