第一部 【しゃべる愛犬ポポロ】
皆さん初めまして。ホシヨミと申します。
今回初めての投稿となります。
この作品はぜひペットを飼っていらっしゃる方々、動物が好きな方に読んでいただきたい作品となっています。
動物にも人と同じように心がある、それをわかっていただきたいのが筆者の願いであり、この話に込められています。
かくいう筆者も実家で犬を飼っていたのですが、一人暮らしで地元を離れていた故に、死に目にもあえず後悔したこともありました。
今一度向き合っていただきたいです。あなたのパートナーは幸せですか?
『輪廻転生』というのを聞いたことがあるだろうか。
人は死ぬと魂だけが残り、その魂は別の新しい体として生まれ変わる・・・という考えから生まれた言葉である。だが実際にそれを証明できた人などいないし、たまにテレビのドキュメント番組で取り上げられるくらいであろう。しかしもしそれが実話ならどうだろうか。
一説には、転生して生まれ変わったとしても基本的に前世の記憶など微塵も残っていないという話がある。だが、ごくまれに先天的に残っていたり、何かがきっかけとなって記憶が蘇るという説もある。
どの説が正しくて、どういう仕組みになっているのか、医療や科学が進んだ現代でも誰も解明できずにいる。
もし、この輪廻転生が存在するのだとしたら、それは生きとし生けるもの、命あるすべての生物に起こりうる現象ではないのだろうか。もちろん我々の身近なペットとて例外ではない。
これはそんな奇跡が生んだ物語である。
第一部 【しゃべる愛犬ポポロ】
-2019年8月14日-
ここ東京は日本の首都だけあり、お盆真っ只中で帰省者がいるにも関わらず人が多い。
そんな中、コンビニや百貨店に行けば関係なく働いている人がいるのだから日本人は本当に働き者だと思う。そんな都市部から少しはずれ、決して一等地というわけでない普通の住宅街に普通ではない犬と生活を共にしている女の子がいる。
「じゃあお母さん、行ってくるね!!」
「はいはい、気を付けていってらっしゃい。おばあちゃんに迷惑かけないようにね。」
「うん、いこ!ポポロ!」
「おいおい、そんなに引っ張んじゃねえよ。首輪が食い込んで痛えよ。後、ちゃんと俺の骨持ったんだろうな?」
最近の女子中学生の中で比較的割合が多いセミショート、彼女がこの髪型にしたのはおしゃれでも何でもなく、校則にも引っかからず手入れも楽だという理由からだった。それでも目はパッチリとしていて小顔で整った顔立ちは本人が気づいていないだけで、その可愛らしい容姿と明るい性格が相まって男女問わず人気者だった。身長が150センチで伸び悩んでいるのが本人の悩みで、仲のいい友人に打ち明けたことがあるのだが、「小さいからかわいい!」の一点張りだから相談できたものではない。そんなまどかは今年で中学三年、つまりこれが中学生活最後の夏休みというわけだ。その休みを利用して愛犬を連れて父方の実家、『おばあちゃんの家』に行くのが毎年の恒例行事となっている。
「ちゃんと持ってるよ~、もう三本しかないけど。」
「三本~!?おいおい、行くのは三日間だろ?一日に一本しか食えねえじゃねぇか!」
「ご飯ちゃんと三食あげてるでしょ!?他の家じゃ二食しかもらえない子もいるのに!」
「おいおい、人にはもっと優しくしないとダメだぜ?」
「あんた犬でしょ!?」
まどかと玄関で言い争っているのが世にも珍しい喋る犬である。
ポメラニアンと呼ばれる種類で、どちらかというと小型、モフモフした毛で愛嬌のある顔が特徴である。一般的に元気いっぱいの遊び好きだが、いざとなったら自分より体が大きい相手でも臆することなく立ち向かっていくという勇敢さも兼ね備えている。あくまでここまでが一般的なポメラニアンだ。
だが、まどかの家の愛犬はなぜか喋る。しかも父親に似たのか親父口調。その愛くるしい姿からは想像もつかない、とんでもないギャップである。言葉になり始めたのは飼い始めて半年が過ぎたころ、この犬にとって一歳の誕生日を迎えたときからだ。
「ポポロ、いつからか言い方が本当パパにそっくりになったわね・・・クス。」
