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怪奇現象解決ユニット  作者: 夏みかん
第三章
23/23

天狗の願い(5)-終-

村人への説明も終わり、後の処理は駐在と村長、そして珠を継承する10の家に任せることにした。天狗は伝説として残り続けるだろう。ただ、私利私欲を持って天狗を殺害した事実を受け止めながら。今までの伝承を覆す話に戸惑いはあるが、天狗が村人に抱いた恩は本物なのだ。だからこそ村を存続させてその恩を形として残す義務がある。平和を維持することがそれに当たるだろう。十夜はもう普通の人間になっていた。あの特殊な霊圧というべきモノはもうないのだから。逆に九にはまだ特殊な霊力は存在している。それを羨ましいと思う反面、なくなってホッとしている自分も確かに存在していた。


「ありがとうございました」


そう言って深々と頭を下げる大吾に向かって何もしてないよとだけ言い、司はさっさと車に向かった。結局何もしなかった、出来なかった。それはそれでいいと思う。楽ができたのだから。


「じゃ、2年後にね」


乗り込みかけた司が動きを止めて振り返れば、そこには笑顔の九がいた。司は困った顔をし、冷たい目を向けている凛を見て動揺しつつも九の前に立った。


「あー、悪いけど・・・・俺、巨乳好きだからさ」


その言葉に未来が、来武が、あかりが、美咲が一斉に凛の胸に注目した。だいたい、そんなことを言う司を見たことがないだけに戸惑いも大きかったが、凛だけはクスッと小さく笑っただけで何も言わずにいる。それはますます不気味で、司は挙動不審になってしまっていた。九は自分の胸と凛の胸を見比べ、それから鼻で大きく息を吸い込む。


「大きくしてみせるよ。そしたら文句ないでしょ?」

「・・・・大きくなったら、な」

「成長期、ナメんな!」

「へいへい」


疲れたようにそう言った司に抱きつき、九は小さく微笑んだ。これにはさすがの凛も驚いたが、ムッとした顔を見せずに苦笑するばかりだ。


「暑苦しいなぁ」

「ありがとう」


文句を言う司にそっとお礼を言い、九は司から離れた。そして悪戯な笑みを浮かべて見せる。司は苦笑し、それから徐々にいつもの笑みに変化させていった。


「元気でな」

「あんたも、ね」


司は笑みをそのままに車に乗り込んだ。九は凛に頭を下げ、凛もまた少し九に近づいてから頭を下げた。


「愛人は認めないけど、ライバルは認めるよ」


その言葉に九は呆然としていたが、徐々に口元に笑みを浮かべていく。


「ライバルになります、きっと!」


その言葉に微笑みながら凛は車に乗り込んだ。司は助手席、凛は後部座席だ。その後全員が乗り込んで出発となる。手を振る村人に手を振る中、司だけは寺のあるあの森の方へと目を向けていた。そこにはもう何も無い。それでも確かにそれはいたのだろう。霊圧とは違うモノ、それは確実に今でも村を見守っているのだから。



今回の事件は幕を下ろし、帰り道に位置する佐川新のいる寺に立ち寄ってその報告をした。天狗の末裔のこと、天狗の強い意思を。結局、何もしなかったに等しい今回の依頼に関しては謝礼を受け取ることはしなかった。だがどうしてもと野菜を大量に持たされたのが謝礼といえば謝礼だろう。


「帰りたい、か」


新はしみじみとそう呟き、腕を組んで難しい顔をする。数百年経っても、死んでも尚思い続けた故郷への想い。それは途方も無く大きく、途方も無く純粋な願いだったのだろう。ただ単に帰りたい、その想いの重さを感じざるをえない。


「帰る能力を忘れてしまったことが悲劇っちゃ悲劇だね」

「でも、彼は帰れた・・・形を変えて」

「今度はそいつが行きたくもない世界へ行き、恋焦がれるんだろうけどね、こっちの世界を」


司は出された冷えた麦茶を飲む。いつか彼も帰ってくるのだろうか、そう思うが、それこそどうでもいい。いつになるのかも、その意思があるのかも分からないのだから。


「異世界ってホントにあるのかな?」


あかりがそう呟き、全員が考え込んだ。だが答えなどわかるはずもない。


「あるのかないのかどうでもいいよ・・・・俺は家に帰りたいだけ」


そう言い、司は立ち上がった。キャンプは楽しかったけど、何かと慌しかったのは確かだ。だからか、未来と来武は別途ゆっくりと温泉にでも行こうと計画を練り始めていた。あかりがそれに気づいているとも知らずに。6人は新に見送られて車を走らせた。目指すはもちろん家だ。助手席に座った司がぼんやりと外の景色を見つめる中、後部座席の女性陣は走り始めてすぐに眠りに落ちてしまっていた。寝不足だったのだから仕方がないだろう。心配しながらもちゃんと言いつけを守って寝ずに待ち続けていたのだから。


