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怪奇現象解決ユニット  作者: 夏みかん
第二章
14/23

生贄の少女 その四

その夜は太助の家族がやってきて軽い宴会になっていた。小さな村でお互いに家族ぐるみで気心は知れている。とはいえ、一連の生贄騒動もあってぎくしゃくした部分はあったものの、今は完全に和解している状態だった。誰でも神様は怖い。もし太助に娘がいて生贄に選ばれていれば同じようにホッとしたのは否めないだろう。元々幼馴染である太助、五郎、響子は仲が良かった。太助が杏を好きでいたことも知っている。だが杏を生贄で殺されてからは恋愛もできずにいた。トラウマには充分すぎる出来事だったからだ。そんな太助が隣の町に住む女性と結婚したのは5年前になる。それ以来、太助の家族とも深い付き合いがあった。


「で、詳しい作戦は聞かせてもらえないのか?」

「お前のじー様は村長だからな、情報が漏れるのは避けたい」


太助を信用していないわけではないが、今、この村の連中は五郎にとって全て敵でしかない。今回のここでの宴会も太助が五郎を説得に行くといって来ているぐらいだ。


「心配しないでいいよ。鈴は生贄になる」


その言葉にぎょっとした顔したのは太助夫婦だけだった。五郎も響子も平然としている。


「言えるのはそれだけかな。あと、鈴は絶対に助ける。目も見えるようにする」


司は煮物を美味しそうに食べながらそう言った。目も見るようにするという言葉にますます驚く太助だが、五郎はすべてが終わったらちゃんと話すとしか言わない。情報漏えいは作戦に支障をきたすと悟った太助は頷き、それ以上なにも言わなかった。鈴は太助の息子と楽しそうに遊んでいる。


「ところで、こちらのお嬢さんと彼らは恋人同士かなにかで?」


その瞬間、弓華が怪訝な顔をし、来武は苦笑する。司は食べることに夢中で聞いていなかった。


「いえ、武井さん、彼女はこの神手の宮司養成所での同級生でして」

「はぁ、そうでしたか・・・・ってことは2人は宮司?武井さんは巫女さん?」

「私はただの助手です」

「そうなんですか。なんか偉い学者さんかと思っていました」


来武を見てそう言う太助の言葉に五郎と響子も頷いていた。そんな来武は苦笑し、よく言われますと返す。


「この武井さんが健介と知り合いだったんだよ」


その話から健介のことに話題が飛んだ。村を捨てた人間が村に残った友人の安否を気遣う、そんな話に太助は泣いた。みかけによらず涙脆いらしい。


「明後日の夜、決着をつけるよ」


司の言葉を最後に宴会は終わり、太助一家は帰っていった。その後、鈴は弓華と風呂に入り、続いて司、来武となる。風呂を出た3人はお酒とジュースを飲みつつ霊についての話をしながら、昨夜この空気の中で熟睡していた司へと話題が飛んだ。


「こんな状態の中でよく熟睡できるわね?」

「こんな程度で寝られない方がどうかと思うけど?」

「いやいや・・・あんた異常だし」

「しゃーねーな・・・一緒に寝てやるから、それなら大丈夫だぞ?」


その言葉に赤面する弓華だが、異議を唱えたのは来武だ。


「昨日一緒だった俺も寝れなかったんだが?」

「だよねー?あんた私にエロいことしたいだけでしょ?」

「お前にエロいことなんかする気ないぞ。一緒の部屋に寝れば結界張ってやる。昨日は張らなかっただけ」

「なんかムカつくのは気のせい?」


弓華はそう言うと酒を煽った。飲めないのは司だけのせいか、程よく酔った弓華の頬は桜色に染まってきているほどだ。


「俺は女に興味ないよ。女も男も同じ人間だしな」

「彼女いるくせに、よく言う」

「例外は凛だけだ」

「特別なのにまだそういう関係はないんだ?」

「まぁ、な」


平然としている司が憎らしく、それでいてその凛という女性が羨ましく思う。司が奥手なのか相手が奥手なのか分からないが、そういう関係を何年も続けられることは羨ましい。自分は酔わされた挙句わけもわからない状態で初めてを迎えただけに余計にそう思うのだ。彼にしてみれば可愛い彼女を離さないためだと言ったが、だからといって酔わせたのはどうかと今でも思うほどだ。


「で、明後日は作戦通りで?」

「変更はない」

「勝てるんでしょうね?」

「ま、どうにかなるっしょ」


笑う司に不安を覚える弓華が来武を見れば、こちらも薄く微笑んでいた。勝算はある、そんな顔だ。


「司を信じろ」


来武つぶやくようにそう言うと酒を飲むのだった。



翌日、司は1人で鳥居の前に立っていた。来武と弓華は押し寄せる村人の盾になりつつ鈴を渡さないように目を光らせている。これも作戦のうちで、明日の朝には村に迷惑はかけられないと鈴を引き渡す算段になっているからだ。司は埋めた藁を掘り返すまでの時間、ここに来ている状態であった。そっと鳥居に触れれば、何の波動も感じない。もはやこの鳥居になんの効力もないのだろう。


「気休めの鳥居じゃ」


背後に立つ人物が誰かは分かっていた。司は鳥居から手を離すと太助の祖父である村長ににんまりとした笑みを浮かべて見せた。


「だろうね。普通の鳥居にある結界もないし」

「あんたがあの神手司と知って、ホッとしとる」


村長の言葉にも驚きを見せず、司はただ笑みを濃くするだけだった。


「かつてこの村に来た上坂刃かみさかじんという男が言っておった。この村の呪いを解くことができるのは神手司だけだと、ね。それがあんた様じゃ」

「刃さんは俺の師匠。俺にできるなら刃さんにもできたのに、手を抜いたな」


苦笑する司につられてか、村長もまた苦笑を漏らす。


「ま、どうにかするよ」

「幼い命を犠牲にしてきたわしらは地獄に落ちるだろうて・・・でも、それでも村を守りたかった。じゃがな、孫が生まれて、曾孫が生まれて考えも変わった・・・・鈴は死なせたくない」

