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第一話 少年は昼寝がしたい

 ここは果てが見えないほど広い大草原、今年十五歳になる黒髪の少年は心地よさそうに寝そべり青く透き通る空を見上げながら、腹をかいていた。


「はーあ、空からお金とかそーゆーアレが落ちてこないかなぁ」


 平和ボケした態度で大あくびをする少年の名前はソイヤ、学校に通うごく普通の青年だ。自宅に帰れば一人でボーっと天井を見つめたり、手のしわを数える日々。

 そんな日常にウンザリしたので、休日を使ってたまには外に出ようと思い切って出てきたまでは良かったが、やはり途中で一人ボーっとする日常を選んでしまうのは、ソイヤらしいっちゃらしい。


 それにしても――


「……平和すぎる」


 そう呟くのも無理はない。


 ソイヤの住む国は人口が十万人程で名前はイティメノス・ジャケェ。意味は敗北者だそうだ。

 なぜこんな惨めな名前になったのかを説明するには、今から千年前に遡らなくてはならない。


 当時見境なく戦争をしかけては勝利し、敵から金品を巻き上げ宴を繰り返す盗賊のような町があった。

 町の名前はソリャーナイヨウ。これは創設者の親友で当時世界中から歴史上最強と謳われた転生者あああああの口癖から取ったと言い伝えられている。

 創設者は大の戦争好きで、あああああを含めた仲間とともに他国にどう攻め込むか考えては、たった数十名の仲間を率いて他国に攻め入り、王を人質にしては価値のありそうなものを片っ端から奪い自国に持ち帰っていた。


 この横暴を周りの国が放っておくはずもなく、恨みを持つ者たちやその脅威に怯える国が連合を組み、ソリャーナイヨウに宣戦布告した。歴史上最強の仲間がいても敵の数が世界規模ではさすがに無理だと悟った創設者たちは、命乞いや謝罪に全力を尽くすものの、あまりに説得力が皆無だったため集中攻撃を喰らい、名前をイティメノス・ジャケェに改名させられたらしい。


 それ以降は見るも無残なほど周りの国からいじめを受けたり、ちょっかいをかけられたりしたのだが、罪の深さに反省した創設者たちは人が変わったようには大人しくなり、時間がたつと周りには人が集まるようになった。

 そして千年後には立派に平和ボケした国が誕生したというわけだ。



 ――アホらし。


「つまらーーーーーん、つまらんつまらんつまらーーーん!」


 赤子のように手足をバタバタさせながら声を大にして嘆く、人目を気にしやすい性格のソイヤは、人がいないのをいいことに大胆な鎮静行為をとっていた。見ている人がいれば酷くみっともない姿だったが、この大草原にはいつもソイヤ以外の人は訪れない。たまに、年に数回ぐらいだ。

 一人は気楽でいいもんだと、流れる風に思春期の不安定な心を委ね、今日の晩御飯の事を考える。


 そんな時だった――。


「ぅぁぁぁぁーー!」


 それは上空からの悲鳴だった。徐々に大きくなる声は女性のものだ。ソイヤは声から年齢 身長 体重を真剣に考察しながら、自分は関係ないといわんばかりに先の姿勢のまま微動だにせず、「幼女かな」と無意識につぶやいていた。

 

 声は遠くから明らかにこちらの位置に驚異的な速度で近づいてきてるが、大草原は見渡しても果てが見えないほど広いのでどうせ当たらないだろう。謎の飛行幼女が地面に着弾したらその死体を覗き見に行こうじゃないか。嘘、やっぱ死体とか無理。


 しかし声は瞬く間に大きくなり、やがてその声が自分への注意だと知る頃には――。


「ぶーーーつーーーかーーーるーーーーーーー!」


「え!?」


 ――遅かった。

 慌てて立ち上がり逃げようとするも間に合わず、気づけば強い衝撃とともに背中に女の頭が突き刺さり、そのまま強く地面に叩きつけられた。






〇     〇     〇     〇    〇    〇






 薄汚れた小屋の中、部屋の端のベットでソイヤは目覚めると、そこは身に覚えのない場所だった。

 しかし不思議な暖かさを感じる、まるで危険を感じつつも心の底から安心できるような。

 それって大丈夫なのか。

 体調もかなり良い、まるで細胞をすべて新品に入れ替えたみたいにハッキリとした感覚を感じていた。


「――何処だよ、ここ」


 前の強い衝撃で気絶したのを思い出す、窓を見ると外は森に囲まれていて、夜の暗さが一層外に出ることを拒ませる。森は危険だ、特に夜は魔獣が活発化する時間帯だから、戦闘系で強い能力持ちでないと二度と家に帰れなくなる。