「正直、今回はヤバイと思ったよ」


凛が完全に眠っているのを確認してから来武がそう口を開く。今回の相手は霊圧とは完全に異なる能力を駆使していた。それこそ、この世界にはありえないモノを使ったのだ。現に封神十七式は一切通用しなかった。いや、かすかに作用した程度の状態だ。来武も補助を行ったものの、全く効果はなかった。だからこそ本気で焦りもしたし、諦めそうになってしまった。


「俺もヤバイと思ったけど・・・霊圧自体は感じてたから。あと、天狗の意思と」

「意思?」

「天狗の力は対象に生きる気力、死ぬ意思を増大させて再生と破壊を行うものだった。けど、その根本にあったのは帰還への憧れだったんだ」

「元の世界に帰りたい、と?」

「ああ。だから、それを手助けしてやったのさ。あいつの目的は9つの珠を持っていながら残った珠を持つ九と交わることで天狗の遺伝子と能力を受け継いだ最強の存在に生まれ変わることだった。だから俺を倒すために九の持つ珠の能力を借りて無理矢理10にしてた。全部奪ったら元も子もないし」


九から全ての能力を取り上げれば、九と交わっても10の珠の能力を受け継いだただの人間しか生まれない。混血児が混血児を産む、ただそれだけだ。珠を持つ者同士が交わり、それでいて天狗の遺伝子を受け継ぐ者を生む、そして礼の魂を同化させたその者こそが天狗の継承者たりうるのだ。


「ただ純粋に帰りたいと願う意思、それに珠を奪われた子供たちのかすかな霊圧をそこに同調させた。正直、一か八かだったけどね」


本当は分かっている。天狗の帰りたいという強い意思が司の中にあった生きるという強い意思に反応したことを。凛のために死ねない、そう思ったからか、司の中の光天翼が反応したのかもしれない。勿論、司はそれを認識していない。だが確かに光天翼は司の生きようという意志に応えてくれていた。礼と同じこの世界にはない能力として対抗できた要因だ。光天翼が足りない珠の力を補った結果、天狗の意識は元の世界に帰れたのだろう、そう思う。かといって光天翼があの能力と同一のものかと言われれば疑問だ。それほどまでにあの能力は特殊だったのだから。


「誰でも、わけのわからない場所に放り出されれば帰りたいって思うさ」

「いつか、あいつもまたこの世界に帰ってくるのかな?」

「不完全なままで帰ったからなぁ・・・無理かもしれないし、数百年後、子孫となって帰還するかもね」


司のその言葉に来武もまた頷いた。それはそうだ、誰にでも帰るべき場所があるのだから。


「俺たちも、もうすぐ帰れるぞ」

「安全運転でな」


そう言い、司はそっと目を閉じた。それを横目で見つつ、来武は小さく微笑むのだった。



この一泊二日のキャンプ自体は楽しいものだった。初日はわいわい騒ぎ、いろいろな話も出来た。特に女子のテントの中では女子トーク、恋愛トークで盛り上がっていたこともあって寝たのは真夜中を過ぎた頃だったほどに。それとは正反対に2日目の夜は司と来武が十夜と九を追って村に戻り、残された面々は怯えつつも一夜を明かしたのだ。ちょっとした風の音にも怯え、トイレも全員で行かなければならないほどに。あかりと美咲という霊能者がいてもやはり怖かった。特にあかりはパニックを起こすと全く役に立たないことが分かった。逆に未来の方が胆が据わっており、テントの中でみんなを励ましていたほどだ。そのせいで疲れもあったものの、全てが解決したという達成感はあった。凛は疲れを癒すためにさっさとお風呂に入ったものの、やはり昨日までの大きな露天風呂のイメージが大きいためにこじんまりした印象を受ける。いつも入っている風呂場なのにと苦笑しつつ上がり、髪を丁寧に乾かしてからリビングでくつろいだ。今日は自治会の集まりという名目の飲み会で信司もおらず、司は疲れたとかでさっさと部屋にこもっていた。美咲もまた寝不足ということで部屋に引っ込んでいる。凛は自室に戻ると顔に化粧水を塗って肌の手入れにいそしんだ。山とはいえ日焼けもしていた。だからこそ念入りに肌のケアを行っていた。テレビからは芸人の声が響いている。そんな時、ドアがノックされる。返事をすれば、ドアが開いた向こうに立っていたのは司だった。珍しいこともあるものだと部屋に入れると、司はベッドに腰掛けて少しおどおどした様子を見せた。床に座っていた凛は化粧道具を置いたテーブルの上からメガネを取り、それを掛けてまじまじと司を見つめる。そんな凛と目を合わせることもできず、司はやや顔を赤くしつつも意を決して目だけを凛に向けた。