「でもあんたは村長、だもんな」


その言葉に薄く微笑む村長に司は笑みを消した。


「俺の彼女の名前も凛だ。字は違うけどね。だから、絶対に死なせない」


その目に宿るのは鋼鉄の意志。老人に霊力などないが、それでも今の司が光り輝いて見えるのは何故だろう。気がつけば頭を下げていた。


「村は救わない。ただ鈴を救うだけだよ。あんたらに感謝される覚えなんかないから」


司は微笑みながらそう言うと村長に背を向けた。司はただ鈴を救いたい、それだけだ。そう、たったそれだけのことを何故今までしなかったのだろう。いったい何十人の子供命を捧げてこの村は生き延びているのだろう。神の報復を恐れ、誰も外部に助けを呼ばなかった。村は閉鎖的になり、翠の一家も健介の一家も去った。若い者は自分の孫夫婦と五郎の家族だけ。このまま行けば村は滅びるだけなのに。


「怨念の塊、じゃな」


村長はそう呟き、鳥居を見上げた。滅びの未来しかない村。まさに生贄たちの怨念の導きだろう、そう思う。



とうとうその日がやってきた。村は緊張に包まれているせいかいつもにも増して濃い澱んだ空気に覆われているようだ。曇った空はさらに沈んだ感覚をもたらせ、まるで死人の村のような感じになっている。今日も説得をしに更科家に来たのは太助ではなく、村で村長の次に権力を持つ老人だった。もはやどんな手を使ってでも鈴を生贄に捧げようと息巻いてやってきたのだが、それは徒労に終わってしまった。あれほど頑なに生贄を拒んでいた五郎たちがあっさり折れたのだ。やはり村の人たちを犠牲には出来ないと泣きながらそう返したのだった。鈴も自分の運命を受け入れているのか、幼いながらに気丈に振舞っているほどだ。老人は喜びながら帰路につき、別室でそのやりとりを聞いていた弓華は虫唾が走るのを堪えるのがやっとだった。幼い子供を犠牲にすることがそんなに嬉しいのか、村のためにと誰も戦おうともしない事実に嫌悪感すら覚える。奉納の準備が進められる中、司と来武は先日埋めた藁を掘り出すべく作業に向かっていた。幸いにも陽が出ていない分暑さはましだったが、それでも汗だくになる。掘り出された藁に1つ1つ丁寧に左手をかざした司はそれを縁の下に隠すようにしてみせた。人の目から逃れるためかと思ったがどうやら違うらしい。これをどう使うのか知っているのは司と来武だけであり、弓華ですらそれを知らない状況だった。そして夕方になり、ぞろぞろと人が五郎の家に集まってきた。鈴は井戸の水でお清めをするということで何度も冷水をあびせられた。背中にまで伸びている髪を結い、白装束に身を包む。さらに薄く化粧までされ、見ている弓華にしてみれば生贄というよりも花嫁に近い印象を受けた。若い女性、しかも幼い処女しか好まぬ異常な神への奉納品、まさしくそれは穢れなき体と魂とを持った少女がお似合いだとも思えるほどに。気丈に振舞う五郎とは違い、響子は泣いていた。作戦を全て知っていながらも大事な娘を危険な目にあわせてしまうことは忍びない。今は司を信じるしかないのだが、不安が大きいのも否めない。そして夜になり、鈴は少しばかりの米と水だけを食し、村長の家へと連れられていく。両親は家から出ることは許されず、刀を所持した見張り役の屈強な男たちが居間で2人を監禁するようにして佇んでいるのだった。最後に振り返った鈴は微笑んでいた。そこには微塵の恐怖も感じられない。司を信じている、そんな強い意志がそこにあった。だから五郎も響子も腹を括った、信じよう、司を、娘の無事を、と。



「嫌すぎる・・・」


月も出ていない薄暗い中、司が差し出したそれを見た弓華はうんざりしたようにそうつぶやいた。


「さっさとしろって」


既に司と来武は掘り出して縁の下に隠していた藁の敷物をマントのようにして身に着けている。土と湿気の嫌な臭いを含んだそれを受け取った弓華は渋々ながらそれを纏った。濃くなるその臭いに吐き気がする。たった1日埋めていただけでこうまで湿気臭いにおいがするものなのだろうか。


「で、これで何の効果があるの?」


臭いを吸わないようにと鼻を押さえてそう言う弓華に司は小さく微笑んで見せた。


「神様に俺たちの存在がバレないようにする。臭いに敏感なはずだからな」


ニヤリと笑ってそう言う司に弓華はおろか来武すら驚いた顔をしてみせた。


「お前、相手の正体を知ってるのか?」

「まぁね」

「これを準備するってことは山の妖怪的なものだとは思っていたけど・・・正体は?」

「ま、それは出てきてからのお楽しみ。さ、行こう」


にんまり笑ってそう言い、司はさっさと歩き出した。いつもこうな司に慣れている来武はため息をついて後に続いたが、納得できない弓華は憮然とした顔をしつつ歩き出す。相手の正体を知っているのなら教えてくれてもいいはずだ。もったいぶる司にムカつきつつも山へと足を踏み入れていく。そうして社近くの茂みに身を隠すと鈴がやってくるのを待つのだった。

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