天狗の願い(3)
先ほどの小屋の前に立った司はただボーっとそこを眺めているだけだ。両手首に輝く金と銀の数珠はそのままであり、本当にただ突っ立っている状態でしかない。そんな司の横に並んだ凛は不安そうな顔をしつつそっと司の上に手を添える。少し震えているようにも思えた。
「10個の力を取り込もうとしているヤツがいる」
「天狗?」
「人間だろうけどね」
司は薄く笑うと空を見上げた。こういう時の司は既に事件の本質を見抜いている、そう理解していながらも何も言わず、凛は添えた腕をぎゅっと握り締めた。
「鍵を握っているのは九と十夜・・・・あいつらが今回の事件の引き金なんだろうけどね」
「引き金?」
「きっと事件の根底に関わる何かをした・・・その結果、こういう事態に陥ったんだろう。いや、利用されたと言うべきかも」
「利用?」
「住職のおっさんが語った天狗の伝承・・・・裏があるのかも・・・・でしょ、じーさん?」
そう言い、不意に司が振り返る。あわてて凛もまた振り返れば、そこにいたのは一人の老人だった。司はにんまりと笑い、老人は深々と頭を下げた。老人にも見えていたのだろう、司の中の神秘的な霊圧が。
「あなた方を呼び寄せた者です。貴布大吾と申します」
そう名乗り、大呉は顔を上げてまっすぐに司を見つめるのだった。
*
本堂に残されたのは十夜と九だけとなった。来武たちは詳しい情報を得ようと村に繰り出し、同行しようとした九を礼が呼び止めたのだ。九は憮然としつつ礼の前に正座をし、十夜もまた九の隣に座った。
「10人のうち8人があの状態だ・・・なれば、次はお前たちのどちらかがああなる可能性が高い」
「どっちかって・・・順番からいけば私じゃん」
九が礼を睨みつつそう言い、礼はため息をついた。
「本来ならああいった部外者を呼ぶことなく、お前たちで処理して欲しかったのだが」
そう言った礼の言葉に十夜は俯き、九は横目で十夜を睨んだ。元々霊力の高い九と霊圧の高い十夜は子供の頃からコンビを組んで除霊を行ってきた。礼の指導の下、2人は協力し合って様々な除霊を行い、周辺の村や町からも依頼が来るほどの実力を得ていたのだ。だが、今はもうそれもしていない。原因は半年前にあった。
「とにかく、君たちも危険な立場にあることは理解しておきなさい」
「わかった」
不貞腐れたようにそう言い、九は礼を睨みつつそそくさと本堂を出て行った。やれやれとため息をついた礼はうなだれたままの十夜に近づき、その肩にそっと手を乗せる。
「恋をするのは仕方が無い。だが、お前たちは決して結ばれてはいけないんだ」
「わかってる・・・九が俺をただの幼馴染としか思っていないことも・・・」
「お前たちが交われば、何が起こるかわかんのだから」
「うん」
十夜は視線を落としたまま暗い顔をするしかなかった。自分の恋は禁断の恋であり、そして決して結ばれるものではない。自分たちの生まれを呪い、そして九が自分に恋をしていない事実をまた呪うしかなかった。あの日、半年前のあの日の自分の行動を無しにしたいと願うが、それは不可能だ。自分がしてしまった愚かな行為のせいで九からは完全に嫌われてしまい、それを何とかしようとした礼もまた九から避けられていた。
「また元の関係に戻れるよ、きっと」
「でも・・・俺はまだあいつを・・・」
「この事件が解決すれば、それも可能かもしれない」
礼の言葉に十夜が顔を上げた。どういう意味なのかわからない、そんな顔をした十夜に礼は微笑みかけた。
「天狗の力が失われれば、それも可能だろう?」
「でも、どうやって?」
「それは天狗に聞いてくれ。でも、もし他の8人のように魂を抜き取られずにその能力だけを抜き取られれば、お前たちは普通の人間なんだから恋も出来る」
その気休めとも言える言葉に十夜は少しホッとした顔を見せる。だからか、その異様な仮説に気づきもしなかったのだった。
*
