11話 大丈夫ですよ
イザベル視点です
最近、わたしはエリカさんの様子に少し違和感を覚えている。
たぶん他の人は気づかないような軽微な違和感だけど、四六時中エリカさんと一緒にいて、彼女のことだけを見ているわたしには分かるんだ。
普段のエリカさんは良い意味で、わたし以外の人間には無関心な人だった。
冷淡な人という意味ではない。彼女は必要以上に他人に干渉せず、他人の個性やテリトリーを最大限尊重して自分からはそこに踏み込まない大人の対応ができる人だった。
そう、彼女はまだ13歳でありながら「去る者は追わず来る者は拒まず」という姿勢ができていた。
まさに天性の貴婦人で、人の上に立つために生まれてきた高貴な存在と言っても過言ではないと思う。
やはりエリカさんは尊い。エリカさん最高。女神、天使、聖女。
…話が逸れてしまった。わたし、エリカさんの話になるといつもこんな調子になってしまうんだよね。
あ、あと、先ほど言った「わたし以外の人間には無関心」の「わたし以外の」のところは普通に全身全霊の自慢だからね。
エリカさんはいつだってわたしに関することには興味津々なんだ。いいでしょ?羨ましいでしょ?えへへ。
…
……
……話を戻そう。そんな「良い意味で他人に無関心なエリカさん」なんだけど、最近屋敷にやってきたある人物には興味を持っている様子だった。
その人物の名前はロイ。ロイ・メイウッド。
わたしが秘密のお仕事を始めるきっかけにもなった魔物騒動の後、国境警備と魔物討伐のための援軍として王都から派遣された騎士団の一部隊の隊長である。
武家として有名なメイウッド伯爵家出身で、本人も騎士として極めて有能。そして金髪碧眼の絵に描いたようなイケメン(ワイルド系)でもあり、それなのに気さくで人懐っこい性格で男にも女にも好かれるタイプ。
そんなメイウッドさんに対して、エリカさんはかなり興味をお持ちの様子だった。
ただ、その「興味」は恋愛対象としての興味ではなさそうだし、もっと言うとポジティブな意味での「興味」でもなさそう。
エリカさんのメイウッドさんに対する「興味」は、「警戒」や「注意」に近い感じの、どちらかというとネガティブな意味での「興味」だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「最近も特に変わったことはない…ですよね?」
いつもの二人だけのお茶会。エリカさんはわたしの顔色をうかがうような様子でそんな質問をしてきた。
最近、こんな感じの質問をされる回数が増えてきたな。
そしてわたしは、今の言葉だけでエリカさんが求めている回答が何なのかが正確に分かるくらいには彼女のことを理解している。
「はい、大丈夫です。毎日とても楽しく過ごしています。…特にメイウッドさんから声をかけられたりもしていません」
わたしの回答に、エリカさんは少し安心した表情をみせてくれた。
…そう。わたしがもっとも違和感を覚えているところ。それはエリカさんはなぜか「わたしとメイウッドさんが何らかの交流を持つこと」を特に警戒されているということだった。
それをはっきりと感じたのは、わたしがメイウッドさんに声をかけられ、少し立ち話をしているところを偶然目撃したエリカさんが珍しく少し焦って、取り乱した様子になった時だった。
「そう。よかった…。あっ、でも!別に彼と仲良くしちゃダメ、とかじゃないですからね。私はいつだってベルさんの気持ちを最優先にしたいと思ってますので。私に気を使う必要はありませんよ!」
いやあの……別にわたし、エリカさんがメイウッドさんに惹かれていて、わたしのことを恋敵認定しているとは少しも思ってませんから。
エリカさんがメイウッドさんをそういう対象として見ていないことはちゃんと理解していますし、もしエリカさんがメイウッドさんに恋愛感情を持っているようでしたらわたしはお二人のことを全力で応援しますよ。
…そう。応援しますから。
応援できる…はず。たぶん。
「大丈夫ですよ、エリカさん。わたし、変な誤解はしていません」
「…そう?」
「はい。あとね、わたしはエリカさんがわたしにして欲しくない行動は、絶対にしたくないんです」
「……」
「エリカさんに気を使うとかじゃなくて、わたしがそうしたいんです。これからもエリカさんにずっと可愛がっていただきたいですからね」
「ベルさん…」
「理由は何でもいいんです。別に理由がなくてもかまいません。エリカさんがわたしにして欲しくない行動は、それだけでわたしにとっては絶対にしたくない行動になるんです。「しちゃいけない行動」じゃなくて、「したくない行動」ですよ。だから…大丈夫です」
「ベルさん…!!」
エリカさんはとても感動したような表情で立ち上がって、わたしのことを強く抱きしめてくれた。
彼女の体温がとても心地よい。
というかわたし、いつの間にか自分の気持ちをちゃんと自分の言葉で表現できるようになったね。
これもすべてエリカさんのおかげだな。
…大丈夫ですよ、エリカさん。
わたしはあなたが少しでも嫌がることは絶対にしないし、何があってもあなたの…あなただけの味方ですから。
何をそんなに警戒されているのかは分かりませんが、大丈夫です。安心して。
あなたのことはわたしが必ず守りますし、あなたに少しでも害をなすような相手はわたしが排除しますから。
わたしがこの呪われた力を持って生まれてきたのは、きっとそのためですからね。
「理由は何でもいいんです。別に理由がなくてもかまいません。ブクマと☆評価をください」