 そんな危機感を胸にしまい部屋に振り返ると、ふと自分の背中に何かが突き刺さっていたことを思い出した。


 あれはなんだったか――。


「あ、起きたのね、良かったー。もう体は平気よね?」


 横で聞き覚えのある声が聞こえた。明るくて無邪気な声。

 起き上がり体の調子を確かめると、さっき確かめた時と同じで生まれ変わったかのように体が動き、思わず「おお」と声が出る。


 それを満足そうに見つめるのは、横にいる身の丈に合わない無色のローブを纏う幼女だ。彼女は元気よく体を動かすソイヤを見るとほっとした様子で無い胸を撫でおろした。

 幼女は漆のように黒く長い髪の毛を揺らし、愛らしい顔つきの大きく丸い青目がこちらを堂々と見ていた。

 知らない子だったが、奥に立てかけてある竹箒とセットで見れば、明らかに魔法使い染みた恰好をしていた。


「キミは、魔法使い?」


「あ! わかる~? さっきまた同じの買ったんだー、似合うでしょ。このあからさまにサイズ間違えた感じが逆にいいでしょ?」


 笑顔でくるりとまわって無色のローブを見せつけてくる。その可愛いらしい仕草は見るものを幸せな気持ちにしてくれる。

 しかし何故そのサイズで逆にいいと思ったのかわからず、ソイヤは微笑みながら適当に「似合ってるよ」と言うと幼女は「だしょだしょー」と満足そうに笑った。

 頭を撫でまわしたい欲求を抑えながらソイヤは幼女に聞く。


「魔法使いってことは、能力は空を飛ぶ系の?」


「違うよー、あたしは蘇生が出来るの。実はこれ、世界でも滅多にいない能力なんだって! えっへん」


「すごいな、蘇生って反則級じゃんか」


 自信満々に腕を組み、板のような胸を持ち上げる幼女。

 最初は後ろの竹箒を見て飛行系かと思ったが、全く関係がなかった。どうやら「ただのお掃除道具だよ?」とのこと。


 ちなみにこの世界では、一人につき生まれつき一つの能力が宿る。一部の国ではこれを神の奇跡などと呼ぶ。有名なのは千年前に歴史上最強と言われた転生者あああああの能力、『コンティニュー』。

 これは死んでも前回セーブした場所からやり直すことが出来るというチート能力だったが、歴史に記されているのはこれだけで、後は回数制限やセーブスロットがあるといった噂話が広がっていた。

 確かにこれと戦闘系の能力者が組めば、あらゆる戦いにおいて勝利を収められたことだろう。転生者だから強いというわけではなく、この世界に来たものも含め与えられる能力の差はランダムだ。

 前の世界で使えたはずの能力が、何故か使えなくなったと嘆く人たちを何人も見てきた。

 そういえばこの前、人差し指からありえない匂いの汁を少しだけ出せる能力を持った転生者と会ったことがある。彼が自分の能力を明かした時の顔は、言葉では言い表せない。


 能力といえば、ソイヤは自分の能力を知らない。基本的に能力というのは生まれながらに本能で理解するものだが、ソイヤは両親にそれを封印されていた。

 正確には能力を鑑定してもらった後すぐさま封印士のもとへ駆けつけたそうだ。能力が危険すぎて封印されるケースは稀とのこと。ソイヤの場合は特に急いだ。

 ちなみにこの能力を知っているのは両親 鑑定士 封印士を含めた四人だけであり、意識することで強すぎる能力が目覚め封印を力づくで突破することがあり得る為、本人には伝えられていない。

 実は封印も絶対ではなく、解く方法は割と多いのだが、両親やたまに会う鑑定士と封印士に絶対に解くなと念を押され続けているので、そうまでされると自分の我儘で解く気にもなれなくなる。