わいわい言いながら食材を切っていく女性陣の中に九がいた。何故か打ち解けあい、そして昼間にはなかった和らいだ表情が見えている。そう、九もまたキャンプ場に来ていた。住職から話を聞き、その後は村を回って伝承に関する調べものをしていると九とその祖父が同行したいと申し出たのだ。この時点で九は仏頂面のままだったが、美咲と一緒に行動するうちにだんだんと打ち解けあったようだ。同じような能力を持つ者同士、村を巡る中で意気投合したらしい。その上、来武にあかりといった自分と同じ霊能者もいることで仲間意識が芽生えてきたのだろう。大吾はキャンプ場でいろいろ話したいと申し出て、どうやら村自体にいたくないという感じがあっただけにみんながそれに了承したのだ。遠方にいてもあの小屋に運ばれるという謎の怪現象が気になるものの、来武と司による術がキャンプ場に張り巡らせているためにそうそう動きは取れまいという見解もあってここに2人を招いていた。やがて食材も揃い、大吾の腕もあって火は簡単に熾せたために手際よく夕食が始まった。事件に首を突っ込んでいることもあって今日はアルコールの摂取もない。わいわい言いながら食事を取る九を見つつ目を細めた大吾に気づいた来武がそっと声をかけた。
「やはり心配ですか?」
「あ、いえ・・・」
そう言いつつも顔に出ている。九は美咲やあかりと霊能談義に花を咲かせ、凛と未来がそれを興味深そうに聞いている。司はひたすら肉を食べていた。
「10人の中で、九と十夜君だけは特別な能力を持っていましてね・・・だからこそ、不安なんです」
「どちらかが犯人、だと?」
少し俯きつつも首を横に振った大吾は燃える炎へと視線をやった。
「犯人は天狗でしょう」
「でも・・・」
「詳しくは後でお話します、が、村に伝わる伝承と我ら10の家に伝わる伝承は異なっています」
そう言い、大吾はため息をついた。今は何も聞くまいと来武は食事に集中し、そんな2人を見つつ司はひたすらに肉を食べていった。やがて時間も経てば酔ってもいないのに会話が盛り上がってくる。
「ホントだ~、まぶしー!」
「不思議だよねぇ」
「お熱いこと」
司を想うと輝く凛のオーラを興味深そうに見つめる九は無邪気だ。きゃいきゃい騒ぐ九と美咲、彼氏が欲しいと来武に絡むあかり。そんな九を見つめている大吾の横によっこらしょと腰掛けた司は手にしたオレンジジュースを飲み干した。
「十夜って子とあの子、なんかあんの?」
小さめの声でそう問いかける司に驚いた顔を見せた大吾だが、司が纏っている不思議な雰囲気に心を許す決意を固めた。
「あの子達は2人でよく除霊を行っていました。九が見て、十夜君が祓う。遠方からも人が来るほどにあの子達はすばらしい能力を持っていました」
「たしかに、ちょっと変わった霊力に霊圧だ」
「半年前、十夜君が九に告白をしたんです・・・お互いにそういう気持ちはあったのでしょうが、九の返事を待たずに十夜君が少し強引に動きましてな。それ以来、仲が悪くなりました」
「若気の至りってヤツかな?」
自分には無縁の言葉を口にし、司はひょいと焼けた肉をつまみあげる。思春期の十夜にとって、可愛い九はただの幼馴染ではなかった。恋愛対象だったのだ。だが九はそうではない。大吾はそう感じていたかもしれないが、実際には違っていた。だからか、十夜は九を押し倒した。結局、九が十夜を振り払って逃げたことで何もなかったが、それ以来、九は十夜を避けた、それも徹底的に。数日後に事情を聞いた礼に呼び出されたが、九は十夜を嫌悪してコンビも解消してしまったのだ。以来、2人はずっと険悪だった。
「十夜君はずっと謝っていました。気持ちが勝手に先走ったのだと」
「勝手に、ね」
「そんな言い訳じみた答えだからこそ、九は許せないのでしょう。何より、天狗の能力を受け継ぐ家同士の交わりは禁じられていますので」
大吾はそう言い、お茶を飲む。理解は出来ないものの、十夜の気持ちも少しはわかるようになっている司は珍しくそれ以上何も言わなかった。
「交われば、能力が重なってしまう・・・それだけは絶対に避けねばならないのです」