「礼を言っておこうと思って、な」

「礼?」


お礼を言われるようなことをしたかわからない。キャンプでの食事のことか、それとも何か別のことか。首を傾げる凛から目を逸らし、司はさらに顔を赤くしつつ頬を指先で掻くような仕草を見せた。


「凛のおかげで助かったから、それだけ」

「ん?」


ますます意味がわからない。といっても、説明したところで凛には理解できないだろう。礼からの攻撃を受け、死を強く意識した際にそれを跳ね除けたのは凛の元に帰るという強い意思。凛を残して死ねないという確固たる意思が死への欲求を打ち返したのだから。だからか、凛が所持しているはずの光天翼が発動して天狗の能力の足りない部分、九の持つ珠の代わりとなって補完したのだから。司はまた救われたのだ、凛によって。


「なんかよくわからないけど、どういたしまして」


司からお礼を言われることなどないだけに、凛は嬉しくて素直にそれを受け取った。司は顔を赤くしたまま頷くとベッドから立ち上がる。だが凛はその手を握ると体重を司に預けるようにしてベッドに押し倒した。司の上に馬乗りになった凛はメガネの下の瞳をキラキラと輝かせ、逆に司は絶望に彩られた目になった。


「そういうのは結婚までしないんじゃなかったっけ?」


ため息混じりのその言葉に、凛は司のようににんまりした笑みを浮かべて見せる。ますます嫌な予感しかしない刹那、凛はぎゅっと全身で司を抱きしめた。何度こうされてもまだ体が硬直する。慣れてきたとはいえ、突然のこういう行為はまだまだ慣れなかった。何年経てば慣れるのか、誰かに答えを聞きたいぐらいだ。


「ちょ・・・」

「今日はここで寝なさい」


母親のような優しい声に、さすがの司も黙り込む。柔らかい感触に血が沸騰しそうになるが、それを心地いいと感じている自分もいる。


「暑いから・・・」

「クーラーついてる」

「けど・・・」

「うるさい」


そう言い、凛は強引にキスをした。メガネがずれるのもお構いなしだ。司はもう観念し、凛に全てを委ねた。凛に救われたのだから、これはこれでいいかと思う。そして確信した。自分の居場所は、帰るべき場所はここなのだと。そうしていると凛は司の頭を抱くようにして胸に密着させた。司は風呂上りのいい匂いとその感触に気絶寸前にまで追い込まれていた。


「巨乳好きだもんねぇ」


その言葉に意識が覚醒する。やはり覚えていたかと絶望した。


「あ、あれはほら、あいつから逃げる言い訳だし」


しどろもどろになりながらもそう反論するが、凛には通用しなかった。


「へぇ・・・そう」

「ああ言えばほら、あいつ胸ペッタンコに近かったからさ、諦めるって思って」

「意外と2年でおっきくなるかもよ?」

「え?なるの?」

「成長期だったら、可能性はあるね」


そう言う凛の胸は中学生の頃から大きかった。だから今の言葉に根拠などない。だが司は焦り、それが凛には無性に面白い。こういう面でしか司の上に立てないのもあって、凛は司とのスキンシップを楽しんでいるのだった。


「でも信じてるからね・・・司君は絶対に私のところに帰ってくるって」


そう言い、凛は司の頭を解放した。司は赤い顔をしつつもまじまじと凛を見つめる。


「ああ、帰るよ、必ず」


真顔でそう言われた凛は嬉しそうな顔をし、それからすまし顔に戻った。


「よしよし、浮気願望あり、と」

「なんで?」

「帰るってことはそういうことでしょ?俺はずっと凛の傍にいるぜって言わなかった司君には罰ゲーム!」


そう言い、冷たい目で微笑む凛は再度司の頭を抱くと胸にそれを押し付けるのだった。



眠りを覚ますほどの光に意識が覚醒した。目を閉じてもまぶしいせいか、しかめっ面をした美咲は全霊力をカットしてギュッと目をつぶる。なのにまだ瞼の裏はキラキラ輝く七色の光が瞬いていた。もう何をしようが無駄だと感じて大きなため息をつき、眠い目を開けて机の引出しを開けた。そしてそこにある藍色の数珠を右手にはめて再度ベッドに寝転がった。以前、神地王遮那かんじおうしゃなから貰った対ラブラブオーラ用の数珠は効果抜群だ。あまりの被害に業を煮やして遮那に相談した結果、結界を込めた数珠を作ってくれたのだ。なんで自分がわざわざこんな物を着けなくてはならないのか、その理不尽さに腹も立つが、何より腹が立つのは自分にはそういった相手がいないことだ。いちゃいちゃすればすぐに光が溢れる司と凛のカップルにはイライラするが、それ以上にイライラする原因はそこにあった。何故、自分はモテないのだろう、それが気に入らない。


「くぅぅぅ~・・・・・彼氏欲しいよぉ~!」


魂の叫びとなった絶叫が虚しく部屋中にこだまし、それに呼応するかのように家の外では野良犬が遠吠えをするのだった。

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