 

 一度いたずらで街中で売られている素材を使って封印解除薬を作ろうと思ったときとか凄かった。まるでこの世の終わりを食い止めるかの如く一丸となって止められた思い出がある。これを今では笑い話にしたいのだが、話すとどうもそういう空気じゃなくなる。



 ――ソイヤは自分の身に何が起きて、何故ここに居るのか等肝心なことはまだ何一つ知らないのだが、この暖かさが幼女の手によるものだという事に驚き、思わず礼をしながら頭を撫でてしまう。撫でられながら「えへへー」と喜ぶ幼女。ここだけ切り取れば目の保養になる画像にピッタリだ。

 さて、そろそろ聞いておくべきか。


「あのさ、もしかして俺が気絶してた理由とか知ってたりする? それともキミにやられたのかなぁ、いやこれ冗談なんだけど――」


「そのことについてなんだけど、あの、あたしぃ、自分の蘇生魔術がどんな感じなのか体感したくて、知り合いに頼んで大草原に落ちるように付近の雲の上にテレポートして貰ったの。」


 幼女はもじもじとしながら、思わず三度見するようなセリフを放った。なにそれすごい、チート系能力者は皆こうなのだろうか。

 なんというか、少し羨ましい気がしなくもなかった。


「大胆なことするなぁ」


「それでー、自分に蘇生かけて落下してたら真下にキミがいてさ……。」


「うん」


「そのまま突き刺さってしまいまして。」


「――突き刺さった!?」


 突き刺さった!?

 それが大草原に平和ボケした顔で寝そべっていた男にという意味なのは幼女の遺憾の表情と、その後ろに隠れて掛かっていた血塗れのローブが物語っていた。

 背中に、人間が刺さる――。


「あー思い出した! 刺さってたわ、お前刺さってたわ!」


「うっ」


 ソイヤは気絶前の光景を鮮明に思い出し目を見開いた。

 あの時ソイヤの背中を貫いていたのは、確かに今申し訳なさそうに目を瞑っている幼女で間違いない。顔は頭から刺さっていたからわからないが、声と服装が完全に一致している。

 つまり死んでいたソイヤに蘇生をかけ小屋まで運んだのは、この愛らしい幼女だったのだ。

 だがどうにも腑に落ちない。


「普通当たります?」


「当たってしまったんです、これが」


「いや、ないでしょ」


「ごめんなさい、私もどうしてこうなったのか――」


「とりあえずもう一回謝れ」


「ご、ごめんなさい」


「どうしても腑に落ちん」


「うぅ、それは私だってぇ」


 正直狙ったとしか思えないし一度殺されていると思うとどうしようもなくむかっ腹が立つ。蘇生してくれたからよかったものの、もしこの半泣きの幼女が蘇生持ちじゃなくただのダイナミック自殺志願者だったら今頃道連れになっていたところだ。


 ――これはただで許していい状況だとは思えない。


「今日、泊まっていいよね?」


「も、もちろんそのつもりだったの、ご飯も作ってあるし!」


 そう言って外に出ていきササっと持って来てくれたのは、明らかに数時間前にその辺で狩ってきたであろう魔獣の丸焼きであった。

 幼女は自信作ですと言わんばかりに、腕を組み無い胸を強調し、「えっへん」と威張っていた。

まいったな、魔獣は砂っぽい味がするから苦手なんだが、それに――


「キミ、ここに住んでるの?」


「そだよー!」


 このボロ小屋がこの幼女の住処だったことに驚く。

 後で知ったが、この家は窓からだけじゃなくそれ以外も全て森に囲まれていて、夜はいつ魔獣に襲われてもおかしくない状況だった。

 異世界ですが、割と転生者や訪問者が多いため登場人物は現実世界寄りの言葉使いとなっています。

 転生者だからと言って強くはなく、ただのうのうと異世界ライフを味わって死んでいくというのはよくある話です。

 ちなみにちゃんと色んな種族が出てきますよ。これからに期待。


 初投稿なので、毒舌だろうがなんだろうが使えるアドバイスであれば大歓迎です。

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