悲壮な顔をする大吾を見つつ、司は何も言わないままで肉を食べ続けた。やはり天狗の伝承には裏がある、そう思いながら。
*
焼け残った炭がまだ赤く燃えている。食事を終えて穏やかな時間を過ごす頃合になると凛がコーヒーと紅茶を振舞った。そうした中で大吾が自分の家に伝わる天狗の伝承をゆっくりと語り始めた。それは村に伝わる伝承とは全く違うもの。人の醜さが前面に出た忌まわしき物語だ。その物語はこうだった。ある夕方、一人の人間が山道に倒れこんでいた。冬だというのに日焼けをしたかのような赤い肌をし、大きな鼻を持つ男だった。不思議な衣服を身に纏い、それはどう見てもこの国の物ではない素材で出来ていたという。とにかく村人は彼を運び、介抱してあげた。だが男は言葉も通じず、異国の者かと思われたが顔はどう見ても日本人だ。そしてその男は不思議な能力を有していた。助けてもらったお礼なのか、病の床にあったその家の主人に手をかざすだけで全快させ、また荒れていた田畑に手をかざせば見る見るうちに畑は生気を取り戻したのだ。以来、彼に貢物をして畑を豊作にしてもらうなどする者が現れて、男は寺のすぐ傍の小屋を家としてもらい、村に溶け込んでいった。月日が経つ中で徐々に言葉も覚え、やがて男はこう言った。
「私はこの世界ではない別の世界から来たのだ」
所持していた得体の知れない薄い箱を見せてそう言い、箱から奇妙な音楽を奏でたり今でいう録画された映像を映したりしたという。そう、現代でいうスマートフォンに近いものかもしれないと大吾は付け加えた。男は10個の特別な能力を持って村を豊かにしていった。村に逃げ延びた落ち武者を狩りに来た者たちを撃退し、さらには村に奇妙な結界を張ったりもしたという。汚れた水を綺麗な水に変化させ、病を治し、田畑を蘇らせる。死者の声を聞き、また動物とも会話できたとも言われていた。そんな彼に村の女性が恋をするのも仕方がない。美人で気さくな女性は彼の身の回りの世話をするうちにその優しい人間性に惹かれてしまったのだ。しかし彼はかたくなに女性を拒む。それでも女性は甲斐甲斐しく世話を焼いた。村に伝わる天狗の化身、神様だとされる彼の世話は巫女として彼女が全て請け負ったものの、彼女に想いを寄せる一人の男によって全てが一変した。何度も何度も告白をし、夫婦になろうと言い続けたが断られ続け、ならばあの妖怪がいなくなればいいという結論に達したのだ。だが相手は得体の知れない能力を持っている。そこで男は仲間を募って夜中に彼の家を襲撃したのだ。仲間5人と共に不意をついて全身を滅多打ちにし、そのまま住み込みをしていたその女性をさらってしまったのだ。彼を想って泣き叫ぶ女性に激昂した男は女性を自分の家に監禁してから彼の全身を切り刻んだ。大量の血を流し、息も絶え絶えの彼にとどめをさした男は、体の中から出現した光る10個の珠を見つけた。そこで仲間10人でそれらを分け、死体を処分した男たちはそれぞれが珠にこそ力が宿っているとしてそれを飲んだという。十人がそれぞれ珠を飲み、偽りの遺言をでっち上げた。泣いて悲しむ村人が彼の小屋を寺とは別に神殿としたのだった。やがてそれが天狗とされて今に伝わっているが、本当は一部の村人による私利私欲の果てのことなのだと大吾は話した。来たくもない世界に放り出された悲しい男の末路、それは悲しいだけでは済まされない悲劇だ。男はただ元の世界に帰ることだけを切望していたらしく、帰る手立てを求めていたとも伝えられている。その話を聞き、暗い山の中だけに空気までが重くなってくる。少し怖くなった美咲が来武に寄り添えば、未来とあかりもそれに習う。あかりに関してはただそうしたかっただけだが。凛は司を見やり、司はただじっと赤い炭を見つめているだけだった。その司が沈黙を破って口を開く。
「ということは、10個の珠が再び合わさるのを、天狗の復活を恐れて交わりを禁じたわけね?珠を飲んだ人は死んだら中から珠は出てきたのかな?」
怖がる様子も何も見せない司の言葉に大吾は首を横に振った。
