12話 もう一人のイケメン
ベルさんがうちの屋敷にやってきて1年が経った。私の三度目の審判の時まで、あと4年。
でも今のところ、すべてが順調に進んでいる。
私が生き残るためのもっとも重要な要素であるベルさんの関係は、極めて良好。
この1年間の絶え間ない努力で、私は彼女と単なる主従ではなく、親友同士または実の姉妹のような親密な関係を築くことができたと自負している。
うん、すばらしい。
そしてロイに関しても特に怪しい動きはなし。
考えてみると彼は前世から常にうちの屋敷にいたわけではなく、普段はパトロールや魔物討伐のために領内を駆け回っている。
で、たまに彼がうちの屋敷にやってくる時もベルさんは基本的にいつも私と一緒にいるわけだから、彼がベルさんにちょっかいを出せるタイミングは自然とほとんどなくなっていた。
結局ベルさんと私がいつも一緒にいることが、ロイに対する牽制にもなっているんだよね。
よし、今のところやるべきことはやっているし、すべてがうまくいっている。
意外と有能なのかな?私。
……いや、調子に乗ってはいけない。有能な女は二回もうっかり命を落としたりしないものだよ。
ちょっとうまくいってるからって気を抜いてはいけないよ、エリカ。命かかってるんだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
もう一人のイケメンがリュミエール辺境伯領にやってきた。
ケネス・ブライトン伯爵令息。年齢は確かベルさんと同じ16歳だったはず。
彼はワイルド系のロイとは対照的な、神秘的な儚げなイメージの美少年だった。真っ白な肌に、私のプラチナブロンドよりもさらに「白」に近い色の眩しい銀髪。
全体的にホワイトな感じの、色素の薄い美形くんなんだけど、瞳だけが鮮明なエメラルドグリーンでその瞳が良い意味で強烈に印象に残る。
そして顔立ちはロイよりもさらに整っていて、まとめると「この世のものとは思えないような、異質な感じの美少年」という感じかな。
そうだね。彼のことは「男版エリカ・リュミエール」と表現してあげても良いかもしれない。
…
……
……ごめんなさい。また悪い癖が出てしまいました。
でも許して。私、いくら考えても顔以外は他人に自慢できるところが一つも出てこないような女だから。「中身のない人間」の代表格と言っても過言ではないから。
…私の外見や中身の話なんてどうでも良いね。
さらに言うと、儚げな白いイケメンくんのことも正直どうでも良い。
彼はロイと違って私やリュミエール家に何らかの害を及ぼす人間ではないから。というか正直、過去の二回の人生において、彼は私にとっては存在感がほとんどない相手だった。
ケネスくんがうちの領地にやってきたのは、確か病弱な彼が王都よりも静かで落ち着ける場所で療養生活を送ることを希望したのがその理由だったはず。
でも別に命にかかわるような重病を抱えているわけではなかったようで、一周目でも二周目でも彼は数年間うちの領内に滞在した後、普通に王都に帰っていった。
確か一周目でも二周目でもうちの姉とかなり仲が良かったんだけど、正式な交際や婚約はしてなかったはず。あまり興味がなかったから裏で付き合ってたかどうかまでは知らないけど。
今回もケネスくん本人には全く興味がないし、どうぞゆっくり休んで元気になったらおうちに帰ってね、としか思ってないんだけど…。
でも彼の登場は、私にとって重要な意味があった。
というのは、彼がリュミエール辺境伯領にやってきたということは、過去の二回の人生において私を確実に破滅に近づけた、あるイベントがそろそろ発生することを意味しているから。
二回とも彼がやってきてから程なくして問題のイベントが発生したからね。
今回は過去の二回とはベルさんを取り巻く状況がだいぶ変わっているから、もしかしたら発生しないかもしれないけど…。
でも発生しない可能性にかけて何もしないということはもちろん許されない。
イベントの性質上、今回のイベントにうまく対処できなければ、私は破滅に大きく近づくことになるから。
何度も言うけど、命がかかってるからね!
…早速今夜からベルさんに対するストーキングをさらに強化して、心の準備もしておかなくちゃ。
でも許して。私、いくら考えても後書きでのブクマと☆評価のおねだり以外は他人に自慢できるところが一つも出てこないような作者だから。