表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇現象解決ユニット  作者: 夏みかん
第一章
8/23

化け猫の棲む村 その七

夜が明け、村人全員が役場に集まっていた。昨夜、村中に響き渡ったあの女の声を全員が聞いた結果であり、宮子が先日村人を集めた際にこの時間に集まるよう告げていたとはいえ全員が集まるとは思っていなかった。大きなあくびをする司を見やる村人は数人で、ほぼ全員があかりへと目を向け、ひそひそと話をしている。どこから出た情報か、既に悪霊を退治したのはあかりだという噂が広がっていた。そんなざわつく広間を見渡し、宮子がゆっくりと立ち上がって手にしたマイクを口に近づけた。


「長い長い間、この村を苦しめてきた怨霊の正体を告げたいと思う」


宮子はそう前置きをし、事の真相をゆっくりと話始めた。そもそも、化け猫が村を呪っていたのは間違いだった。むしろ猫の霊が殺された女の霊を慰め、その怨念を封じ込めてきたのだ。だがそれも40年しかもたず、再度自身の霊圧を高めるために一晩を要したのだ。その間、女の霊は村人を、特に自分を陥れた男に近い年齢の人間を殺してきたのだ。山で霊圧を蓄えてやってきた猫の霊が再び40年間、女の怨霊を慰める。そのサイクルをもって村の化け猫伝説は語り継がれてきたのだ。その話を聞いた村人は困惑していた。無理もないと思う宮子はあかりを呼び寄せ、そして誇らしげに孫娘の顔を見つめた。


「女の怨霊はあかりが魔封弓で完全に消滅させた。もうこの村に女の霊は、化け猫の霊は現れない」


そう告げた矢先、大きな拍手が巻き起こる。と同時に司や来武に対する心無い言葉も浴びせられた。そもそもあかりが女の怨霊を退治したとなれば、わざわざやってきた司も来武も不要であり、その存在価値すらもないのだから。困る来武の隣では相変わらずぼーっとしたままの司がいる。そのこともあってますますバッシングが大きくなる中、あかりは宮子の持つマイクをそっと取り、一歩前に出た。


「私が魔封弓を引けたのは、2人のおかげです。彼らがいなければ、あの怨霊を退治することなど出来なかった・・・私1人で倒したわけじゃない。弓を引かせてくれたのも、2人のおかげ」


その言葉に反発する声もあったが、さっきまでの騒々しさは消えていた。来武はほっとし、司は口元に小さな笑みを浮かべていた。


「鳳凰院の力はまだまだ戻っていない。でも、きっと私が取り戻すから、だから、みんな安心して暮らして!」


最後にそう言い、あかりは深く頭を下げた。小さな拍手の波が大きなものを呼び、広間を温かい空気で満たしていくのだった。



「こんなに?」


目の前にどっさりと置かれたお土産を前に、来武は困惑した顔をするしかなかった。地酒に野菜、果物などがかなりの量になっていたからだ。司は満足そうにしつつそれを眺めているが、いったいどうやって持って帰るつもりなのだろうか。


「お金は、本当にあれだけでいいのですか?」


柚希の言葉に来武が頷く。結局、怨霊を退治したのはあかりだが、そこまで持って行ったのは司だ。お礼は弾むべきだと大金を用意した宮子と柚希だったが、来武はその半分も受け取らなかった。司はお金に興味がないのか、食べ物で満足している。


「あれで見合った報酬です。それに、今後のために使って欲しい。村の慰霊碑、猫の供養に使ってください」

「わかりました」


そう言い、宮子が深々と頭を下げる。


「これらの土産はこちらからすぐに発送しますので、ご安心を」


そう言った柚希の言葉にホッとした来武と違い、すぐにでも食べたかったのか司は不満顔だ。そんな司の前に立った宮子はそっと右手を差し出した。司はそれを見てにんまりと笑い、それからその右手をそっと握りしめる。温かさとは違う何かが宮子に伝わる、そんな握手だった。


「本当ならあなたにあかりの夫になって欲しかったがな・・・」

「なれるもんならなってやりたいけど、無理だしね」

「なんで!こんなのとっ!」


2人の会話に割り込む形であかりがそう怒声を上げるが、周囲は笑いに包まれていた。あかりはムッとした顔をしつつ司に手を差し出す。


「あんたのおかげ・・・それはわかってるから」

「お前の力だよ」


悪態をつくようなあかりに対し、優しい笑みを浮かべた司が握手をした。


「そ、そりゃそうよ・・・私の力は凄いんだし」

「ああ、だから頑張れ」


少し頬を赤くしたあかりに対し、司はにんまりと笑ってそう言った。あかりはそのまま来武にも右手を差し出す。苦笑していた来武も表情を引き締め、ぎゅっとその右手を握り締めた。


「ありがとうございました。本当はもっといろいろと教えて欲しいことがあったんだけど・・・」

「また何かあればいつでもいい、今度はウチに来てください」

「はい!是非!」


微笑み、嬉々としてそう言うあかりに苦笑しつつ握手は続く。柚希と宮子が目を合わせて微笑んでいた。


「では、そろそろ時間じゃな。電車の駅まで、伊藤さんが送ってくれる」


そう宮子に言われた伊藤という50歳ぐらいの男性が頭を下げ、来武が挨拶をする。その横では司が山の方へ顔を向けていた。


「ずっと彼女の傍にいてあげてくれ」


そっとそう呟き、笑みを濃くする。山から猫の鳴き声が聞こえた気もするが、それは気のせいだろう。2人は宮子たちに再度礼を言い、車に乗り込んだ。持てる土産を持ち、窓から顔を出して手を振った。やがて車は砂埃の彼方に消え、宮子と柚希、そしてあかりはどこか寂しそうな顔をずっと車の消えた方へと向けているのだった。



長旅の疲れを癒すはずのその抱擁は、さらなる疲れを重ねているようだ。出張中にほとんど連絡をよこさなかった罰なのか、帰宅した司は凛からの熱く長い抱擁を受けて身を固まらせていた。凛と恋人同士となって4年近くなるが、さすがの司も抱擁程度では身を固まらせることはない。そう、普通の抱擁ならば。帰宅した司が受けている抱擁は普通ではなった。濃いめのキスをされつつ背中に回した手を撫で回すようにしている凛によって硬直させられているのだ。要するに、これは音信不通期間が長かった罰なのだ。15分にわたるその責めを受けた司は息も絶え絶えになり、逆に満足した凛は夕食の支度があるために上機嫌でキッチンへと向かったのだった。その夕食時、司は簡単ながら父親である信司に依頼の顛末を話し、そして鳳凰院家の復興が近いだろうと告げていた。そうして久しぶりの我が家の夕食を満喫し、風呂に入る。ここでもまた凛の襲撃を受けそうになったがどうにかかわして逃げることに成功していた。旅の疲れに加えて先ほどの異常な抱擁で体力は限界だ。ゆっくり風呂に浸かりたい司は一緒に寝ることを条件に出して1人湯船に浸かっている状態だった。凛に対してのみ性欲も発生しているが、まだそういった関係にはなっていない。一度そうなりかけたが、緊張のあまり気絶したためにゆっくり進もうということになっていたのだった。だが、今夜は少し違う、そんな予感もしている。


「したい気もあるけど・・・・怖いんだよなぁ」


湯船に浸かりながらそう呟き、司は悪霊よりも凛が怖いと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