「珠を飲んだ人間の死後、焼いても骨だけだったようだ。珠は魂と1つになって子供に受け継がれている、そんな風に言われています」
「つまり、今、その珠を受け継いでいるのは九たち子供ってわけね。子孫が出来ればそれはそこに移るわけか。でも10人が10人、よく似た世代に生まれたもんだ」
「過去、そういうことはなかったようです。皆、世代もバラバラでしたから・・・だから、こういう事件が起こったのかもしれません」
そう言って頷く大吾、身震いする九。九に関しては今の今までそんな話は知らなかったからだ。何より、天狗として殺された男の中にあった珠の1つは今、自分の中にあるのだから。
「でもそれらしき物、ないよね?魂の色が濃いけどさ」
美咲がまじまじと九を見てそう言い、あかりも来武も頷いている。
「魂は、な。問題はその霊力だろう」
そう言った司の瞳が金色に輝く。驚く顔をする大吾を無視して怯えた表情の九をまじまじと見やった。彼女の魂に異常はない。それは魂を抜かれてしまった8人と変わらない。そう、あの8人の魂自体は肉体の中にあった。ないように思えるほど、それは小さくなってしまっていたが。つまり抜き取られたのは魂と融合していた珠なのだろう。ならばそうしている犯人はただ1人だ。
「おそらく、天狗のおっさんが能力を回収してんだ」
「でも、死んだんでしょう?」
凛の言葉に頷くものの、司の顔は笑っていた。もう、全てを悟ったのだろう。
「ちょっと司!話してよ!」
未来がそう言った途端に司は笑みを消して黙り込んだ。怒った口調だった未来はぶるぶると怒りとは別の震えが来つつ横にいる来武の腕をぎゅっと掴む。あかりはゴクリと唾を飲みつつ右手に霊圧を溜め込んでいった。美咲はガタガタ震えながら凛の後ろに隠れるようにし、凛はそっと司の服を掴んだ。それは司のせいではない。自分たちの視線の向こうにそれがいたからだ。テントの向こうにある木の陰に突然現れた存在に司を除く全員が震えた。
「お使いかい?」
目を見開く大吾を尻目に立ち上がった司が嬉しそうに笑う。そこにいたのは天狗だ。赤い顔に長い鼻、そして鋭い眼光を持っている。白い服と黒い袴姿の天狗が少し離れた木のそばにぼうっと立っていた。昼間、八矢の叔父がしていた格好に似た存在がそこにいた。全員が固まる中、司は薄ら笑いを浮かべつつ手に持っていたコーヒーを飲み干した。
「ヤツのお使いか?」
その言葉と同時にキィンという金属音が響く。離れた場所にいた他の客も何かと騒ぐほどの音だ。
「司!術が!」
焦る来武の声を聞いても笑みは消えず、司はキャンプ場に張った『防』の術が完全に消滅させられたことに気づいていた。
「霊圧とはまた違ったモノか」
この異常事態にあって平然とする司が信じられず、来武とあかりは天狗から流れてくる得体の知れないオーラのようなものに圧倒されていた。司の術をかき消したのは霊圧ではない何かだ。どんなに霊力をこらしてもそれらしきものは感じられなかった、だが、美咲は違う。
「十夜君?」
術をかき消したそのオーラは赤く、そしてきらめいていた。そう、十夜の持つ霊圧と全く同じに。
「十夜が、犯人?」
「いや、そいつは天狗のお使いだよ」
司の言葉が終わると同時に再度金属音が鳴り響く。と、その瞬間に天狗こと十夜の姿は消えた。そして九もまた。あわてる大吾を制し、司は来武に運転を頼んで身支度を整える。あかりにはここで凛たちを守るよう告げ、大吾を伴って車で村へと向かったのだった。
*
かつて異世界から来た男が住んでいた小屋には今、天狗が佇んでいる。足元には意識を失った九がおり、天狗はそんな九を背負うと真っ暗な夜道を歩き出す。足元すら満足に見えない暗闇の中でまっすぐに向かった先は寺の本堂だ。月を厚い雲が覆う中、暗い中でもしっかりとした足取りで本堂にやってきた天狗は九を寝かせると丁寧な手つきで衣服を全て脱がせていった。そうして自分も面を取ると、虚ろな目をした十夜の顔が青白さを浮き立たせていた。そのままその場に正座をする。
「これで珠が全て揃う」
