天狗の願い 序章
時は戦国の世、その村はひっそりと存在していた。大きな寺を持つその村では災いや流行病、飢饉とは無縁の状態にあった。それもこれも村を守るといわれている天狗のおかげだろう。寺の本堂に祀られた天狗の面はその頃の名残であると言われ、今でも村を見守り続けているという。村人に崇められた天狗は村人を守り、村そのものに繁栄を約束したといわれ、十の神通力を十人の人間に分けてその身を滅ぼしてからもずっと村を見守り続けていたと信じられていた。そう、その日が来るまでは。天狗が分けた十の家の一つで子供が意識を失うという事件が起きた。事故であると断定されたその事件は事故であれ、不可思議な状態で意識の回復は達せられていない。その日から少しずつ何かが狂い始めている。天狗の仕業と噂される神隠しや幽霊を見ただのといった怪奇現象が多発し始めたのだ。やがて十の家のうち、五つの家で子供たちが謎の昏睡状態に陥るという事件が勃発し、いよいよ天狗の呪いだと噂されて高名な霊能者を呼んだりもしたが、つい一ヶ月前に六つ目の家でも子供が意識を失ってしまう。残る四つの家の子供の意識が失われれば村が滅びると信じた老人たちによって寺の住職が大々的な祈祷を持って処理したせいか、今は少し落ち着きを取り戻してきている。だが、そんなことでは一連の事件は終わらないと感じた一人の老人が親戚を頼ったところ、その親戚が住む町の住職から最強無敵の霊能者を紹介されてその人物を村に呼ぶことにした。絶対にどんな怪奇な現象も解決するという触れ込みを信じた老人こそ、十の家の末裔に当たる人物でもあった。彼の名は貴布大吾。大吾はただ孫の九だけを救いたいとの願いを持ってその霊能者を村に招いた。それこそが、この天狗事件の解決に繋がると信じて。