「いやああ!どうせ話すならもっとかわいい言葉遣い覚えさせればよかったー」
母親の言葉にまどかが冗談めいた悲鳴をあげた。
「あ?充分かわいいだろ。これ以上かわいくなってどうすんだよ。」
「自分でいうな!!ほら、もういくよ!いってきまーす!」
犬のくせにドヤ顔する愛犬をしり目に母親に手をふるまどかとそれにひっぱられる喋るポメラニアンのポポロ。一人と一匹の物語はここから始まる。
東京から広島まで距離にしておよそ800km。これだけの長距離を約4時間で行き来する新幹線を生み出した人っていうのは本当にすごいと思う。そもそもまだ学生なのだから、新幹線じゃなくても節約する意味で高速バスでもありかなとまどかは思っていたが、さすがにポポロに気を使いながら12時間のバスはしんどいと思って考え直したのだ。もっともポポロ自身が、
「半日もかごの中じゃ飼い殺しみたいなもんだぜ。」
と妙に説得力があることを言い出したのも理由の一つではある。
ペットと意思疎通ができるのは喜ばしいものではあるが、ときにはめんどうくさくなることもあるとまどかは最近そう思い始めていた。とはいえ、まどかもポポロが人語を理解できる故に恥ずかしくてあまり表面上には出さないようにしてるが、実のところポポロを本当の弟のように大切にしてるのでついついわがままを聞いてしまう節がある。一人っ子だから当然といえば当然かもしれないが。
ちょうど中間、京都あたりまで差し掛かってきたときに流れたアナウンスでそれまでかごの中で突っ伏して惰眠をむさぼっていたポポロが耳をピクンと動かす。
「京都か。おい、まどか知ってるか?この前親父が見てたテレビ番組でよ、京都には貴船って場所があってそこは大自然ですげーらしいんだ。あー死ぬ前に一度行きてーな。今度連れてってくれよ。」
この世界のどこに親父とテレビを見て旅行に行きたがる犬がいるというのか。
「きぶね??どういうとこだか知らないけど・・・わかった、お父さんとお母さんに相談してみるから。人前じゃああんまりしゃべらないで!大変なことになるの知ってるでしょ?」
「ちっ、つまんねーな。早く外のうまい空気吸いたいぜ。」
「あと半分だから我慢我慢!おばあちゃんの家に着いたらきっとおいしいものもらえるから、ね!」
「わーったよ。」
今から4年前、ポポロが人語を話すようになってすぐのことだった。その頃、一家は言葉を話す犬がどれほどの規格外でどれだけ世間を騒がすことになるのか理解できず、散歩しながらポポロと普通に会話していたのだ。それを近所の住人に見られ、瞬く間に有名になったのは言うまでもない。しいては、録音させてくれだの、動画をとらせてくれだの、あげくの果てには高値で引き取らせてくれだの、顔を合わせるたびに言われるのだからたまったものではない。あまりの図々しさに見かねたまどかの父親が集まってくる人間にうちの家族は見世物じゃないぞ!と怒声を浴びせたほどだ。以降、さすがに騒ぎすぎたと自覚したのか、謝罪に加えこれ以上広めないことを近所の住人達は約束してくれたのだから、理解があるご近所さんで家族は本当に助かっていた。
そういうこともあり、無用な騒ぎを避けるためポポロには外ではあまりしゃべらないようにと、家族から口を酸っぱくして言われているのだ。もっともポポロにとって話すというのは、人間と同じく至極当然のことなのであって、それを咎められるのは嫌だろうなという認識もまどかにはあるので自然と気を使った話し方になる。
「ごめんね。もうちょっとだから。」
ちょっと困ったような笑顔を見せる。言葉には出さないがポポロもそんな心遣いをしてくれる優しいまどか、自分のことを家族と言ってくれた親父、文句も言わず自分の世話をしてくれる母が大好きで、本当にいい家族と巡り会えたと実感していた。