そう言いながらやって来たのは住職である貴船礼だ。歪んだ笑みを浮かべて全裸の九を満足げに見下ろすその瞳にあるのはどの欲望か。
「これで俺は全てを手にできる。九の持つ全能を見渡せる霊力と十夜の持つこの世の法則に縛られない霊圧。そして、完全なる肉体を」
そう言い、大きく笑った。そのまま何かしらの儀式のような振る舞いをした後、九の傍に立つと自分も服を脱ぐと逞しい筋肉質な肉体をあらわにした。
「お前が九を好いていたのはずっと昔から知っている。だが九はそうではなかった。けれど、お前の中にある九と1つになりたいという欲求は珠がもたらしたものだ。だからあの時、お前は九を押し倒したんだ。珠が願ったそのままに。引かれ合った珠の願望、天狗の願望によって。そしてそれによって俺は覚醒できた、礼を言うぞ、十夜」
そう笑いながらお礼を言った瞬間、礼は十夜の頭に右手を乗せた。赤いきらめきがその腕を通って礼の中へと吸い込まれていく。恍惚の表情を浮かべる礼の中に全ての光が消えた瞬間、意識を失ったかのように十夜は力なく倒れこんでしまった。
「残るは珠は1つ。そして完全なる肉体か・・・これはあと数年待つしかないが」
そう言い、全裸で横たわる九の横に座り込んだ。あまり膨らんでいないその胸を愛おしく撫で回し、そこから全身を撫でていく。
「お前に俺の子を産んでもらう。いや、子ではなく、俺そのものを・・・9つの珠を取り込んだ俺が最後の1つの珠を持つお前に子を産ませれば、それで全てが復活なんだ」
礼は大きく笑うと九に覆いかぶさった。
「なるほどね、やっぱあんた・・・天狗の末裔だったか」
その声に身を跳ね上げる。本堂の入り口に立っている一人の男を見やり、礼は悪鬼の表情でその男を睨みつけた。その男の後ろからさらに2人がやってきて驚きの表情を浮かべている。
「住職!」
「あんたが・・・・あんたが・・・・」
声にならない怒りと怯えの混ざった言葉を口にする大吾を見やり、礼はやれやれといった風な動きをしてみせた。そんな礼に薄ら笑いを浮かべた司が近づいていく。
「よくわかったもんだな」
「最初に会った時点でけったいなオーラが出てたからね・・・ほんのわずかだったけど」
「ほぅ」
そう言い、礼は笑みを浮かべた。礼もまた司の中に異様なオーラを見ていた。七色に輝く不思議なオーラを。
「バラバラにされた天狗さんの珠を1つにし、さらに珠と融合した魂を持つ者に珠を持つ者の子を生ませる。しかも、天狗の末裔たるあんたがその親であれば全能力を持った異世界の肉体を持つ人間が誕生だ。まさに数百年も昔に殺された天狗さん、そのものの誕生」
「何故、俺がそうだと?」
「言ったろ?あんたの肉体自体がけったいなオーラの出所だった。霊圧でもない、変なモノのね」
「まさかそういったものが分かる人間がこの世にいたとはね」
「一度死んでから、俺も人間とは違ったモノになったのかもしれない。そういう意味では、俺もまたこの世界の人間じゃないのかもな」
そう言って笑う司に対し、来武は苦い顔をしてみせた。確かに一度死んでからの司はより人間らしさを欠いている。それは精神面ではない。そっちでいえば凛に対する愛を芽生えさせており、より人間らしくなっている。そうでないのはケタ違いの濃い霊圧と、それを内包する肉体の方だ。以前、ヒヒの化け物と戦った際は霊圧を肉体の外に出して尚平然としていた。通常であれば考えられないことでありそれだけで寿命を縮めるか、もしくは何からの肉体異常に陥る可能性が高い。にもかかわらず司は今も平然としているのだ。
「けど、どうやって阻止する?」
「さぁ?どうしよっかなぁ」
「考えなしか・・・今の俺には9つの特殊能力がある」
「俺には十七の術があるよ。数的には勝ってるな」
そう言い、睨みあう。やがて眠っている九の体からも光が溢れていき、徐々に礼へと吸い込まれていった。礼から滲み出る霊圧とは違うモノ、司からあふれ出す霊圧。霊圧で無い物にどう対抗するのか、来武はそれを考えつつも答えの出ない歯がゆさを感じるのだった。




