生贄の少女 序章
その村は部類的には俗にいう田舎だが、交通の不便を除けばそこまで田舎だというわけではなかった。なのに寂れた感じが否めないのは何故なのだろう。村全体を包んでいる澱んだ空気のせいか、それとも不気味に赤い鳥居のせいか。真新しいほどに赤い鳥居の向こうには山へと続く急な石畳の階段がある。年季の入ったその階段は朽ちているようにも見え、周囲の高い杉の木のせいで暗く、かなり不気味だ。村にあるただ1つのバス停に降り立った武井弓華は身震いを1つしながら村をぐるっと見渡した。澱んだ空気のせいか快晴な夏空が広がっているのにどこか色合いも薄く感じてしまう。父方の故郷なのだが先祖のルーツでしかなく、今はもうここは自分の田舎でもなんでもない。弓華は深いため息をつくと右手をギュッと握り締めつつ胸の方へとやった。昔からこうすると落ち着くからだ。そう、霊感があると自覚したときからしている癖のようなものだ。神社の家に生まれた弓華は生まれつき霊感を持っていた。小学生の頃にそれを自覚し、同じく霊感のある父親のおかげで今では軽い除霊も行える程度にはなっている。だが、そんな自分ではこの村に伝わる古く、そして悪しき伝統を断ち切ることはできないだろう。村中を無数に飛ぶ浮遊霊ならどうとでもなる。だが、村を覆う濃い妖気、そしていい知れない悪寒はどんなに強大な力を持つ霊能者でも祓うことはできないだろうと思う。ただ1人の人物を除いて。16年前にこの村を出たという知り合いの父親からの依頼を受けてここに来たが、自分程度の力ではどうにもならない。それを自覚した弓華はそのまま村を後にした。だが諦めたわけではない。最強の助っ人を連れて戻る、そう強い意志を持っての撤退であった。