ここ、広島県の名所といえばまず先に思いつくのが日本三景の一つ、厳島だろう。もう一つの名を宮島と呼ばれるこの島は、浜辺にシンボルといっていいほどの巨大な赤い鳥居が立ち、透き通ったような快晴であれば本土からも見えるほどだ。毎年、時期になると厳島神社への参拝客が後を絶たない。近年の地震によって多大な被害を被ったが地元民の協力もあり今は復興され日常を取り戻しつつある。そして、宮島の名物は鳥居と神社だけではない。ところどころお店に売ってあるしゃもじ、野放しにされている鹿も名物の一つだろう。人は食べ物をくれる!という認識があるからなのか、よほどのことがない限り人を襲ったりはしない。が、食欲には目を見張るものがあり、売店で餌を買って持ち歩いていると我先にと寄ってくる。運悪く貪欲な鹿に見つかってしまうと向かってきて無理やり奪い取って袋ごろ食べようとするので危険なことこのうえない。とてもじゃないが小さい子供には持たせることはできない、というほどの勢いなのだ。
だが宮島は観光客オンリーというわけではなく、島の裏側には住宅地もある。この鹿達による少々の獣臭さえ気にしなければ住みやすいところではあるだろう。そういう場所に住んでるのがまどかのおばあちゃんなのだ。
「相変わらずいいとこじゃねえか。鹿と一緒に駆け出したい気分だぜ。」
「ポポロがいうと冗談に聞こえないからやめてっ!!」
ポポロと2人で来るのはまどかにとって今回で3回目だ。見知っている土地ということもあり、まどかはポポロをかごから出してリードを手に巻いた。
「ああーやっとカゴから出られた、せいせいするぜ。・・・ん?」
どこからかキーーキーと鳴き声みたいなものが聞こえ、その方向にポポロは向き直ると対抗するように、
「ワン、ワワン、ワン、ワワン!」とリズムよく鳴き返す。
「えー!!ちょっと!何鹿と喧嘩してんの!」
「喧嘩じゃねぇよ。あいつに人間といて楽しいか?って聞かれたから返しただけだ。」
ポポロはもともとが犬なので動物とは会話ができる。もちろん犬に限らずだ。
「あ、そうなんだ。人から見てもわからないもんね。・・・それで何て答えたの?」
実のところまどかも気にはなっていたのだ。最近喧嘩ばかりでちゃんと満足させてあげられてるのだろうかと。ポポロは一瞬迷い、
「聞いてたろ?ワン、ワワン、ワン、ワワンって言ったんだよ。」
「私に犬の言葉わかるわけないでしょ!」
「フ・・・いやーそれにしてもいい天気だなー。おい、まどかちょっと走ろうぜ?」
こんなに人を小馬鹿にするような鼻笑いはどこで覚えたのか。
「話はぐらかさないの!ていうかいやよ!こんな暑い日に!!めっちゃ汗かくじゃん!ポポロと違って私は汗かくの好きじゃないの。」
「体温調節すりゃ大丈夫だろ。」
「犬と一緒にしないで!!それできるのあんただけでしょ!!あー、余計暑くなってきた。もう!コントみたいなことしてないで早くいこ!」
「お、走るか?」
「走らないっ!!」
ポポロとのこういうやりとりももう日常茶飯事だ。ポポロが人間ならきっと相性がよくていい友達になれたんだろうなとまどかは思うときがある。
観光客が徐々に減ってきて住宅街とは少し離れたところ、周りを木々に囲まれた場所に一軒ぽつんと木造の建物がある。家というより、セレブな人が立てる別荘、もしくはちょっと大きな小屋というのがまどかの第一印象であった。脇には小川が流れており、上流から直接流れてくるこの水はいろいろと使い道がありそうだ。
ドンドン
まどかは少し大きめなノックをする。
「ただいまー、おばあちゃんきたよー!」
「おーい、俺もきたぞー」
しばらくすると、中から歩く音が聞こえ、徐々にこちらに近づいてくるのがわかった。
「はいはい、今あけるからねぇ~」
ガチャ、とドアがゆっくり開くと白で染めている天然パーマの老婆が優しそうな表情を見せる。
「いらっしゃい、まどか、ポポロ。暑いのによぅ来たねぇ、ほれ早よう上がりんさい。」
熟練された方言は何の不自然さも感じられない。
広島弁はお年寄りが使うと何とも言えない安心感があるから不思議なものだ。
「お邪魔しまーす!」
「おっと、婆ちゃん。雑巾ねえか。足の裏よごれてら。」
「おやおや、相変わらずお行儀のいい子じゃねぇ、これ使いんさい。」
「お行儀がいい!?どこが!?」
まどかのキレのある突っ込みはもはや芸人としてもやっていけそうなぐらいだった。